記憶は風化しつつある。東日本大震災の発生から丸3年。だが、現地を歩けば、傷が今なお、癒えていない現実を見る。

 このまま被災地は忘却の彼方へと向かうのか。在りし日の東北は戻ってこないのか──。

震災前、東北は疲弊していた

 ここでグラフを見てほしい。震災前の東北の経済状況を示す指標だ。東北3県の人口動態は下降線をたどり、東北一の経済規模を誇る宮城県ですら、不況型倒産件数、負債総額が長期にわたって改善されず、経済の低迷が続いていた。よりによって長引く不況の最中、東北地方は大規模な破壊に見舞われた。こうしてみると、東北は立ち直り不可能かのように映る。

 だが、希望はある。「大災害は長期的視座に立てば、社会の発展に結びつく可能性がある。既に東北では従来の発想を打ち破るイノベーションが生まれている」。その理由はこうだ。

 近年の日本は、社会の発展を阻む、多くの構造的課題を抱えていた。少子高齢化や産業の疲弊などである。だが、東北では、震災勃発でそれらの問題が、瞬時に目の前に差し迫ったことで、乗り越えざるを得ない状況が生まれた。

 そこに知恵を持つリーダーが現れた。東北では、これら諸問題に果敢に挑み、一定の解決策を見いだそうと奮闘しているイノベーターがいる。

 彼らの挑戦は、始まったばかりだ。その存在はまだ小さいかもしれない。しかし、その芽は大切に育てたい。

 彼らの挑む「東北モデル」がしっかりと大地に根を下ろし、花開くまで。未曾有の大災害を、悲しみと憎しみの対象だけで終わらせないためにも。

 あの美しき東北に、再び輝きを与えようとする7人の物語を紹介する。そこには日本を強くする多くのヒントが隠されている。

=敬称略(鵜飼 秀徳、金田 信一郎、大西 孝弘、染原 睦美、武田 安恵、中 尚子)
(デザイン=藤田 美夏)

CONTENTS

PART1
運命の7人、東北に挑む

PART 2 災害復興の系譜
天変地異から始まった

PART 3 震災イノベーションの考察
尊い犠牲が、新しい日本を生んだ

日経ビジネス2014年3月10日号 26~27ページより目次