チョークは手に触れる部分を被膜しています。正しい使い方をしていただければ、手に汚れが付くことはないのです。実際、先生の中にはチョークをケースに入れて持ち歩いておられる方もいます。

 それから、粉が舞ってしまうのもチョークのせいではなく、黒板消しによるものです。私自身が技術開発に忙しく、正しい使い方を伝える広報活動に力を入れることができませんでした。

渡部社長が開発したチョーク製造機。様々な機器を流用して、20年以上かけて自作した。年間4500万本を製造し、自主廃業発表後も注文が殺到している

 こうした理由で2014年の夏ごろに自主廃業を決めました。今なら債務もなくて、社員や家族に迷惑をかけることなくやめられると決断しました。3代続いたので決めた時は寂しかったです。

 自主廃業を決めてから、お客様にご迷惑をかけない形にするにはどうすればいいかを考えてきました。

 まず考えたのは、会社ごと売却することです。羽衣ブランドを残した方がチョークが売れると考えたのですが、うまく話がまとまりませんでした。

 実を言いますと、チョークの製造機械なんてどこも作っていませんので自作です。製造装置は私と既に退職した専務の2人で試行錯誤を重ねて開発したものです。原材料を混ぜる工程には小麦粉などを混ぜ合わせるための機械を流用しました。

 チョークの形に成型する機械は瓦の製造機を基に作ったものです。20年以上かけて改良を重ねた機械ですから、私にとっては自分の子供のような存在です。3台ある機械だけでも引き取ってもらえないかと動きました。

 1台は近くの同業者が手を挙げてくれました。主力が黒板のメーカーですが、最近チョークにも力を入れ始めています。「本人が希望すれば」の話ですが、社員の受け入れもしていただけることになりました。

 残り2台は韓国へ渡ります。韓国とはもともと、取引がありました。私どもの評判を聞きつけて塾の先生が輸入業を始めたのです。我々が廃業すると困るでしょうから、機械を譲渡することにしました。

 ただし、チョークは機械だけを得られても簡単に作れるものではありません。7つの原材料をどう混ぜ合わせればよいのかを記したレシピがあります。書き味が良くて、折れにくくするための絶妙な配合があるのです。このレシピは愛知県春日井市の工場の環境で最適化したものですので、海外へ持っていくと微調整が必要になります。来年以降に私自身が韓国へ出張してノウハウを教えたいと思っています。800坪ほどある本社工場の売却交渉も進んでいます。もう会社は片付き始めています。

 2015年の初めはまだ忙しいでしょうが、やっぱり寂しいです。まあ50年近くやってきて、教育に少しでも貢献できたのならうれしいですね。

日経ビジネス2014年12月29日号 120~121ページより目次
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