10年前に問題視された世界経済の不均衡が大幅に収束した。近年の金融危機はこの不均衡が生み出したのではない。当時の楽観論も悲観論も間違っていた。今後も、不均衡が復活することはなさそうだ。

バリー・アイケングリーン氏
カリフォルニア大学バークレー校教授。国際経済学(特に国際通貨体制)、経済史の第一人者の1人。2011年、ドル基軸通貨体制を見直すべきとする『Exorbitant Privilege』を出版した。

 世界経済の不均衡(グローバルインバランス)が問題視され始めたのは、今から10年前のことだ。特に問題とされたのが、米国と中国の貿易収支、経常収支の慢性的な不均衡だった。

 そして今、喜ばしいことに、不均衡の時代は終わったと我々は宣言することができる。今こそ、あの時代から正しい教訓を導き出す時だろう。

米中の不均衡は大幅縮小

 米国の経常赤字は、2006年にはGDP(国内総生産)の5.8%という驚くべき規模に達していたが、現在はわずか2.7%に収まっている。この水準の赤字であれば、特許使用料やこれまでの対外投資から上がる利益で容易に賄うことができる。対外債務をこれ以上膨らませる必要はない。

 それよりも驚かされるのは、中国の経常黒字の縮小だ。2007年にはGDPの10%という異常な値だったが、今では2.5%でしかない。

 現在も黒字や赤字が憂慮すべき水準にある国はいくつかある。中でもドイツとトルコは突出している。しかし、いずれもグローバルな問題ではない。GDPの6%というドイツの黒字は主に欧州の問題だ。トルコの7.4%の赤字も主として同国の国内問題にすぎない。

 2004年当時、世界経済の不均衡に関する見方は2つに分かれていた。

 楽観派は、不均衡は良性であるとして軽視していた。新興国は、米国のみが供給できるドルを必要としている。その一方で米国の消費者は、新興国が生産する安価な輸入品を飽くことなく求めている。不均衡はその反映にすぎないというわけだ。安価な商品を安全な資産(ドル)で手に入れるのは最良の取引だ。永遠に続く幸運な均衡状態にある──というのが楽観派の言い分だった。

 一方、悲観派は、世界経済の不均衡は将来、必ず事故を招くと警告した。米国の資産に対する新興国の需要は、いずれかの時点で飽和状態に達する。さらに悪いことに、新興国市場が、米国資産はもはや安全ではないと判断するかもしれない。米国は経常赤字を埋める資金を調達できず、ドルは価値を失う。金融機関は不意を打たれ、危機が到来する。

楽観論と悲観論は共に間違い

 我々は今、どちらの見方も間違っていたことを知っている。世界経済の不均衡は、永遠に続くわけではなかった。中国は、安全な資産への需要が満たされると、リスクの高い海外投資に向かった。また貯蓄から消費へ、輸出から内需へと、不均衡の是正に乗り出した。

 その一方で米国も、過剰な債務とレバレッジの危険性を認識し、負債を減らし、貯蓄を増やす方向に進み始めた。この支出パターンの変化を、輸出の増加を可能にするドル安が後押ししている。逆に人民元は、中国国民の消費意欲の増大を反映して、価値を高めた。

 確かに危機は起こった。だがそれは、世界経済の不均衡という危機ではなかった。米国には金融上の問題が数々あったが、対外赤字の穴埋めは問題ではなかった。むしろドルは、危機から恩恵を受けた数少ない要素の1つだった。流動性を強く求める海外投資家が、米国債に群がったのだ。

 危機をもたらした主犯は、米国の金融機関と市場に対する監督と規制の緩さだった。それが金融機関と市場に不健全な慣行を許し、過剰な信用の積み上がりを招いた。金融危機の原因は中国にではなく、米国にあったのだ(ほかの先進諸国も関与した)。

不均衡の裏側に目を向けよ

 金融危機の裏側で、国際的な資本移動が役割を果たしたことは否定できない。しかし、問題となった資本移動は、海外から米国に流入して経常赤字を埋めたネットのフローではなかった。目を向けるべきは、米国から欧州に流れ、欧州の銀行のバランスシートを膨らませたグロスのフローだったのだ。そしてこの資金は、欧州の銀行から米国のサブプライム関連の不良債権に大規模に流れ込んだ。

 世界経済の不均衡を批判した者も、擁護した者も、北大西洋を挟んだこの双方向のグロスのフローを、ほとんど完全に見逃していた。

 世界経済に次の不均衡が訪れる時、アナリストがその裏側に目を向けるだけの見識を備えていることを願わずにはいられない。しかし、果たして次はあるのだろうか。

 数年前には、この危機が過ぎ去った後、世界経済の不均衡が再び生じることは確実だと予測されていた。しかし今、そうなるとは思えない。米国も中国も、危機が起こる前の成長率や支出パターンに戻ることはないだろう。

 貿易の不均衡が以前の状態に戻ることもない。米国の貿易収支は、エネルギーの自給自足を約束するシェール革命と、製造業の生産性向上によって改善するはずだ。

 新興国市場の側も、貿易黒字が必ずしも急成長を保証するものではないことや、巨額の外貨準備が金融の安定を保証するものでないことを学んでいる。

シェール革命が米国の貿易赤字を大きく改善する(写真=ロイター/アフロ)

金融機関への監視が重要

 安定性を高めるには、もっと良い方法がある。金融機関の健全性に関する監督を強化したり、不安定を招く資本移動に税や規制を課したり、為替レートの調整機能を働かせたりすることだ。

 新興国、発展途上国の外貨準備の積み上がりについては、別の問題として、多くの議論が戦わされてきた。だが、以上から推測できるのは、そうした国々の外貨準備高は近く減少に転じるだろうということだ。その時には、外貨準備の問題もまた過去の問題の1つとして葬り去られるに違いない。

国内独占掲載:Barry Eichengreen © Project Syndicate

日経ビジネス2014年1月27日号 90~91ページより目次

この記事はシリーズ「世界鳥瞰(2014年1月27日号)」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。