城南信用金庫理事長
吉原 毅氏
(写真=的野 弘路)
1955年生まれ。慶応義塾大学卒業後、城南信用金庫に入社。2010年から現職。東日本大震災後、金融機関トップながら脱原発を宣言した。

余裕が出てきたからこそ
社長は経営にのめり込むな

 2014年、日本の景気は緩やかな回復を続けている。「さあ、巻き返そう」と売上高や利益率の向上に躍起になっている経営者も多いことだろう。

 だが、私はあえて言いたい。「こういう余裕が出てきた時期だからこそ、トップは経営だけにのめり込まず、リーダーとしての教養を身につける時間を確保すべきだ」と。

 経営者に必要な教養は、政治、経済、金融などビジネスに関する知識だけではない。音楽や文芸など様々な分野に興味を持つことも必要だ。一見、雑学のようだがそうではない。目的は、経営者としての視野を広げることだ。

 視野が狭く経営のことしか頭にない経営者は、人間的魅力に欠け、カネでしか組織をまとめられない。豪邸を建て、高級車に乗り、金儲けに猛進するだけ。そんな人物が組織のトップだと、働く社員も昇給と昇進しか考えないようになる。

 この手の会社はいざ経営環境が悪化するとあっという間に組織がバラバラになってしまう。日頃から顧客を軽視し、ビジネスの論理最優先で会社が動いているから、消費者からもすぐに見放される。

 一方、視野の広い社長は、自社の利益のみならず、世の中全体を見ながら経営判断を下すことができる。松下幸之助さんなど名経営者と呼ばれる方々は、みんなそうだった。

 自分が率いている企業は、国家や社会、世界にどんな貢献をするために存在しているのか。そのために優先すべき行動は何なのか。そんな視点で経営に取り組んでいるから、多少環境が悪くなっても、追い込まれて目先のことだけにとらわれることもない。

 カネなどなくても、人物に崇高さがあれば、部下もついてくる。

 私が知るある飲食チェーンの経営者は、自社が存在する意義は「日本を明るく元気にすること」と定義し、社員はそれを誇りに働いている。顧客を明るく元気にするため自社の金儲けよりサービスを優先する。社員の幸せのため、独立を奨励しているから、人を育てるのも大変だ。

 それでも、そうした理想に崇高さを感じるからなのだろう、社員は生き生きと働き、同じ理念を共有し、結果として会社も成長している。

 考えてみれば最近は、幅広い教養と視野を持つ経営者が随分減ったと思う。例えば、メディアなどを通じて聞こえてくる各企業のトップの発言を見ても、政治、経済、金融などにおいて、自分がビジネスをしている極めて限定的な分野についてしか語らない経営者が増えたように思う。いずれの発言も専門性が高く、確かに知識の多さは感じられる。だが結局は、損得勘定を考えたうえでの話しかしていない経営者が多いのはとても残念だ。

 経営者に限らず、自分の専門外に目を向け視野を広げる作業は、多少なりとも余裕がある時でなければできはしない。

 だから余力が生まれつつある今のような時期こそ、トップは経営だけにのめり込まず、リーダーのあるべき姿や自社の存在意義を考えるべきだ。そうすれば、次に景気が厳しくなった時も、会社が生き残れる確率が高まる。

日経ビジネス2014年1月27日号 74ページより目次