任天堂、営業赤字 問われる自前主義

 任天堂は2014年3月期の業績予想を下方修正し、これまで1000億円の黒字を見込んでいた連結営業損益が350億円の赤字になると発表した。営業赤字は3期連続となる。売上高も従来予想(9200億円)より3割以上少ない5900億円にとどまる。業績悪化の主な要因はハードウエアの販売不振だ。

(写真=AP/アフロ)

 900万台の販売を見込んでいたゲーム機「Wii U」は280万台にとどまる。大ヒットした「Wii」の次世代機に位置づけられていたWii Uはコントローラーに液晶画面をつけて、テレビを使わずに遊べるといった新たな楽しみ方を提案したものの、買い替えを促したり、新たなユーザー層を掘り起こしたりするには至らなかった。

 Wii Uが失速した一方、2013年に新型機を発売したライバルには勢いがある。米マイクロソフトの「Xbox One」の販売台数は2013年末までに300万台、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の「プレイステーション4(PS4)」は420万台を超えた。ゲーム開発会社の担当者は「ゲームをどの専用機向けに投入するかは販売台数が重要な指標。今のWii U向けにゲームを発売したいとは思わない」と話す。

 任天堂はハードだけでなくソフトも自社で開発する「自前主義」が強い。スーパーマリオブラザーズやポケットモンスターなど自社開発ソフトが人気となって、ゲーム機の販売台数を底上げするのが成功の方程式だった。あるアナリストは「Wii Uの販売が回復するには、人気ソフトが任天堂から登場することが不可欠。(マリオなどを生み出した)宮本茂専務の下で次世代の人材が育っているかどうかにかかっている」と話す。

 コンピュータエンターテインメント協会の統計によると、家庭用ゲーム機の世界出荷台数は2007年をピークに減少の一途をたどっている。

 岩田聡社長は自前主義について以前、「ハードとソフトの両方を社内で作って、お客様が世の中でまだ味わったことのない体験を新たに提案することが任天堂の生命線」と語っていた。その生命線を生かして浮上することができるだろうか。

(西 雄大、佐伯 真也)

10年生存率43% “短命”な日本車

 2013年の国内の新車販売台数の統計が出揃った。モデル別の1位はトヨタ自動車のHV(ハイブリッド車)「アクア」で、初めて首位を獲得。2位には同「プリウス」が入り、HVによるワンツーフィニッシュとなった。

 軽自動車の躍進に目が行くが、「ブランドの寿命」という観点でこのランキングを眺めると別の側面が見える。

 「アクア」が発売されたのは2011年。3位のホンダの「N-BOX」も、2011年に投入された新しいモデルだ。上位10ブランドを見ると、初代モデル販売から2013年までの「平均年齢」は15.5歳。2013年の上位30モデルのうち、2003年のランキングでもトップ30に入っていたのは13車種のみ。10年後の生存率は43%にすぎない。

順位車種名
メーカー
初代モデル
発売開始年
1アクア
トヨタ自動車
2011
2プリウス
トヨタ自動車
1997
3N-BOX
ホンダ
2011
4ムーヴ
ダイハツ工業
1995
5ワゴンR
スズキ
1993
6フィット
ホンダ
2001
7ミラ
ダイハツ工業
1980
8ノート
日産自動車
2005
9タント
ダイハツ工業
2003
10アルト
スズキ
1979

 これまでも日本の新車市場におけるブランドの「短命化」が指摘されてきた。メーカー数が多いために競争が激しく、コンセプトやモデル名を頻繁に変えなければ、消費者の印象に残らないという事情があるためだ。ただ、それは他国の市場でもさほど変わらないはずだ。

 米国の2013年のベストセラーは、1948年に初代モデルが発売された米フォードのピックアップトラック「Fシリーズ」だ。米国のベストセラー上位10モデルには、2003年以降に投入された車種は存在しない。ランキング上位10ブランドの平均年齢を計算すると30.9歳となる。実に日本の2倍だ。

 日本の自動車メーカーはこれまで、5年前後でフルモデルチェンジするのが一般的とされてきた。そのサイクルは欧米メーカーよりも短く、モデルチェンジを機に改名することも多い。時代に応じてブランドを次々に作り替えることは、消費や技術のトレンドに対応するという側面もある。一方、長い目で見てブランドを育てる視点が薄まり、ブランドを使い捨てにしてしまっているとも言える。

 以前に比べ、日本車の性能や品質面での優位性は薄れており、クルマのコモディティー化がさらに進むだろう。ブランドはこれまで以上に重要になってくる。日本の自動車メーカーにとっては、ロングセラー作りが大きな課題となりそうだ。

(熊野 信一郎)

西武HD再上場に米ファンドの事情

 西武ホールディングス(HD)が1月15日、東京証券取引所に株式再上場を申請した。早ければ3月末にも認められる見通しだ。

 「株式の上場は経営の最重要課題。引き続き、早期に良い形での実現を目指していく」。西武HDの後藤高志社長は2014年の年頭訓示でこう語っていた。「良い形」が従業員や地域社会にとってはもちろん、発行済み株式の35%超を握る筆頭株主の米ファンド、サーベラスとの関係に対するものであったことは想像に難くない。

 サーベラスとはこれまで、不採算の鉄道5路線やプロ野球・埼玉西武ライオンズの存廃を巡り見解の相違が続いていた。しかし、2014年3月期の連結営業利益は過去最高の水準となる見込みで、西武HDの業績が好調なことが両者の対話を推し進めた。

 早期の株式再上場にはサーベラス側の事情があることも否めない。

 アベノミクスや世界的な金融緩和への期待感を背景に盛り上がってきた日本株全般の先行きに不透明感が漂い始めている。サーベラスが世界で運用しているファンドは約220億ドル(2兆3000億円程度)。このうち西武HDには1200億円を投じている。

 ファンドの主要顧客は企業年金や公益財団など、10年単位で資金を運用する機関投資家だ。投資した企業の経営に直接関与してじっくりと育てることで定評のあるサーベラスといえども、「東京市場の熱気が冷めやらぬうちに西武HDの売却益を確保したい」という気持ちが強かったということだろう。

 しかもサーベラスは2008年に人材派遣大手の旧グッドウィルグループの再建を手がけて以降、日本では新規の投資先を決めていない。サーベラス幹部は「本社に(投資先の候補を)リストアップしている。でもなかなかゴーサインが出なくて」と語る。西武HDの株式再上場は投資が実を結ぶ、残り少ない案件でもある。

 西武グループの元総帥、堤義明氏らによる有価証券虚偽記載などで上場廃止になったのは2004年12月のこと。あれから10年弱、「(株式再上場は)1つの通過点」と後藤社長が語るように、西武HDの経営は新たなステージに入ろうとしている。

(清水 崇史)

昨年末、西武ホールディングスの後藤高志社長は運行現場の視察のために西武鉄道の所沢駅を訪れた。再上場により、西武HDの経営は新たなステージに入る(写真=的野 弘路)

「第3のOS」見送り ドコモ、変心の代償

 「サムスンにとって、今回の決定はプラスでもマイナスでもある」

 NTTドコモが韓国サムスン電子などと開発を進めていたスマートフォン向け新OS(基本ソフト)「タイゼン」の導入を見送ったと主要メディアが一斉に報じた1月17日。サムスンの関係者はこんな思いを打ち明けた。

 スマホ市場で世界最大手に上り詰めたサムスンが攻略に手こずっているのが日本市場だ。主力の「ギャラクシー」シリーズでさえ思うように浸透しないのに、さらにタイゼン搭載端末を投入したとしても「ユーザーを混乱させるだけでブランドを訴求できない」(同関係者)恐れがあった。

 米アップルの「iOS」と米グーグルの「アンドロイド」に次ぐ「第3のOS」の座を目指して開発が進められてきたタイゼン。誰もがアプリ配信基盤や課金システムを構築できるなど自由度の高さが売り物だったが、その推進組織であるタイゼンアソシエーションの実情はかつてOSの覇権争いに敗れた「負け組」の寄せ集めに近く、各社の思惑はまちまちだった。

 「iモード」で一時代を築いたドコモにとって、タイゼンの開発にはアップルやグーグルに奪われたコンテンツ市場における主導権を取り戻すという大義名分があった。アンドロイド依存から抜け出したいサムスンにとっても、自社で自由にコントロールできるOSの開発は悲願だった。ただ、OSや端末の開発はサムスン主導で進められたため、日本メーカーの間では早い段階から「新しいiOSやアンドロイドができるだけ」と冷ややかな意見がささやかれていた。

 昨年9月にドコモがiPhoneを導入したのも大きい。アンドロイド一辺倒だった状況が解消されたことで、年末頃になるとドコモ社内でもタイゼンの必要性を疑う意見が強まるようになる。

 最終的にはタイゼン搭載端末の調達量を巡ってドコモとサムスンの溝が埋まらなかったことが、導入を見送る決定打となったようだ。タイゼン端末の開発に携わっていたソフトウエア受託開発企業の幹部は「開発費は100億円規模に膨らんでいたはず」と話す。構想そのものが宙に浮くことになれば、ドコモは高い代償を払うことになる。

(白石 武志、佐伯 真也)

「ATM108円」は優遇競争の号砲?

 4月の消費増税を控えて、ATM手数料の引き上げでメガバンクが足並みを揃えることになった。三井住友銀行の国部毅頭取は1月16日、全国銀行協会会長としての定例記者会見で、4月以降のATM手数料について「各銀行がそれぞれ判断するもの」と断ったうえで、同行としては税率の引き上げ分を手数料に転嫁する方向で検討していることを明らかにした。これにより、平日昼のATM手数料は4月から現在の105円が108円になる見通しだ。

 三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行も同様に手数料引き上げの方向で準備を進めているもよう。メガバンクの動きに地方銀行などが追随する公算は大きい。

 だが、単なる横並びでは終わらない可能性もある。各行は以前から口座の預金残高が多かったり、公共料金やクレジットカードの引き落とし口座に指定したりしている会員に、優遇サービスを用意している。会員には利用状況に応じてステージがあり、ステージが上がると、手厚い優遇を受けることができる。ATM手数料で言えば、無料になる時間帯や頻度が増える。

 「今回の消費増税を機に、各銀行の会員優遇の流れは一層強まるのではないか」。業界関係者はこうささやき合う。既にその兆候は出てきている。

(写真=ロイター/アフロ)

 昨年末、三菱東京UFJ銀行がATM手数料の改定を決定した。これまでメガバンクの中で唯一無料だった提携コンビニエンスストアでの平日昼の手数料を105円に、それ以外の時間帯は105円から210円に引き上げた。一方で、自行のATM手数料を無料とする時間帯をそれまでの平日昼のみから休日を含めたすべての日の午後9時までに拡大した。

 コンビニATMの無料化は銀行にとって負担が重い。銀行の顧客がコンビニATMを使って無料で取引をした場合、銀行はATMを設置している事業者に、本来顧客が払うべき手数料を支払う。その単価は1回当たり100円から150円と言われている。

 三菱東京UFJ銀行は今回の改定について、「経営資源配分の見直し」とコメントしているが、その背景に自行のATMに顧客を誘導する狙いがあるのは間違いない。

 105円から108円へ。わずか3円ながら、銀行のATM手数料に対しては不満を持つ利用者も多い。消費増税によるATM手数料値上げの動きが今後、様々なサービスを見直すきっかけになり、各行の優良顧客の優遇競争に火をつけるかもしれない。

(武田 安恵)

日経ビジネス2014年1月27日号 16、18、20ページより目次

この記事はシリーズ「時事深層(2014年1月27日号)」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。