ロボットベンチャーが集まるシリコンバレーで最も熱いテーマが、つながることによる革新だ。巨大なビジネスチャンスをつかもうと激しい開発競争が始まった。

 「ご要望の品を届けに参りました。ドアを開けてください」──。米シリコンバレーにあるホテルの一室でくつろいでいると、こんな電話がかかってきた。

 声に従ってドアを開くと、高さ約1m、中央がくびれた筒状の形をしたロボットが待ち構えている。頭部のタッチパネルに表示された「受け取り」に触れると蓋が開いた。そこには、5分前に電話でフロントに頼んだクシと消臭スプレーが入っていた。サービスの満足度を入力すると、抑揚のある高い電子音で「喜び」を表現する茶目っ気も見せる。そして、静かに向きを変えてフロントへ戻っていった。

 8月下旬から、カリフォルニア州のAloft HOTELで新型の配達ロボットが働いている。「バトラー(執事)」と呼ばれているこのロボットは、シリコンバレーのロボットベンチャー、サビオークが開発したものだ。

サビオークの配達ロボット。ホテルの中を動き回り品物を届ける。宿泊客が通路やエレベーター内にいる時は端に移動する(写真=林 幸一郎)

 バトラーはホテル内ネットワークと常時、無線でつながっている。宿泊客からフロントに物を持ってきてほしいという要望があったら、すぐに出動だ。エレベーターに乗り込むと、ボタンを押さなくても目的のフロアで停止。乗客を器用に避けながら降り、4つのタイヤで滑るように客室へと急ぐ。

 開発当初は1台約5000万円もした。物をつかめる手が両側にあり、高度な人工知能やカメラなど必要以上の機能を搭載していた。人の言葉をある程度理解し、指示通りに動くこともできた。

 しかしホテルマンに聞くと、「(宿泊し休んでいる客は)ロボットにそこまで求めない」との答え。試行錯誤の結果、運ぶことに特化し、それを確実にこなせる今の形になり、価格も下がった。

 サビオークの創業者メンバーの一人、テサ・ラウ氏は、「単純作業をロボットに任せれば、スタッフをクレーム対応や接客など人間にしかできないことに充てることができる」と言う。だが、単なる「人手の代替」として導入したわけではない。ラウ氏は言う。「複数のロボットと連携すれば、サービスの幅はさらに広がる」。

ロボット同士が連携して作業

 バトラーの勤務は、この先に続く構想の一歩を踏み出したにすぎない。次に狙うのは、それぞれのバトラー同士が連携し、より効率よく自律的にモノを客室へ運ぶ体制だ。部屋数の多いホテルにバトラーが点在していれば、複数のオーダーがあっても効率的にモノを届けることができる。それぞれの位置関係や運んでいるモノ、オーダー件数などの情報をネットワーク上でロボット同士が共有。どのロボットが最も速くオーダーに対応できるのか導き出すことが可能になる。

 ホテル外部のロボットとつながれば、発想はさらに広がる。例えば、客が宿泊中に体調を崩した場合、ホテルに常駐する診察ロボットが表情や体温、クラウドのデータベースなどから病状と最適な薬を判別。薬が売られている最も近い薬局に発注すると、薬局内のロボットがピックアップし、ドローン(小型無人飛行機)に引き渡す。ホテルの玄関で待っていたバトラーがドローンから荷物を受け取り、部屋に届ける。

 夢物語のようにも聞こえるかもしれない。だが、現地のロボットベンチャーたちは、こんなアイデアの実現へ向けて、真剣に動き出している。

人型ロボットとは全く違う

 シリコンバレーではロボット市場に参入するベンチャーが増えている。ロボットは今、シリコンバレーで最も熱いテーマの一つだ。

 しかしそれは、我々日本人が見慣れた人型ロボットのイメージとは全く違う。彼らが狙うのは、ロボット同士がインターネットを通じてつながり、連携することで新たな価値を生む社会。すなわち、「スマートロボット(スマロボ)」と共生する社会だ。

 サンフランシスコのベンチャー、ボサノバ・ロボティクスも、スマロボの生態系の一翼を担おうとする一社。多種多様なロボットが役割分担する社会が来ると信じるからこそ、特定の機能を磨き上げている。手掛けるのは1本足ロボットの「モビ」だ。

ボサノバ・ロボティクスが開発した1本足ロボット「モビ」。手のひら大のボールが体を支えて動き回る(人物は同社のマーティン・ヒッチCEO)(写真=林 幸一郎)

 小さなボールの上に高さ約1mの細長い円柱が乗っかったような姿をしている(上写真参照)。ボールは回転して、機敏に方向転換できる。傾きを検知する高精度なジャイロセンサーを搭載し、巧みにバランスを取りながら最高時速7kmで走る。狭い場所でも小回りを利かせて移動できるのが特長だ。

 スマロボ生態系の中で、一体どんな役割を担うのか。「オフィスや空港、美術館など、人が多い場所で活躍できる」。マーティン・ヒッチCEO(最高経営責任者)は言う。最有力と位置付けている舞台は、激烈な生き残り競争が繰り広げられる、米小売りの最前線である。

 まずは、デパートなどでの案内用途。モビの最上部に搭載したタブレットで客の顔を認識し、ネット上のビッグデータと照らし合わせ、性別や年齢を判別。おススメ商品を画面上に表示する。そして、周囲の人を器用に避けながら商品が陳列してある場所まで客を導く。

 その先には、他のロボットとの連携作業も描いている。例えばあなたが欲しい商品が品切れの場合。「近くの物流拠点で働く別のロボットと在庫の有無を確認し合う」(同氏)。在庫があれば、客がほかの買い物をしている間に、ロボットカーがそれを載せて届ける。日本のようなきめ細かな「おもてなし」をスマロボで実現し、顧客満足度を高めることができるのだ。

 スマロボは、便利な社会だけではなく、安全社会の構築でも重要な役割を果たそうとしている。

 高さ150cm、重量約135kg。米ナイトスコープが開発した「K5」は、周囲を圧倒する存在感を放つロケット型の警備ロボットだ。「セキュリティー分野における初めての革命」。ウィリアム・サンタナ・リー会長兼CEOは言う。

 人が歩くのと同じ程度の速さで一日中動き回る。赤と緑色のライトをチカチカ光らせ、車を避けながら音もなく移動する姿は、犯罪者にとっては不気味な存在に映るはずだ。

ナイトスコープの警備ロボット「K5」。0.025秒ごとに周囲の状況をスキャンし盗難車や不審者を探す。既に米国のショッピングセンターで試験稼働中だ

 K5は1分間に300台のナンバープレートをチェックして盗難車を探し出す。通行人の顔を認識し、ブラックリストに載った犯罪者の顔データと照合しながら重点警備することも可能だ。何かを覗き込んだり激しく動くなどの怪しい行動を発見すれば、近くの警備員に通知する。

 次のテーマは、ドローンとの連携だ。ドローンとK5が役割を分担すれば、地上と上空の双方から不審者を検知でき、犯罪を発見する能力が飛躍的に高まる。K5が不審者や盗難車を見つけ、ドローンがその警告を受け、空から追跡するのだ。

 リー会長は「地域の人たちが互いに助け合える」プラットフォーム作りにK5を活用したいと言う。K5が撮影する映像をネットを通じてリアルタイムで周辺住民に公開するのだ。危険に遭遇した人が映し出された際、近所の人たちが助けに行けるようになる。

 もちろん、常時監視される個人のプライバシーをどう保護するかという問題も浮上する。だが、リー会長はそれを乗り越え、多様なロボットの連携を通じた究極の安全社会を作るつもりだ。

 無論、これらの多くはまだ「構想」段階であり、実現までには技術のさらなる向上や法規制のクリアなどが必要だ。開発コストもかかるため当面赤字のベンチャーも多いだろう。それを覚悟の上で多くの投資会社がロボットベンチャーに資金を投じている。

ロボットが新たな「情報端末」に加わる
●スマロボ生態系のイメージ図
(イラスト=岡田 丈)

 「次世代ロボットはネットにつながり情報をやり取りするだけでなく、ロボット同士が連携して答えを探し、自律的に行動するようになる」。ロボット専用投資ファンド、グリシン・ロボティクスの代表、ドミトリー・グリシン氏もスマロボ社会の到来に期待する。

 これまで投資した8社の大半はシリコンバレーのベンチャー。4社で130万ドルを投じている。「いずれ、世界の数十億人の生活がロボットによってデザインし直される」(グリシン氏)とみている。

 シリコンバレーに集まるのはカネだけではない。ロボットに関する技術者もまた、次々と吸い寄せられている。ネット分野のみならず、ロボット分野でも最大級の求心力を見せつけているのが米グーグルだ。

日経ビジネス2014年9月15日号 30~33ページより

この記事はシリーズ「特集 世界を変えるスマロボ」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。