永守重信

日本電産社長。1944年京都府生まれ。職業訓練大学校を卒業後、ティアックなどを経て、73年に日本電産を創業。世界有数のモーターメーカーに育てる。主力のハードディスク用精密モーターは世界シェア80%を握る。
(写真=小倉 正嗣)

「海外にリスクはつきもの。
経営者自らが前に出て
それを手なずければいい」

 今、新興国をはじめ、欧米以外の国々とどうつき合えばいいか、改めて悩み始めた日本企業が多いようです。背景には次のようなことがあると思われます。

 まず残念なことですが、中国、韓国については関係改善の兆しが見えない。タイは反政府デモが収まらず、政情はなお不安定です。南米の一部の国は、治安が悪化したままです。

 政情不安に治安の悪化、貧弱なインフラ…。経済が成長する力は著しくても、進出して経営するのが難しい。そんな不安が改めて企業に広がり始めているのではないでしょうか。ですが、それは大体は思い込みです。

 例えば日本電産では、進出候補の国々を「インフラ整備度」「人件費の高低」「為替リスク」「教育の程度」「労働者の質」「経済成長の可能性」「日本からの距離」「税制」など20項目、それぞれ5点で評価しています。

 「経済成長の可能性」は、人件費が今後上昇していく可能性を示唆します。「教育の程度」は非識字率で見る。東南アジアのある国はまだ半分近くがそうですから。そして評価するとどこも70~80点に落ち着く。「人件費は安いが、インフラが悪い」「インフラコストは高いが、税制の優遇がある」というように項目ごとに凸凹があって、総合すると突出した点にはならないのです。

 それならどうすればいいのか。「労働者はまじめでよく働くけど、インフラがない」国なら、単純作業の工場を造ればいい。「人件費は上がってきたが、消費市場が拡大している」国なら、人海戦術で大量生産して輸出する拠点から国内市場で売れるものに次第に変えていけばいい。同じ点数でも項目ごとの凸凹の状況から考えればいいのです。

 でも、これもまだ当たり前です。私は日本電産と現地政府との関係も重視しています。簡単に言えば、元首クラスに私が会えるかどうかです。大国では簡単ではありませんが、人間関係を作れるかどうかは非常に重要です。タイの洪水のような天変地異や、リーマンショックのような経済危機など大きな問題が起きた時に素早く動いてもらうためです。新興国に特有でしょうが、してほしいことを直接訴えられる関係はとても大事なのです。

 ただし、念のために言いますが、賄賂は絶対にダメです。違法行為はもちろん話になりませんが、新興国は政情が不安定な国が多いのにそれをやると、政権が代わった時に逆に目をつけられるからです。

 それよりも進出先に利益を還元することです。経済が発展していない時期には雇用で報い、人件費が上がったらハイテク化して技術でその国の経済に貢献する。それが大事なのです。

 新興国だけではありません。日本電産はイタリアのモーターメーカーも買収しました。すると「何であんな政情不安定で労働争議の多い国に進出するんや」と言われました。でも、よく見れば職人の多い国で個人に技術はあります。重要なのは、なぜストが頻発するかに目を向けることです。それは貧富の格差が大きかったり、企業もすぐに労働者をクビにしたりするという問題があるからです。

 それならそれに対処すればいいのです。私はイタリアに行ったら必ず従業員とも話します。そして「企業を成長させ、給料を上げる」と話します。「そのためには生産性を上げなければいけない。協力してくれ」と言うわけです。夢で士気を鼓舞するのです。

 海外進出にリスクはつきもの。なくすことはできません。でもコントロールはできます。恐れるばかりではダメ。経営者自らが前に出てリスクを手なずければいいのです。

日経ビジネス2014年1月20日号 72ページより目次

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