今年7月。ソフトバンクグループ最大の法人向けイベントで基調講演に立った社長の孫正義は、満足そうな笑みを浮かべていた。「世界最大の複合企業である米ゼネラル・エレクトリック(GE)さんと、ビッグデータ活用を全世界に広げていきます」。

(写真=Getty Images)

 孫の背後にあるスクリーンには、GEとソフトバンクの巨大なロゴが並んで映し出されていた。日米の産業界を代表する両社が提携へと動き出したのはその約8カ月前、2013年晩秋のある朝のことだ。

 その場の2人の意気投合ぶりは、同席したソフトバンク幹部が目を丸くするほどだったという。

 孫が都内に会食に招いたのは、GEの会長兼CEO(最高経営責任者)、ジェフ・イメルトだ。約15年前、イメルトがまだGEの次期CEO候補だった当時に知り合った2人は、これまでも会合やゴルフを重ねて親交を深めてきた間柄。しかし、この日、イメルトが切り出したある話題に、孫の目はいつにも増して輝いた。

 「インダストリアル・インターネットを広めたいと思っている。マサさん、一緒にやらないか」。イメルトは、今まさに自らが推進するGEの大がかりな変革の全体像を孫に披露すると、ソフトバンクとの協業を働きかけた。

 孫は、二つ返事で応じた。「ぜひ手伝わせてほしい。我々が組めば一気に顧客を増やせる」。それからわずかひと月余り、2014年が明けると同時に、GEとソフトバンクは共同で検討チームを発足。世界が最も熱い視線を浴びせる2人の巨人が、壮大なビジョンを共有して走り出した瞬間だった。

立ち止まれば覇権を失う

(写真=Getty Images)

 航空機エンジンや発電用タービンといった産業機器で他を圧倒するGEの覇権に、陰りは見られない。2013年度の売上高は1460億ドル(約17兆円)、営業利益は169億ドル(約2兆円)に達する。2008年秋の金融危機後は金融やメディアなどの非中核部門を縮小し、製造業シフトを進めてきた。

 だが、イメルトが見据えるGEの未来像は、単なるものづくり企業への回帰とは似て非なるものだ。

 「モノ」と「データ」が融合する21世紀の産業革命──。GEは、自らが旗を振るインダストリアル・インターネット(産業のインターネット)を、こんな言葉で表現する。

 主力のエンジンやタービン、鉄道車両などに無数のセンサーを組み込み、顧客の現場での稼働状況をリアルタイムに監視。その膨大なデータを解析し、故障の予防や稼働効率の向上につなげるのが、インダストリアル・インターネットだ。収集したデータはGEの開発プロセスにも反映され、製品設計の最適化へと結びついていく。

 ハードウエアとしての機器を売るのが製造業の第1段階、製品の販売後も保守などで稼ぐ“サービス化”が第2段階とすれば、インダストリアル・インターネットはGEにとって3度目の抜本的な事業モデル刷新と言える。データ解析とソフトウエアの力で製品やサービスの顧客価値を飛躍的に高める、文字通りのものづくり革命なのだ。

 GEを自己変革に突き動かすもの。それは、この20年間、ネットとソフトが消費者向け産業にもたらした破壊的インパクトへの危機感に他ならない。

 「アマゾンが小売業者を破壊し、アップルが音楽業界を破壊したように、GEが変わらなければ、いずれ産業機器も同じ道を歩む」。GEソフトウエアのバイスプレジデント、ビル・ルーはこう口にしてはばからない。

 激変する市場への恐怖感は、ソフトバンクにも共通する。国内の通信事業で高収益を上げる同社だが、これから待ち受けるのは、機械やクルマなどあらゆるモノがネットにつながる世界。端末や接続方式が乱立する新市場で、携帯通信事業者にこれまでの居場所が残る保証はどこにもないのだ。

 座して激流にのみ込まれるくらいなら、次なる産業革命の牽引役に回るべく、手を携えて闘う。歴史の長さこそ違えども、共に創業以来幾度となく自己変革を繰り返してきた企業のトップとして、孫とイメルトの間には共鳴するものがあったに違いない。

 GEのインダストリアル・インターネットの根幹をなす技術。それは、同社が独自に開発したソフトにある。航空や電力、病院など様々な顧客企業から集まる膨大なデータを解析、新たな価値を引き出すための道具だ。

 ソフトバンクと組んだGEの最大の狙いは、このソフトをカスタマイズして外部企業にも提供していくことにある。中核的な技術をあえて他社に開放する戦略には、GEのしたたかで壮大な野望が潜んでいる。

あらゆる業種のノウハウを蓄積

 センサーから集まるビッグデータの価値は、機械の保守や効率改善にとどまらない。食品や日用品のメーカー、インフラ企業などあらゆる業種で、在庫や物流の最適化、需要予測に威力を発揮し得る。そこでの解析を担うソフトを多くの企業に提供すれば、データ解析を通じて、GEには様々な業界のノウハウが集まってくる。その蓄積は将来、GEのものづくりをさらに輝かせるだろう。

 「これはすごい。驚きの連続だ」

 今年8月、GEが米シリコンバレーに構える拠点にソフトバンクが派遣した3人の担当者は、興奮気味に本社にリポートを送ってきた。

 派遣されたのは、ソフトバンク社内でも先端技術に明るいメンバー。その彼らが2週間の滞在で目の当たりにしたのは、想像を超えるスピード感と先進的な開発アプローチだった。どこを見回しても、伝統的な重厚長大企業GEのイメージとの類似点はなかった。

 実は、この開発手法こそ、イメルトが進めるGE改革の真骨頂だ。

 設計段階から顧客との対話を重ね、修正を繰り返しながら素早く製品化に結びつける。さらに、社員の行動や会社の文化も、市場の変化に即応した新たなものへと作り直す。GEは「ファストワークス」と名付けたこの活動を最近全社で展開し始めた。

 トーマス・エジソンの創業から130年余り。常に「自らを変える」ことで産業界に君臨し続けてきたGEが挑むものづくりの刷新は、製造業の定義を根底から見直す大胆な変革だ。PART 1では、その全貌を見ていこう。=敬称略

日経ビジネス2014年12月22日号 30~31ページより

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