液晶への過剰投資が原因で、経営危機に陥ったシャープ。復活に向けた新規事業の創出にいち早く取り組むのが白物家電部門の田村友樹だ。5年後、10年後を見据えた新たな事業の「種」が生まれつつある。

(写真=山田 哲也)
INNOVATOR 05
シャープ健康・環境システム事業本部副事業部長
田村友樹(たむら ともき)
1964年奈良市生まれ。大学時代はヨット部で主将を務めた。卒業後、シャープ入社。以降、白物家電の技術開発・企画に従事。2014年10月から現職。

 「お茶専用機というコンセプトだけは譲れません」

 2013年夏。シャープの白物家電部門で開かれた企画会議。新規商品開発を指揮していた田村友樹は、本部長の沖津雅浩と対峙していた。

 提案したのは、市販の茶葉を粉末状にすりつぶして「粉末茶」を作り出す“お茶メーカー”。前代未聞の商品だけに会議は紛糾した。「お茶は急須で入れるのが日本1000年の常識。こんな商品誰が買うんや」「すりつぶしたら茶柱が立たんやろ」「お茶だけでなくコーヒーは作られへんのか」──。幹部からは容赦ない声が飛ぶ。だが、田村は一歩も引かない。ダメ出しをされても、“お茶メーカー”の魅力を企画会議で訴え続けた。

 最後は沖津が根負けした。こうして世に送り出された商品が、経営危機からの再建を目指すシャープで、久々のヒット商品「ヘルシオお茶プレッソ」だ。

 発売時の価格は約2万5000円と高額。だが、蓋を開けると今年4月末の発売から品薄状態が続き、10月末時点で計画の5倍となる10万台以上を売り上げた。今や社長の髙橋興三をはじめ多くの幹部が新たな事業の「種」として期待を寄せている。

社内でも有数の頑固者

 「社内で有数の頑固者」(沖津)である田村。その頑固な性格で斬新な商品を生み出してきた。

 企画会議でのダメ出しを受けると、その日のうちに大胆な路線変更を決断する。ヘルシオお茶プレッソでは、当初、「おうちでカフェ」というコンセプトだったが、最終的に「健康」と「和」を前面に押し出す路線に変わった。

 「これは」と思う商品を何としても世に出そうとする田村に周囲はいつも振り回されっぱなしだが、「不思議な説得力があり、不満は抱かない」と部下の村井更紗は話す。

 自分が見込んだ商品のためには、社内の前例も次々と否定する。2012年に発売した低速ジューサー「ジュースプレッソ」の開発では、基幹部品であるスクリューを海外メーカーからライセンス提供を受けることを決めた。自社技術にこだわりを持つシャープでは極めて珍しい判断だが、「より良い商品を作るためには当然の判断」と意に介さない。

 2011年以降、新規商品の開発プロジェクトを指揮してきた田村。今年10月からは副事業部長として調理家電事業全体を任されるようになり、部下の数は10倍以上に膨らんだ。本部長の沖津は「頑固で諦めない根性を多くの人に伝えてほしい」と期待する。

 最初の大仕事は、主力商品である過熱水蒸気を使ったオーブンレンジ「ヘルシオ」のテコ入れ。世間を驚かすための秘策を練っている。

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日経ビジネス2014年11月24日号 34ページより

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