(写真=菊池 くらげ)

 大手企業からなかなかイノベーションが生まれてきません。革新的だった企業も大きくなると、過去の延長線上で物事を考えるようになり、社員は効率のいい歯車になる。まったく新しい製品やビジネスは既存の顧客との関係を壊しかねないから、あえてイノベーションが起きないようにしていると言ってもいい。こうしたしがらみと無縁の小さな組織の発想を、大手になっても生かし続けられるかが、企業発展のカギだと思うのです。

 それを痛感したのが1990年代前半、米ベンチャー企業からの技術導入にこぎつけた経験です。当時、私は新設された電子画像事業室の企画課長でした。本業のカメラ事業から比べると、とても小さな組織でしたが、「ほかの部署へ自由に指示を出しても構わない」という、幅広い権限を持たされていました。

 この米企業が開発したのが、パソコン本体に差し込んで持ち運びできる、超小型のフィルムスキャナーです。その頃、スキャナーは据え置きの大型が主流でした。ランプをフィルムに照射して画像を読み取るのですが、その際の発熱を冷却する装置が必要だったからです。

大手から革新が生まれない 小さい組織の新しい発想を 大切にしていきたい

 この米社製品は、ランプではなくLEDを採用するアイデアで冷却装置を不要にし、一気に大幅な小型化に成功。画質は大型より悪いですが、業者にいちいちお願いしなければならなかったスキャンがどこでも可能になります。スキャナーの使い方を根底から変えるコンセプトが、私はとても気に入りました。ところが、社内でその技術導入を提案したら、開発チームから「画質に問題がある」と反発を受けました。これまでカメラやスキャナーは、画像がいいほど売れるはずと信じてやってきたのですから、当然でしょう。私は「自分たちの価値観で判断するな」と強く主張。結局、社内で技術導入を認めさせたんです。

 そして、ニコンの生産技術を組み合わせて商品化し、持ち運べるスキャナーという、新たな収益源となる市場を生み出しました。もちろん当時、ニコンは既にカメラ大手でしたが、小さい組織や個人の言うことに耳を傾ける大切さを、よく分かっていたのだと思います。開発から販売まで、少人数でなんでも手がけるから、人材も育ちました。大手でもイノベーションでリードできたんです。

 90年代終わりの、フィルムからデジタルカメラへの移行の際も猛烈な議論になりました。やはり、問題になったのはデジカメの画質の悪さ。その頃デジカメを担当していた私たちは、「画質を超える違った価値がある」と主張し続け、社内の多くを占めていた画質優先派を、少人数の部隊で説得。その後、経営の柱はデジカメへとシフトしました。デジカメの画質は飛躍的に改善していったのですが、当時、あくまでフィルムにこだわっていたら、今頃どうなっていたでしょうか。

 そのデジカメも今、カメラ付きスマートフォンに市場を侵食され、苦戦しています。ネットワーク社会になる中で、カメラはどうあるべきか、まったく違った発想が求められています。小さい組織や個人から生まれる革新的で破壊的なアイデアを大切にし続けられているかどうか。今一度、見直すべき時期が来ているのかもしれません。(談)

日経ビジネス2015年6月1日号 1ページより目次

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