1910年代から70年にわたって、奇妙な味わいをたたえた独自の「形而上絵画」を展開したデ・キリコ。日本の愛好家も多く、村上春樹氏が著書の中でファンになったと述べるなどインテリ好みの画家として名高い。

『古代的な純愛の詩』
実際の制作年ではない1942年のサインが入る。原点回帰の姿勢の表れ
油彩・キャンバス/1970年頃/パリ市立近代美術館蔵 © Musée d’Art Moderne de la Ville de Paris / Roger-Viollet ©SIAE, Roma & JASPAR, Tokyo, 2014 E1216
『謎めいた憂愁』
死者の魂を冥府に導く神ヘルメスが描かれ、全体を謎めいた雰囲気に
油彩・キャンバス/1919年/パリ市立近代美術館蔵 © Musée d’Art Moderne de la Ville de Paris / Roger-Viollet ©SIAE, Roma & JASPAR, Tokyo, 2014 E1216

 デ・キリコは、古代の彫像や建築物、マネキン、玩具など一見無関係に思われる事物を配置し、日常の裏側に潜む神秘や謎を表現しようと考えた。「その無関係性が鑑賞者に、意味を見いだそうとする好奇心と考えても分からない不安を同時に抱かせる。それが形而上絵画といわれるゆえんで、知識人に好まれる理由でしょう」(パナソニック汐留ミュージアム学芸員の萩原敦子氏)。

 本展では、初期から晩年までの名品約100点を紹介。約8割の作品が日本初公開となる。初期の『謎めいた憂愁』には、画面奥にギリシャ神話の神ヘルメスが描かれ、手前に棒や積み木、ビスケットが入った段ボール箱などが配されている。これらのモチーフはデ・キリコの記憶の中の重要なシンボルだ。「彼はイタリア人の両親のもと、ギリシャに生まれました。その影響で、作品には古代の彫像がたびたび現れます。ビスケットや積み木は、イタリアで見かけ、心揺さぶられたものとの説が有力。あれこれ想像しているうちに絵の中に吸い込まれていきます」(萩原氏)。

 晩年の『古代的な純愛の詩』も、解釈が一筋縄ではいかない作品。彫像はなぜ足だけなのか、魚はどうしてシルエットなのか。デ・キリコの世界は、まるで出口のない迷路のようだ。

ジョルジョ・デ・キリコ ―変遷と回帰
ダリをはじめ、シュールレアリスムの作家に大きな影響を与えた20世紀の画家デ・キリコ。未亡人の旧蔵品を中心に、約100点の作品を通して、初期から晩年まで約70年の画業をたどる。約8割の作品が日本初公開。
場:パナソニック 汐留ミュージアム
東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
☎ 03-5777-8600 (ハローダイヤル)
期:2014年10月25日~12月26日
時:午前10~午後6時 *入館は閉館の30分前まで
水曜休(12月3、10、17、24日は開館)
一般1000円

(文=川岸 徹)

日経ビジネス2014年10月27日号 115ページより目次

この記事はシリーズ「CULTURE(2014年10月27日号)」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。