大中華圏に挑む勇気
井上朋子
女優

文=寺島実郎

写真=タナカ ヨシトモ

 中国で文化大革命の嵐が吹き荒れていた1970年代、私は少なからず中国に関心を持っている大学生だった。週1回、世田谷日中学院に通い中国語を習っていた。中国語特有のリズムを覚えるために口ずさんでいた歌が「東方紅(トンファンフォン)」だ。

 軍歌のようなメロディに乗って「東の空は赤く、太陽が昇り中国には毛沢東が現れた」という詞を刻む。自ら毛沢東思想に共鳴するはずもなかったが、振り返ると、日本と中国、欧米にまたがる国際関係論に興味を持つきっかけだった。

 いま中国を、どう理解すべきか。ひとつの解は「大中華圏」という視点だろう。

 中国は、もはや地図が示す中華人民共和国だけにとどまらない。世界の投資を呼び込む香港や台湾、東南アジアへの足掛かりとなるシンガポールなどを巻き込んで、ヒト、モノ、カネがネットワーク型の発展を遂げているからだ。

 しかし、日本では短期的な日中関係に目を奪われる政治家や官僚、経営者が多い。それは表層的なプチ・ナショナリズムでしかない。

 日本人女優たちも中国で長年活躍している。経済・金融、資源エネルギー、教育、文化――。100年経っても完結しない理論よりも、私たち一人ひとりが日米中のトライアングルの中で創造性を発揮していくことが、成熟した国家の証になる。

 米国と中国がつくり上げていくであろう21世紀のアジア太平洋で、日本は米国の周辺国でもなければ、中国の周辺国でもない。より強い自立自尊の自覚を持てるか、いま問われている。

寺島実郎/一般財団法人日本総合研究所理事長

ふーん、これが…
桐生祥秀
陸上短距離選手

文=高野 進

写真=奥井 隆史/アフロ

 一昨年の冬、僕が洛南高校視察時に学内を案内してくれた青年が桐生君だった。「ふーん、これが桐生君か」。特段、体が大きいわけでもなく、自信過剰でもなく、オーラを放っているわけでもなく…。素朴な高校生の彼は丁度その頃、高校レベルからトップスプリンターへと脱皮しようとしていた。

 そして、その数ヵ月後、彼は10秒01(100m)でジュニアの世界タイ記録を打ち立てる。日本でも歴代2位の偉業である。「でき過ぎ」と言えばあまり夢はないか。

 しかし、基礎体力、走法はほぼ完成の域に近づいている。体幹をしっかりと前傾させ、キープできる筋力に加え、しっかりと推進力を生み出す足の運び方は、名だたるトップスプリンターと比べても遜色ない。

 しかしまだ高校生、課題はある。というより、のびしろがあると言ったほうが良いだろう。四肢の動きを工夫することで、もう1段、トップスピードを上げることは可能だ。

 彼は今、秒速11.5m前後で走っている。例えば、9秒58の世界記録を持つウサイン・ボルトは秒速12m超。まだまだ世界の壁は高いが、何せ「2020年」が彼には待っている。東京五輪。その時、33歳になっているボルトの姿は競技場にはないはずだ。

 世界最高の舞台で、24歳の桐生君が僕らに、どんな夢を見せてくれるというのか。

高野 進/東海大学教授

仮面から素顔へ
高梨沙羅
女子スキージャンプ選手

文=佐藤 岳

写真=アフロスポーツ

 取材を受ける少女の表情はいつもどこか硬かった。周りを囲む記者は年配の男性ばかり。まだ十代前半だった彼女は、大人たちの矢継ぎ早の質問に戸惑い、時に攻撃的な匂いを感じ取ったのかもしれない。今もその表情にさして変化は見られない。だが、口調は随分としっかりした印象を受ける。言葉は淀みなく、答えたくない質問には毅然とした態度で応じる。その内面に自信が宿り始めている証拠だ。

 小学2年からスキージャンプを始めた少女は昨季、女子W杯で日本人初の総合優勝を達成。16歳4か月でのスキーW杯総合Vは男女通じて史上最年少の記録だった。父の寛也さんが「スキーをやっている人間はみんなW杯で勝ちたい。五輪のように一発勝負ではないから」と話すように、このタイトルが少女にとって大きな転機となったのは間違いない。

 ジャンプの飛距離は紛れもなく世界一。その成長に合わせるように女子ジャンプのW杯が創設され、五輪の正式種目採用が決まるなど時代も味方する。ライバルのサラ・ヘンドリクソン(米国)が負傷中の今、ソチ冬季五輪金メダルの大本命。「五輪までの間、しっかりと準備したい」と話す17歳はソチで主役となった瞬間こそ硬い仮面を脱ぎ捨ててくれるに違いない。

佐藤 岳/スポーツジャーナリスト

静かなる戦略家
森川 亮
LINE社長

文=夏野 剛

写真=村田 和聡

 彼を一言で表すならば「静かなる戦略志向経営者」。最近の経営者は自らが発案したものを強烈なリーダーシップで組織を動かし、実現するタイプが多い。だが、森川さんは違う。

 これだけ早い動きのIT業界の中で、従業員の言うことに耳を傾け、そこから戦略立案をしていく。社員の自主性を尊重し、社員から生まれたアイデアに対して資源を配分する。

 スマートフォンのメールコミュニケーションは日本が作り上げてきたものを原型としている。米アップルの「iPhone」にせよ、米グーグルの「Android」搭載スマホにせよ、今でこそ絵文字を搭載しているが、影響を与えたのは確実に日本だ。

 LINEは韓国資本だが、生み出されたのは日本だ。日本から生まれた文化を世界で3億人以上に広げてくれている大活躍は、iモードを手がけた身としてうれしい。

夏野 剛/慶応義塾大学特別招聘教授

「猪木」も必要だ
斎木昭隆
外務省事務次官

文=アントニオ猪木

イラスト=服部 あさ美

 北朝鮮問題に長年、携わってきた斎木さんが外務省事務方トップに就任した。この人事ひとつを見ても、停滞していた外交が少しずつ動き出した印象がある。対北朝鮮には強硬路線で知られるが、外交は表と裏の両輪で動かすもの。対話の扉は必ず開かれていないといけない。

 私は北朝鮮には1994年から計26回赴き、民間外交を続けてきた。今は90年代とは違い、かの地では携帯電話も普及し平壌市内では渋滞も起きる。日本人が考えているよりもはるかに北朝鮮はモノが充実しているのが実情だ。

 北朝鮮がいかなる国家であろうと、対話のチャネルを断ち切る必要は全くない。霞ヶ関の論理はあるだろうが、外交は人間関係そのもの。北朝鮮に精通する斎木さんだからこそ、現場感覚と人間関係を重視した交渉を続けてほしい。

 時に私のようなメッセンジャーがいる。批判は結構、私は日朝関係改善のため、ありのままの北朝鮮を伝える覚悟だ。

アントニオ猪木/参議院議員

若き決済のリーダー
沖田貴史
ベリトランス社長

文=北尾吉孝

写真=村田 和聡

 電子マネーを開発する米サイバーキャッシュの日本法人(現在ベリトランス)を設立し、サービスを開始しようと準備をしている時、「電子マネー」を研究しているから取材させてくれ、といって訪ねてきたのがまさに当時大学生の沖田君だった。

 沖田君は、「これからはアジア・中国がEコマースの中心になる」という考えの下、2008年に業界の先陣を切って中国展開を開始し、中国銀聯との提携を果たした。インドネシアにも進出。事業の傍ら、SBI大学院大学でも教鞭をとる。思えば15年前、わずか10人にも満たない会社で「電子マネー」や「電子決済」が普及した世界をイメージし、目を輝かせていた大学生が、今や日本、アジアの決済事業を牽引するリーダーに。当時の構想がほとんど実現された今、そのリーダーがこれからの未来をどのように切り拓いていくか楽しみだ。

北尾吉孝/SBIホールディングス社長

15億人の壁なくす
ヤエル・カロブ
ジンジャー・ソフトウエアCEO(最高経営責任者)

文=ギラッド・ノビック

 ヤエルは20年以上もの間、AI(人工知能)事業を作り上げ、経営してきた。これまで3社を起業し、2社を新規株式公開、1社を売却する実績を残してきた。スタートアップ大国として有名なイスラエルの中でも、彼女は極めて重要なシリアルアントレプレナーだ。2007年に4社目となるジンジャー・ソフトウエアを起業。目的は英語を第2外国語として話す15億人の人々がネイティブ並みに自己表現ができるようにすること。コミュニケーションの壁を取り払おうとしている。

 彼女が生まれたのは厳格なユダヤ教正統派の町・バネブラク。極めて保守的な町で、女性が働くことがひどく疎まれる町でもある。しかし、彼女は3人の子供の立派な母親であり、イスラエルで成功を題材にしたドキュメンタリーにも出演。立派にキャリアと家庭を両立させることで女性に勇気を与えている。

ギラッド・ノビック/ホライズン・ベンチャーズCTO

おそるべき理解魔
堺 雅人
俳優

文=伊藤一彦

 教師という職業は因果なものだ。生徒にテストで良い点をとってほしいという願いを抱くと同時に、満点をとられるのはシャクなのだ。生徒に負けたような気がして。先日たまたま堺雅人の高校時代の国語担当の先生に会った。その時に先生がなつかしそうに言った。「堺君に満点をとらせないようみんなで苦心して問題を作成しましたよ」。それだけ文章の理解力は抜群だったのだ。その理解力を散文、詩歌、台本、そして人間に対してもさらに深め増していったことを、彼の高校生時代にカウンセラーとして話を聴いて以来20年のつきあいになる私はよく知っている。

 堺雅人は「理解魔」である。おそるべき、という形容詞をつけてもいいかもしれない。ただ、それは彼がすべてを理解できる能力を持っているということではない。逆に彼はいつでも「理解」が足りないと思っているだろう。だから「理解」するための実に壮絶ともいうべき努力をする。そして、たゆまぬ努力家が謙虚であるように、彼はいつも謙虚である。

伊藤一彦/歌人、宮崎県立看護大学教授

伝統と革新を紡ぐ
細尾真孝
細尾クリエイティブディレクター

文=VERBAL

写真=柴田 謙司

 京都の西陣織の老舗・細尾。同社の紡ぎだすファブリックが、ルイ・ヴィトンやシャネル、ディオールという名だたる高級ブランドのインテリアに使われていることをご存知だろうか。

 「日本に凄いファブリックがある」。仲のいい北欧人家具デザイナーからこんな話を聞き、細尾くんの存在を知った。その後いくつかの縁が重なって彼と出会う。

 300余年も続く老舗企業の跡取り。そう聞くと堅いイメージを抱いてしまう。だが実際に会った彼は拍子抜けするほど僕と感性が似ていた。年も近く、フットワークも軽い。それも家業を継ぐ前は音楽活動をしていたというだけあって、夜にはクラブではっちゃけるノリの良さもある。

 何より感動したのは、細尾くんの感性が伝統ばかりに縛られていないことだ。伝統を大切にする一方で、モダンな感性も備えている。思えば西陣織だって、かつての日本人にとってはモダンと粋の極みだったはず。ルイ・ヴィトンやシャネルといった名だたるメゾンは、伝統を守りながら挑戦を続けているから、どんな時代も人々から愛されている。

 伝統と革新――。細尾くんは、その重要性を直感的に理解している。今の時代に合った西陣織を打ち出したから、世界のビッグメゾンが彼を評価した。西陣織の“宣教師”。彼の存在が、日本の伝統産業を変える。

VERBAL/音楽プロデューサー兼デザイナー

こえび隊長
北川フラム
アートディレクター

文=安藤忠雄

イラスト=服部 あさ美

 芸術祭でにぎわう瀬戸内の島々で、「こえび」たちが走る。それは久々に見る、日本の若者の元気な表情だった。こえび隊とは、瀬戸内国際芸術祭の運営を支えるボランティア部隊。島やアートが好きで、芸術祭を手伝いたいという有志たちの集まりだ。このこえび隊を発案し、指揮するのが、芸術祭の総合ディレクターであるこの人である。

 画一的な偏差値教育の影響で、平均的にレベルは高いが個性がないといわれる今の子どもたち。彼らに欠けているのは、自分の意思で物事を組み立て、問題を乗り越えた時の達成感、充実感だ。この時の感動こそが、人を豊かにする。北川さんは、そのことを強く意識しているのだと思う。

 こえび隊のシステムは、一見合理的でありながら、子どもたちが抱えている問題の対策にもなりうるという点で、画期的なアイデア。北川さんの発想力には感服する。もしかしたらここから、日本の子どもたちが変わっていくかもしれない。

安藤忠雄/建築家

おもてなしの心、経営力に
上西京一郎
オリエンタルランド社長

文=植木義晴

写真=後藤 麻由香

 実は最初の期待値は50%だった。「休日の家族サービスだ」「遊園地でも行くかな」。東京ディズニーランドが開園した1983年、DC-10型機の副操縦士だった私は妻と5歳の娘を連れて、その門を初めてくぐった。

 しかし夕闇にシンデレラ城が光り輝くと、娘を抱きかかえた私は息をのんだ。あの満ち足りた光景は、家族の思い出そのものだ。ゲートを出て「現実の世界」に戻るたび、一抹の淋しさがこみ上げる。そのたびに「また夢の国に来よう」と誓う。いつ来ても、私の心を100%満ち溢れさせてくれる。

 なぜ、これほど魅せられるのだろう。それが「おもてなしの心」と「人」にあると、ほどなく気が付いた。園内は塵ひとつ落ちていない。仮に汚れても、すぐに現場スタッフの方々が来て笑顔で掃いていく。スタッフの小さな積み重ねと状況に応じた判断力が、あの空間と時間を創っている。

 現場の一人ひとりが自ら考えて行動し、想定外も含めたリスクマネジメントを実践していく。テーマパークと航空。業界は違っても、誠実な姿勢を貫く大切さを教えてくれたのも、また東京ディズニーランドだった。

植木義晴/日本航空(JAL)社長

金融が結ぶインドの希望
ラジーブ・カナン
三井住友銀行プロジェクトファイナンス営業部長

文=RENA

イラスト=服部 あさ美

 Dear Rajeev

 あなたもインドからの偏西風を、感じることがありますか。東京、L.A、ロンドン――。私はどこにいても、ふと、インドを思い起こすことがあります。

 私の故郷は、首都のニューデリー。訪れるたびに地下鉄や橋が伸び、ムンバイのスターバックスコーヒーは、行列ができるほどのにぎわいです。

 そして、あの笑顔。クルマが信号に停まると、ストリート・チルドレンが窓を拭いたり、新聞を売りに来たりするけれど、みんな太陽のように笑っている。

 あなたは金融のお仕事を通じて、もっとインドに笑顔の種を増やしていくのでしょう。私もインドのファッションや文化、映画、音楽の魅力をもっと世界に伝えていきたい。 そして5年後、もっと安全で子供たちの教育が行き届いた国であってほしい。10年後、私は再びニューデリーで暮らしたい。夢は見るものでなく、叶えるもの。インドからの偏西風は、きょうも私たちの心に届いています。 Sincerely yours, RENA

RENA/モデル、司会(MC)

おばちゃんのお手並み拝見
ジャネット・イエレン
次期FRB議長

文=榊原英資

写真=The New York Times/アフロ

 夫はノーベル経済学賞受賞者で、息子は経済学者。当の本人はハーバード大学などの超一流校で教鞭をとってきた経歴の持ち主だ。彼女が纏っている肩書きを見ただけで、凄腕のエコノミストであることが容易に想像できる。

 だが、大阪の道頓堀あたりを歩いたとして、誰も凄腕エコノミストとは気づかないかわいいおばちゃん風情に、拍子抜けする。実像もそんな印象そのままらしい。柔和な表情をもって人間関係を深め、敵を作らない愛すべき性格は、彼女を熟知する人の共通認識だ。経済政策も雇用や景気を重視するハト派路線で、バーナンキ現米連邦準備理事会(FRB)議長の後釜としては、適任と言えるだろう。

 議長指名までには紆余曲折があった。オバマ大統領の本命は、ラリー・サマーズ氏。圧倒的な能力や国際的人脈は誰しもが認めるところで、彼が議長になれば、画期的な決断をしてくれると期待したのは、私や大統領だけではないはず。だからこそ、イエレン氏の力量が試される。米国では景気が回復しつつある。初の女性議長として期待は大きい。他方、政策変更に失敗すれば、世界経済が揺らぐ。その重責を、さらりとあの笑顔で乗り越えられるか。さて、お手並み拝見だ。

榊原英資/青山学院大学教授

人事もグローバル戦略に従う
クリストフ・ウェバー
武田薬品工業次期社長

文=米倉誠一郎

 武田薬品工業が2014年6月から新社長に、フランス人で、英国大手製薬企業グラクソ・スミスクライン(GSK)の成長部門ワクチン事業を統括してきたクリストフ・ウェバー氏を迎える。創業1781年という老舗中の老舗、武田の外国人社長選出に対して、日本ビジネス界ではやや驚きの声も上がった。

 2012年、武田の売上高は1兆6000億円規模。世界最大のファイザーの3分の1ほどにとどまる。しかも地域別の内訳を見ると、アジア圏は4%足らず、インド・南米・アフリカなどの新興市場に至っては1.6%と取りこぼしに近い。

 新興市場攻略のカギはワクチンだ。GSKでワクチン事業を統括してきたのがウェバー氏なのだから、この人事はかなりロジカルだということができるだろう。

 僕の師匠アルフレッド・チャンドラーは「組織は戦略に従う」という名言を残した。どのような組織形態を採用するかは、実行したい戦略に依存するという意味だ。そして、「人事も戦略に従う」のである。日本企業もやるべき戦略がグローバル展開ならば、そのリーダーは世界中の幅広い人材プールから選ぶのが当然だ。国境とか国籍ではなく、何を実行したいのかが問われている。

米倉誠一郎/一橋大学イノベーション研究センター教授

市場、解凍!
日野美貴
西日本冷食社長

文=藻谷浩介

写真=菅 敏一

 21世紀日本の本道を歩いている――。そう聞けば本人が驚くだろう。だが、就職難で教師をあきらめ福岡市の冷蔵倉庫会社で働いていた若い女性が、僅かな貯金で水産ベンチャーを起業し、国際的な取引を拡大して5億円近い年商を上げるに至っている。

 彼女の歩んできた道には、消費者側からの起業、女性による経営、地方企業の世界展開、高級食材分野での事業拡大と、今世紀の日本で事業を発展させるためのキーワードが散りばめられている。

 日本の食品市場は多年、「たとえ添加物や薬物まみれでも、国産ならば高品質」という、プロダクト・アウトの発想にスポイルされてきた。これに対し彼女のビジネスを貫くのは、品質と味を求める消費者に安全な水産加工品を届けたいという、マーケット・インの発想だ。だからこそ、出所から加工まで徹底管理した無添加の食材を中国や東南アジアから輸入して、高い評価を受けている。

 東京の巨大企業で「左遷だ」「10倍返しだ」と20世紀の遺物のような双六にはまっている若者たちにも、できれば彼女のように、自分の足で21世紀の本道を歩んで欲しいものだ。

藻谷浩介/日本総合研究所主席研究員

Tokyoの先にあるもの
チーム・ジャパン

文=太田雄貴

写真=ロイター/アフロ

 ブエノスアイレスの女神は微笑んだ。

 2020年、東京五輪。その歓喜の瞬間を、はるか地球の裏側の日本国民と共有できたこと。僕は1アスリートとして最高に幸せを感じている。 

 「絆」。五輪招致成功の理由を、この美しき1文字で語ることは容易い。だが、僕の見方は少し違う。チームジャパン1人1人が、「適材適所」の働きをしたからこそ、だと思うのだ。もちろん裏方も含めて。

 今でこそ明かせるが、僕に課された役目はチームの起爆剤になることだった。日本のプレゼンを指導したマーティン・ニューマン氏に「誰よりも練習をして他のメンバーを焦らせてほしい」と頼まれていた。だから、招致の最大のクライマックスであるプレゼンでさえ、僕にとっては些細なエフェクトに過ぎない。

 さあ、勝負はここからだ。6年後までに、日本人がいかに国際感覚を研ぎ澄ませて大会を作り込めるか。それが鍵だ。

 日本は良い国だ。「おもてなしの国」「財布を落としてもきっと自分のところに戻ってくる」――。プレゼンで滝川クリステルさんがそう語ったように。

 しかし、それはそれとして。今の日本には「ドメスティックな感覚からの脱却」が急務だ。  「Inspire a Generation」。振り返れば2012年、ロンドン大会ではこのスローガンに世界中の若者が強烈なメッセージ性を感じ取り、新たなカルチャーを積極的に取り入れて大会を作り上げた。あの保守的な英国でさえ、伝統や実績に固執せず、グローバルに変わろうとしたのだ。

 翻って日本。世界の人々を真の意味で「おもてなし」できるだろうか。

 文化や、自然、人々の心……。確かに我が国には多くの「美」がある。だが、大切な何かが欠けていると思うのは僕だけか。 そう、それは「国際感覚」だ。

 振り返れば、プレゼン冒頭の高円宮妃久子様のスピーチ。流暢なフランス語と英語を駆使し、凛とした声で聴衆の関心を引き付けた。日本にも真に国際感覚に長ける人がいるのだと、世界中の人々はアッと驚いたに違いない。

 日本から世界を見るのではなく、世界から日本を見る眼が必要だ。内向き、自己完結的な思考ではなく、国際協調の中で国の将来を模索し、俯瞰的に日本人の価値を追求していかなければ、急速に進むグローバル化の波は乗り越えられない。

 そのために、僕らは恐れず、どんどん海外に出よう。そして、外から静かに日本を眺める。きっと、未来の日本のカタチがそこに見えるはずだ。

 東京五輪は、日本が国際感覚を磨き上げる最大にして最後のチャンスになると思う。僕ら若い世代が先頭に立ち、意識を変えていこう。

 東京五輪は、その踏み切り台。

 その先の、世界のNipponを目指して。

太田雄貴/北京五輪フェンシング男子フルーレ個人、ロンドン五輪同団体銀メダリスト

日経ビジネス2014年1月6日号 90~101ページより

この記事はシリーズ「特集 THE 100 ― 2014 日本の主役」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。