(写真=村田 和聡)

 企業が成長し続けるには、言うまでもなく様々な逆境や困難を乗り越えていく必要があります。そのために経営戦略や組織をどう組むかも重要ですが、同様に大切だと痛感しているのが人事の重要性です。

 27年も前の1987年末、突然、その半年前に14人の先輩取締役を飛ばして大抜擢された新社長に経営企画室長を兼務するよう命じられました。私は人事部門が長く、人事部長になって1年も経っていなかった上、経営企画室長は歴代、副社長や筆頭専務が就くポスト。ですからお断りしたのですが、「やれ」とのことでした。

 当時、東レは経営課題が山積していました。繊維産業の成熟化が進み、多角化を図ろうと様々な新規事業を立ち上げていましたが、次の成長を担う柱が見えない。加えて円高です。事態打開のために経営企画室長として社内の議論をまとめ、1年、3年、10年と短期、中期、長期の視点から課題を総括した経営ビジョンを策定、その実施に取り組んだのですが、人事が動かない。

 海外の赤字事業や、国内の不振事業、数々の新規事業をどうするのか。調べると、事業の性格や東レの競争力から見れば、改善の余地があるものも少なくない。撤退を決める前に、知恵のある人材に任せれば復活の可能性は十分ある。そこで「これぞ」という候補を人事部として経営会議や常務会に提案するのですが、担当役員から「難しい。その人材は出せない」と断られる。

 年上の役員ばかりということもあり、これが何度も続いた。ある日、社長に直訴しました。「最適人事を実現させない限り、経営計画は絵に描いた餅に終わります。重要人事はトップが決めてください」と。そして人事案を出す時は、社長にその人事がなぜ不可欠か事前に説明しました。

 すると、社長が経営会議で候補の人材を抱える役員に「(その人は)交通事故に遭ったと思え」と言ったのです。「諦めろ」というわけです。そんなことが数度ほど続いたら、私が人事調整に動き出すと「あいつが動き始めたから、もう無理だ」と、役員や事業部長の対応が変わっていきました。

 おかげで不振を極めた事業が立派な事業に変貌したり、成長が急加速した事業がいくつも出てきたりしました。何より「人材を抱え込むのはよくない」「自分の事業だけを最優先するのでなく、会社全体の最適を考える」など、企業風土が徐々に変わり、経営体質の改革にもつながりました。

企業は人が制すもの
  経営活動の急所である
部長人事の差配が重要

 人事と言ってもいろいろありますが、経営活動を支える最大の急所である部長人事については、最適の人材配置が不可欠です。人事部長たるもの、社内のどこにどんな人材がいるのか、その性格、能力、特性、実績について常につぶさに把握し、いつでも経営トップに「その事業ならこの人物に任せるしかありません」と提案できるよう、人事部を戦略的な組織に育成しておく必要があります。

 ですから人事部門と経営企画室の担当役員を兼任した10年は、部長及び部長候補の人事調査票は家に持ち帰って徹底して読み込む一方、社内の情報収集に力を入れました。企業は人が制し、ひいては企業の盛衰を決めるのですから。(談)

日経ビジネス2014年4月7日号 1ページより目次

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