そこには3つもの原子力発電所、福島第一と第二、そして日本原電の東海発電所――が稼働している。なかでも危ないのは、比較的緩い安全基準で初期に建設された福島第一の1号機から4号機だ。これら4基は海抜標高10mという低い位置に建設されているのである。このままでは貞観地震と同等の津波が来たら原発設備が浸水してしまう。

 2007年、原子力発電所の耐震性基準の見直しが原子力・安全保安院で始まった。2007年7月16日に発生した新潟県中越沖地震で、東京電力・柏崎刈羽原子力発電所が事前想定以上に揺れて、火災が発生したことがきっかけだった。

 見直しの中で、既存原発がどの程度の耐震性をもっているかの再検討が行われ、東電は福島第一と第二原発についても報告書を提出した。

 報告書において東電は、貞観地震(869年7月9日、推定マグニチュードM8.3~8.6)よりもはるかに規模が小さい塩屋崎沖地震(1938年11月5日、最大マグニチュードがM7.5)を前提として発電所施設の評価を行い、問題なしとしていたのである。

「貞観地震を前提にすべき」という指摘があった

 総合資源エネルギー調査会・原子力安全・保安部会 耐震・構造設計小委員会の地震・津波、地質・地盤合同ワーキンググループの第32回会合(2009年6月24日開催)で、経済産業省・産業技術総合研究所の地質学者・岡村行信氏がこの問題を指摘していた。貞観地震という巨大な地震が実際に過去に起きており、しかも大津波すら到達していたことがはっきり分かっているのだから、こちらを前提にして検討すべきだ、と、岡村氏は主張した。

地震・津波、地質・地盤合同ワーキンググループの第32回会合の議事録より、岡村行信氏と東電、原子力・安全保安院のやりとりの部分。

 これに対して、東電は「貞観地震は歴史的な被害があまり見当たらない。地震の評価としては塩屋崎沖地震で問題ない」と逃げた。岡村氏は納得せず追求したが、東電はぬるぬるとあいまいな答弁でごまかした。そこで原子力・安全保安院の審議官が東電に助け船を出し、今後きちんと検討するということで、まとめてしまった。

 これが、東日本大震災前、福島第一原発の耐震性を強化する最後のチャンスだった。