チョーク製造大手の羽衣文具は2015年春に自主廃業する。教壇に立つ教師からは、品質の良さで絶大な信頼を得てきた。だが、ホワイトボードや電子黒板の台頭など、時代の変化の波に逆らえなかった。

[羽衣文具社長]渡部 隆康氏
1944年2月愛知県生まれ。66年愛知工業大学工学部応用化学専攻卒業。67年に羽衣文具に入社。75年常務取締役を経て、90年から現職。日本白墨工業組合の理事長を10年以上務める。研究開発にも熱心で、製造機を自作したり、色覚障害者向けのチョークを手掛けたりしてきた。

羽衣文具の自主廃業の概要
創業82年の老舗チョークメーカー、羽衣文具は2015年3月で販売を休止すると発表した。チョークや黒板の市場規模の調査はないものの、学校の統廃合や電子黒板の導入などにより縮小傾向にある。羽衣文具は既に一部商品の受注を打ち切った。技術を継承するため、機器を国内と韓国の同業者へ譲渡する。日本では来年4月に羽衣文具と同等の商品が発売される予定。

 羽衣文具はチョークを作り続けて82年になりますが、このたび自主廃業することになりました。10月に廃業の発表をしたところ、大きな反響を頂きました。ツイッターでも話題になっていて、びっくりしています。

 品切れ前に買いだめしたいというお客様も多く、ファクスや電話が鳴りやまず、注文に追いつけません。そのため、一部の商品については受注を停止しています。当初は2015年2月末で生産をやめて廃業する予定でしたが、社員とも話し合って、計画よりも延長し、3月まで生産を続けることにしました。それから後片付けをしようと思っています。

 ありがたいことに、私どものチョークを愛用していただいている先生がたくさんおられます。全国の小中学校や高校のほか、河合塾や代々木ゼミナールなど大手予備校の先生方にも使っていただいています。「今でしょ」の決めぜりふで有名になられた林修先生も愛用していただいていると伺っています。

 私どもが作るチョークは、書きやすくて折れにくい点を先生方に評価していただいています。手で折ろうとしても、なかなかポキッとは折れません。黒板にチョークで書く文字には味があると言いますか、良さがあります。「止め」や「はらい」などを奇麗に表現できます。

市場がピーク時の半分に

 こうした人気商品がありながら自主廃業に至った理由はいくつかあります。

 まず、私自身の体調です。数年前から体調が悪く、入院もしました。子供は娘ばかりな上に、社内にも後継者はいませんでした。ここ数年は営業赤字が続く衰退産業でしたから、子供たちに後を継いでほしいと言える状況でもなかったのが実情です。

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