Jリーグ2部(J2)に所属するクラブで、会計処理の不正が発覚した。組織力が欠如していたために、チェックが不十分だったと弁明する。4月から新たな体制に移行し、不正を起こさない組織作りを目指す。

豊島 吉博氏[愛媛FC社長]
1951年愛媛県生まれ。73年神奈川大学法学部卒業、愛媛新聞社入社。94年日本サッカー協会常務理事兼事務局長。2006年Jリーグエンタープライズ社長。2013年愛媛県サッカー協会会長に就任。引責辞任した亀井文雄前社長の後を受けて、2015年3月から愛媛FC社長を兼任。

愛媛FCの不正会計の概要
2013年に導入された「クラブライセンス制度」では、3期連続で赤字か2014年度以降に債務超過となれば、Jリーグの参加資格が交付されない。それを恐れた経理担当者が会計を操作し、赤字決算を黒字に見せかけた。現金残高と帳簿が合わないことから、クラブが調査して発覚。亀井文雄前社長ら役員が引責辞任。Jリーグは愛媛FCをけん責処分とし、制裁金300万円を科した。

 粉飾決算が発覚し、応援してくださっているファンをはじめ、様々な方々にご心配をおかけしております。

 私は粉飾の発覚後に社長となりました。ただ日本サッカー協会や愛媛県サッカー協会などで長くサッカーと関わってきたので、愛媛FCの状況もよく聞いておりました。一言で表現すれば放漫経営です。もうこれに尽きます。普通の会社なら当然ある承認プロセスがなく、組織として未熟でした。

 決算の粉飾の内訳は、2012年度に3362万円の赤字だったところを51万円の黒字、2013年度も5984万円の赤字を153万円の黒字としていました。修正後の決算が債務超過でなかったのがせめてもの救いです。

 不正処理を行った経理担当者は昨年10月に退職しました。税理士の先生などに調べていただいたところ、担当者個人の使い込みなどはなく、動機はJリーグの規則にありました。3年連続で赤字(当期純損失)を計上すると、リーグに参戦できなくなります。そのプレッシャーがあったのでしょう。担当者1人がすべてを背負い込むことになり、彼には気の毒なことをしました。

 粉飾の手口は、架空の売り上げを計上するというものです。Jリーグの監査もくぐり抜けていたのですから、巧妙な手口ではありました。

現場の事務局にしわ寄せが

 では、なぜこのような会計の不正処理ができたのか。原因として、組織力の欠如が挙げられます。

 組織図上はしっかりとしていますが、実体を伴っていませんでした。まず常勤の取締役は、副社長1人しかいませんでした。社長でさえ常勤ではなかったのです。前社長の亀井文雄氏は、鉄鋼の卸会社を経営する傍ら、愛媛FCを経営しておられました。事務所は近くにありますが、本業が忙しかったのか目が行き届かなかったようです。

 社長のほかに6人の役員がいましたが、専務や常務などは名ばかり。常勤の副社長も、他チームとの会合に責任者として出るための肩書だったようです。監査役は2人いました。東証1部上場企業の社長経験者と地元の有名企業の社長です。決算書を渡された時に、パッと見ただけで判子を押していたのでしょう。黒字決算ですから、きちんと読んでいなかったと思います。

 現場を仕切る事務局も、人が足りていなかったからか、雰囲気が悪かったと聞いています。現場のスタッフは1人で何役もこなさなければならず、多忙でした。相談する余裕も自由闊達な雰囲気もない。ですから、経理担当者も赤字になりそうだと分かった時に上司や同僚に相談できなかったのでしょう。言葉は良くないですが、「ブラック企業」でしたね。

 ですが、社員たちは本当に真面目です。組織さえしっかり作り直せば、再生できるのではないかと思いました。

 このような言い方が正しいのか分かりませんが、こうした未熟な組織の問題は地方のスポーツクラブならどこにでもある課題だと思います。ほかのサッカーチームからも、「今回は愛媛FCで起きたけど、うちでも十分あり得る話だ」と言われました。

 どうしてもスポーツチームは選手が優先です。優秀な選手を獲得するために費用がかかります。資金力が乏しい地方のスポーツチームであるほど、裏方にしわ寄せが来ます。

 再生に向けて、4月から組織をてこ入れしました。出資者のご協力を仰ぐことにしたのです。

 愛媛FCは愛媛県のほか、20の市町村から出資を頂いています。自治体から出資を頂いているサッカーチームは全国でもそう多くはありません。

 太陽石油や三浦工業など民間企業にもスポンサーになっていただいています。これらの出資者から人材を派遣してもらうことにしました。各社の部長級を出してもらい、副社長や各現場の責任者に就いてもらいます。

 経理の不正処理ができないように総務関連は松山市から、副社長は伊予銀行から派遣してもらいました。銀行マンや行政マンの厳しい目で不正が起きないように、オール愛媛で立て直します。自治体から職員を派遣していただくのは、ハードルが高かったですね。知事をはじめ、皆さんに腹をくくっていただけました。

国内のプロサッカーリーグ、Jリーグ2部(J2)に参戦中の愛媛FC。地域に密着して地元の住民に愛されるチームを目標に、組織の再生を図る(写真=アフロスポーツ)

地元に愛されるチームに

 こうして、まずは普通の会社を目指します。その先に見据えているのが、県民に愛されるチームとなり、四国で1番になる。さらに、地方のクラブでナンバーワンを目指します。

 地方クラブでは今、ヴァンフォーレ甲府さんや松本山雅FCさんが先頭を走っています。売り上げの規模ではなく、地元にしっかり根付き、愛されていることがポイントです。我々と同じJ2でも、セレッソ大阪さんやジュビロ磐田さんなど、資金力のあるビッグチームもあります。私たちは甲府さんや松本さんのようなチームを目指したい。しっかりと地元に愛されるよう、自治体とも連携していきます。

 決してJ1に昇格して優勝することを一番の目的にはしていません。それなら、もうやめた方がいい。Jリーグの理念でもある地域密着から外れてしまいますから。

 2015年のシーズンも始まりましたが、主催試合の観客動員数は過去最低の水準です。粉飾決算が影響しているようです。これは真摯に受け止めなければならない数字です。

 この数字が象徴するように、入場料収入が売り上げの柱になっていません。四国は野球の町です。本になるほど高校野球が盛んです。近隣の住民の方々が野球場で練習を見学している。そんな風景が日常的にあります。

 今年は(私の母校でもある)松山東高校が甲子園に出場し活躍しました。地域住民の日常会話に野球の話題は欠かせません。サッカーもそうなりたい。

 私は就任早々、愛媛FC100年計画を作りました。私は愛媛県サッカー協会の会長も務めています。プロサッカークラブの社長との兼務は全国的にも珍しいと思います。サッカーは野球と比べてプロとアマチュアの垣根が低いスポーツです。2つの組織が一体となり、連携して地方ナンバーワンを目指していきます。

日経ビジネス2015年6月1日号 96~97ページより目次

この記事はシリーズ「敗軍の将、兵を語る」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。