碧い海へ
鈴木あやの
ドルフィンスイマー、水中写真家、水中モデル

文=出雲 充

写真=福田 克之

 もう、話にならない。僕ら2人が顔を合わせれば、お互い、好き勝手なことばかりいう。彼女はイルカ。僕、ミドリムシ。1つのことに没頭してしまった者同士の対話なんて、まあ、そんなもんだ。

 真っ青な海とイルカ、そして鈴木あやの。完璧過ぎるほど、決まっているじゃないか。美しい。僕も、愛するミドリムシと構図に収まってみたいが、如何せん、ミドリムシは小さすぎる。どうせ、「緑茶の中を泳ぐオヤジ」にしか見えないのが悲しい。

 東京大学農学部の同級であり、同い年。学生時代にどうして出逢わなかったのだろう。いや、どこかで、すれ違っていたに違いない。とても悔やまれるが、今更、そんなことを言っても始まらない。

 うむ、例えるならばダイソンの掃除機かな。そばにいるだけでワクワクするし、何せ、すごい吸引力だ。吸い込まれるのは僕ら研究者や経営者だけではない。大人も、子供も、オヤジも、年寄りもみんな、彼女の魅力に吸い込まれる。

 それは彼女がイルカを通じて語りかけ、イルカが彼女を通じて、僕らに語りかけているからだ。イルカと人間との通訳が鈴木あやのだ。

 海のこと。地球のこと。家族のこと。今朝の食事のこと。100年後の子孫のこと。

 今日も世界のどこかで、誰かと誰かが憎しみ合い、殺し合っている。1円を10円に、100円を1000円に増やすことに躍起になっている人もいる。

 しかし、鈴木あやのはそんなちっぽけな世界にはいない。きっと、僕らよりもはるかに高い立ち位置で、見えない者同士の橋渡しをしているのだ。

 でも。ミドリムシの研究者は、無理矢理、考えてみた。

 ミドリムシはミジンコに、ミジンコはイワシに、イワシはカツオに、カツオは…イルカに食べられる。綿々と織りなす食物連鎖の、はじめと終わりで、ミドリムシとイルカ、そして僕らは繋がっているのだ。

出雲 充/ユーグレナ社長


ブラックvsキラキラ
吉良佳子(きら よしこ)
日本共産党・参議院議員

文=角谷浩一

写真=後藤 麻由香

 2013年7月の参院選挙は衆参のねじれ解消、ネット選挙解禁など、話題には事欠かなかったが、安倍政権の信任投票の色合いが強かった。

 そこで世界史の化石とまで言われる共産主義を、今なお志向する結党90年の日本共産党が復活をとげると、誰が予測しただろうか。奇跡を招き寄せたのは「キラキラ」を合言葉にした、31歳の吉良佳子だ。

 2012年1月に候補者に決まった時点で泡沫候補とみなすメディアも少なくなかったが、東京選挙区で集めた70万票余は有権者を驚かせるに十分な得票だった。ネット番組、ツイッター、フェイスブック、ゆるキャラなどを駆使して、護憲、反原発、反消費増税の「前衛党」らしからぬ広報戦略の波に乗って彗星のごとく躍り出た。

 2013年9月発表の国税庁調査では役員を除く正規従業員の平均年収は467万円。非正規は168万円。同世代の3人に2人が非正規雇用の不遇な条件で働く若者の支持を集めた。拝金主義を問い、「ブラック企業」へ糾弾の声をあげた。

 その吉良に会ってみると気さくで爽やか。なによりも「ふつう」を感じる女性だ。小柄で華奢な全身に若者のパワーが宿る。「期待がプレッシャーでもある」と話すが自然体の中にある秘めたる闘志はこれからの国会で一石を投じるはずだ。

角谷浩一/政治ジャーナリスト


陰影のある男っぷり
村田諒太
プロボクサー

文=生島 淳

写真=山口 裕朗/アフロ

 ボクシングの世界王者といえども、顔と名前が一致するボクサーは少ない。しかし村田諒太は別格だ。どことなく陰影を感じさせる男っぷりも、スター性を感じさせる。

 村田が戦うのは選手層が厚く、また人気の高いミドル級。この階級を制することは、歴史に名を残すことにつながる。現状では世界で30番程度の力、という見方もある。ボクシングの世界ではアマとプロはまったくの別物だから、1月12日に28歳を迎えるルーキーには学ばなければならないことが多い。それでもボクシングセンスは抜群、経験を積んで世界戦に挑戦できるかどうか、時間との戦いが待っている。

 一昨年の暮れのこと、たまたまラジオ番組で共演することがあり、楽屋も一緒だった。相手は金メダリスト、これはこっちが気をつかわなければと思っていたが、まったくの杞憂に終わった。とにかく、喋る、喋る。ガードの堅いボクシングとは対照的に、その性格はオープン。その魅力に吸い寄せられてしまった。

生島 淳/スポージャーナリスト


棋界のジョイナー
里見香奈
女流将棋棋士

文=森田正光

写真=共同通信

 かつて、一世を風靡した女流棋士・林葉直子さんの美貌と実力に驚いたことを、ありありと思い出している。

 ちょうどその頃、私に次女が生まれ、本気で将棋指しに育てようと考えた。そしてコンピュータの将棋ゲームばかりやらせた、とんでもない親だった。当然、娘は「林葉2世」にはなれなかった。

 あれから四半世紀。林葉さん以上の女流棋士が現れた。里見さんは男性と混じってプロ棋士を目指す「奨励会」に入会し、3段に昇格。仮にプロ棋士と認められる4段ともなれば、これは女性ランナーが100m走で10秒を切るような話である。

 私が、天気予報も将棋もやめられないのは、どちらも「直感」で勝負しているからかもしれない。天気図を広げた瞬間、まだ見ぬ未来の天気が浮かばなければ予報士失格である。逡巡は大敵。将棋もそう。何十手も先を読む。己の直感だけが、未知の世界の道標だ。

森田正光/気象予報士、将棋アマチュア3段


「共同研究」の成果
井山裕太
囲碁棋士

文=森 章

写真=毎日新聞社/アフロ

 囲碁仲間の集い「大竹会」に、兄・稔とともに参加して30年ほど経つ。大竹英雄名誉棋聖からは「3段」を戴いているが、「布石2段、競り合えば4段」と自称している。囲碁は最初に目標を設定し、そのための手段を、あれこれ考え抜く。途中、仮説が崩れれば目標を大胆に変える決断を独りでしなければならない。これが囲碁であり、経営である。

 24歳の井山裕太さんは2013年、史上初の6冠、7大タイトルグランドスラムを達成した、若き天才である。それは実に冒険的な打ち方をする。最初は混沌の世界を彷徨う。しかしながら、常にコンピューターのように最善手を緻密に考え抜き、最後は「人間力」で勝利する。

 今の囲碁は、インターネットなどの普及で情報がいとも簡単に入手できるようになり、複数の人間で相手を徹底的に分析する「共同研究」の成果が、勝敗に現れる。「経験」では勝てない、そんな時代だ。

森 章/森トラスト社長


「普通の人」が世界を変える
ベン・ラトレイ
Change.org創業者

文=ジェニファー・ティレル

写真=常盤 武彦

 私はレズビアン。息子のクルーズと共に長年、地元・オハイオ州のボーイスカウトに所属していた。それがあるとき、私がレズビアンだということを理由に、団体から追い出されてしまった。

 大事な子どもの人生の一部に、「レズビアンだから」参加できない。そんな現実をつきつけられ悩んでいた時に、「Change.org」という署名活動サイトの存在を知った。インターネットで一人ひとりに社会を「チェンジ」する力を与えたいという創設者、ベン・ラトレイ氏のビジョン。

 ボーイスカウトのメンバーや両親たちともつながり、一人ひとりが声を上げ、ゲイの子ども達も参加できるようになった。

 私自身の人生も大きく変わった。道行く人が、私を見て「ボーイスカウトを変えた人だ!」と気付くからだ。ボーイスカウトはアメリカの市民社会に欠かせない存在。その歴史的な変化に貢献できて誇りに思う。

 彼がChange.orgを立ち上げたのも、ゲイの弟がカミングアウトしたことがきっかけだったと聞いている。いつかベンに会ったら、大きなハグをして、声を上げるきっかけをくれたことへ「Thank you」と言いたい。

ジェニファー・ティレル/米オハイオ州、4人の子を持つレズビアン


ワインの禅問答
カルロス・ゴーン
日産自動車CEO

文=出井伸之

写真=五十嵐 隆裕

 ゴーンさんが日本にやってきて、かれこれ15年近くが経つ。当時40代だった彼も、もう還暦前だから、時が経つのは早いものである。

 ゴーンさんが特命を受けて来日した時、日産自動車は社員や役員、労組、すべてが疲弊し切っていた。会社が倒産する可能性すらあった非常時だからこそ、彼の強力な手法が受け入れられたのだろう。

 とにかく、猛烈に頭の回転が早いし、実行力がある。即断、即決。ゴーンさんはもうすっかり、日産の「スーパーCEO(最高経営責任者)」としての地位を築いているが、私は「スーパーCOO(最高執行責任者)」としても類稀な才能の持ち主だと思っている。

 ビジョンを語るだけの経営者は数多いる。しかし、ゴーンさんのように、経営の理念と推進力を兼ね備えたトップは、世界を見渡しても、そうはいない。

 ゴーンさんと私は時々、ワインの集まりで顔を合わす。そこでもゴーンさんは、スーパーCOOぶりを見せつける。「ワインはどこでつくるのが一番安くあがるか?」。カリフォルニアか、アルゼンチンか、あるいは日本か。そんな禅問答を投げかけても、即座に、その土地の価格や人件費をはじき出し、その明解ぶりに我々を驚かせる。

 GMやフォードが、ゴーンさんを求めていると聞く。そりゃあ、そうだろう。世界でもこの「スーパーCOO」は評価が高いのだ。レバノン系ブラジル人で、フランス自動車大手ルノーのトップも兼ねる。真の意味で、日本が輩出した初めてのグローバル人材がゴーンさんとも言える。

 今年、日産は創業80周年の節目。長きに渡る日産の歴史の中での一時代を、ゴーンさんはつくりあげた。大改革の15年、アッという間だったに違いない。

出井伸之/クオンタムリープCEO、ソニー元CEO


家族3代で紡ぐ最高のスーパー
川野澄人
ヤオコー社長

文=伊藤元重

写真=陶山 勉

 ヤオコーは、食品スーパーで私が最も注目している企業だ。専門家であれば、誰もがヤオコーを食品スーパー業界で特筆すべき存在だと考えるはずだ。

 川野澄人氏は私のゼミで通商問題の論文をまとめた。まじめで優秀な学生であった。卒業後、日本長期信用銀行に入った。破綻への道を歩む同行の中で苦労しただろうが、貴重な経験を積むことができたと思う。その後、ダートマス大学でMBAを取得し、それに続いてニューヨーク州の食品スーパー、ウェグマンズで実地経験を積んだ。現在は業界で注目される存在のウェグマンズであるが、40年近く前は、私が留学したロチェスターにあるローカルなスーパーにすぎなかった。ただ当時からよい店であるという印象を持っていた。地域に密着して着実に成長するという意味では、ヤオコーと共通している面がある。

 澄人氏の祖母の川野トモ氏の書籍にコメントを寄せたご縁で、私の事務所に会長の川野幸夫氏ご夫妻、澄人氏ご夫妻、そしてそのお子様3人の7人で訪ねてきて下さった。恵比寿にある総合研究開発機構の私の事務所に3世代が一緒に来るというのは、川野家がはじめてのことである。ヤオコーの今後のさらなる発展を強く感じた次第だ。

伊藤元重/経済学者、東京大学教授


弱者を守る法の番人
鬼丸かおる
最高裁判所判事

文=板倉 宏

写真=朝日新聞社

 「疑わしきは被告人の利益に」。日本の法曹界は古くからこの言葉を掲げてきた。私は司法の現場を長らく見てきたが、実際には必ずしもこの言葉通りの判決が下されているとは限らない。特にここ数年の検察庁の不祥事には大きな落胆と憤りを覚えていた。

 そんな折、一つの明るいニュースが飛び込んだ。弁護士出身の鬼丸かおるさんが最高裁判事に就いたというのだ。弁護士出身で、それも女性の最高裁判事は日本初である。

 本来ならば、こうした人事はもっと早くに実現せねばならなかったのだろう。だがその一方で、とても古い体質の法曹界がようやく未来に向けた一歩を踏み出したことに、私は大きな期待を寄せている。

 鬼丸さんは弁護士時代から高齢者や障害者の権利の保護など、弱者の立場に立った活動を重ねてきた人物である。この彼女の姿勢こそ今の法曹界には欠かせないものであろう。「弱者の視点」を取り入れ、本当の意味で「疑わしきは被告人の利益に」という言葉を実現すること。信念に従って、勇気を持って判決を下すことが求められている。課せられた責務は大きい。

板倉 宏/刑法学者、日本大学名誉教授


花咲いた「ひねり」
白井健三
体操選手

文=森末慎二

写真=Getty Images

 白井健三選手のすごさは何かと問われれば、床競技の全体の中で合計22回以上の“ひねり”が入るところだろう。そして、何よりフィニッシュで「4回ひねり」を持ってくるのは素晴らしい。最初の段階で4回ひねりを持ってこようとする選手はいても、筋力も体力も疲労しているところで4回ひねりを持ってこれる選手はそうそういない。

 子供のころから体操をやってきているという点、トランポリンを使って空中感覚を会得してきたため、“ひねり”の感覚を身体で覚えたということだろう。そして“ひねり”はついに花が咲いた。4回ひねりには「シライ」の名前がついた。これは彼にとってもうれしいことだっただろう。

 だが、これで満足してもらっては困る。床運動、鞍馬、吊り輪、跳馬、平行棒、鉄棒の6種目ができて初めて体操競技なのだ。 この2年間、自分自身をどれだけ苛めて強くなれるかにかかっている。上半身をきっちり作り上げ、鞍馬、吊り輪、平行棒、鉄棒を相当強化しなければならない。

 もしかしたら2016年のリオデジャネイロ五輪までには間に合わないかもしれない。だが、それでいい。6年後、つまり東京五輪の大活躍を期待している。

森末慎二/元体操選手、ロサンゼルス五輪男子鉄棒金メダリスト


素材ニッポン復活の大統合
岡田 満
UACJ社長

文=宗岡正二

写真=竹井 俊晴

 古河スカイと住友軽金属工業が昨年10月合併してできたUACJは、産業基礎素材であるアルミニウムの圧延事業における競争力の強化、ひいては、日本の産業全体の競争力強化と社会の発展に大きな役割を果たすものと期待している。

 企業の経営統合では、両社があらゆる階層で同じ方向を目指す必要がある。

 統合を経験しているものとしての私見だが、経営トップには「冷静に事業の先行きを見通す分析力」「組織を牽引するリーダーシップ」、そしてなによりも、「新しい会社でより高みを目指す情熱」が必要とされるのではないかと思う。

 アルミニウム圧延業界も私ども鉄鋼業界と同様、厳しい国際競争にさらされていると聞いている。新会社の行く手にも様々な困難が待ち受けていることと思うが、同じ素材産業に身を置くものとして、心からエールを送るとともに、ともに努力してまいりたい。

宗岡正二/新日鉄住金会長兼CEO


カーデザインを成熟社会の証に
和田 智
カーデザイナー

文=中村史郎

写真=後藤 麻由香

 日本の自動車市場は成長こそ止まってはいるが、デザイン面からはまだ成熟した市場とは言い難い。デザインは企業経営の要であり、これから日本経済の再生にとっても重要な柱となる。

 それは単に「売れるデザイン」ということではない。企業の長期的な成長を支えるための、ブランドとヘリテージ(伝統)を見極めたデザインが大切になる。

 和田くんと最初に会ったのは20年ほど前、ロンドンの英王立美術大学だ。彼は日産自動車から英国に留学し、私はいすゞの欧州スタジオで責任者を務めていた。2人にとって、成熟した文化の欧州で得た経験は大きい。

 その後、彼は独AUDIで活躍して独立した。私はインハウス(企業内)、彼はフリーランスと立場こそ違うが、世界をリードするデザインを目指すというビジョンは共通だ。理想の実現に向けて走り続けている彼に期待したい。

中村史郎/日産自動車常務執行役員 チーフクリエイティブオフィサー


“カッコイイ”CEO
峰岸真澄
リクルートホールディングス社長

文=岩瀬大輔

写真=的野 弘路

 日本の大企業には“カッコイイ”CEO(最高経営責任者)が少ない。若くて、カリスマがあり、変革を起こせる、世界でも通用するリーダーが。

 蛇に睨まれた蛙。初めて株主の担当役員として着任した峰岸さんと面会したときの自分を思い出す。眼光鋭く、厳しい質問を投げかけてくる。それでもほろっと笑った時に見えた白い歯が、優しい人柄を表していた。

 IT(情報技術)ベンチャー経営者が集うカンファレンス。初めて登壇した峰岸さんの発言を起業家たちが必死にメモを取りながら聞く。買収した北米企業にもリクルート式の営業管理手法を導入し収益は大幅に改善。被買収企業の外国人トップとは通訳無しでやり合う。

 好奇心旺盛な峰岸さんは僕らにも絶えず質問を投げかけてくる。「峰岸塾」の門下生として、自分もライフネット生命をリクルートのような大企業に育て上げたい。

岩瀬大輔/ライフネット生命社長兼COO(最高執行責任者)


国境を超える法務のプロ
茅野(ちの)みつる
伊藤忠商事執行役員法務部長 米カリフォルニア州弁護士

文=中村彰利

写真=大高 和康

 国際弁護士の中でも飛び切りの本格派――。大手商社初の女性執行役員としてクローズアップされやすいが、彼女の「本質」はもっと別のところにある。単に法律知識を切り売りするような弁護士ではない。好奇心に満ちて、ビジネスの現場が大好きなのだろう。

 米法律事務所で手がけた最初の案件は、窓ガラスを輸送中に割ってしまったメーカーが顧客に代金を請求したら逆に訴えられたケース。被告のメーカー側の弁護士だった彼女は、「危険負担の義務が相手側に移転していた」と主張し数百万円の代金を全額回収した。

 伊藤忠商事がブラジルで鉄鉱石事業の買収をまとめたのは2008年秋。伊豆に新婚旅行に向かっていた彼女は、「交渉が最終局面に入った」という一報を受けた途端、米ニューヨークに飛んだ。海外企業買収が増えるほど、国際弁護士はニッポンという国力の代弁者になっていく。

 男か、女か。それは真のプロフェッショナルにとってはささいな違いでしかないのだ。

中村彰利/アスパラントグループ社長


LNG輸送の担い手
長澤仁志
日本郵船専務経営委員

文=高井裕之

写真=後藤 麻由香

 同年同月生まれ。同じキャンパスで学び同じ年に社会人になったものの、私が彼を知ったのは2年ほど前のこと。時は正にシェール革命の全盛期。彼は海運業界では知る人ぞ知るLNG(液化天然ガス)の専門家、私は金融の世界からエネルギー業界に異動したばかりの新参者だった。

 原子力発電所の停止により、大量のLNG輸入を余儀なくされた日本。2016年頃から輸出が始まる米国産LNGは、価格競争力がある。日米双方の貿易赤字を減らし、我が国には供給ソースの多様化にもつながる。全てに対応するには80隻ものLNG船が必要だ。中国やインド向けなど、長年LNGを手掛けてきた彼が活躍する場は大海原のように広がる。

 人懐っこい風貌と親分肌の気質にリーダーとしての素養が漂う。鋭いビジネス感覚と革新的な視点でLNG業界のみならず、世界の海運業界をリードしてくれることを期待している。

高井裕之/住友商事総合研究所社長


この人こそ「博識」
瀧本哲史
京都大学客員准教授

文=古市憲寿

イラスト=服部 あさ美

 ある討論番組でご一緒した時のことだ。瀧本さんは、買ったばかりの数冊の専門書を持っていた。どんな本を読むのかと興味があったので、こっそりとタイトルをチェックしてみると、フィンランドの高等教育について。番組で急遽加わった論点に関する本だった。驚いた。だって、瀧本さんくらいの博識であれば、別に新たに勉強などしなくても、これまでの知識から議論に参加できるに決まっているからだ。 そして、気付いた。「博識」とは、こういうことなのだ、と。

 書籍やツイッターをはじめ、瀧本さんの発言には「正解」が多い。時事問題でも、法律論争でも、きちんと問題の交通整理をして、現実と文脈に沿った、その場における最適解を提示する。だから瀧本さんの言葉には説得力がある。だけどそれは、いわゆる「大学教授」のように、死蔵された過去の知だけに基づいたものではない。かといって過去の知を軽視するわけでもない。

 知を武器にしながら、現実世界で戦い続ける博識な参謀。それが僕から見える瀧本さんの姿だ。その意味で、瀧本さんは本当の意味で「知識人」なのだと思う。

古市憲寿/社会学者


Googleに挑む異端児
井口尊仁
テレパシー創業者兼CEO

文=南場智子

写真=柴田 謙司

 「かなり様子が変」。井口さんに初めてお会いした時に感じた印象です。態度も服も髪型も考え方も周囲の人とは異なっていました。井口さんがどうしてこういう人になったのかとても関心があります。

 空気を読んで周囲の人に合わせる時代は終わっています。解答欄に正しい答えを書く、質問に対し期待されている回答をする。日本ではそういう「間違わない達人」が多いですが、それで世界で勝つことはできないのです。既成の概念にとらわれず、新しい発想で考え、目的に向かって邁進する井口さんを応援しています。

 「Telepathy One」は、これまでのコミュニケーション方法を覆す可能性を秘めています。「Google Glass」にどのように対抗していくのか楽しみです。

 井口さんのように、世界規模で資金調達、研究開発、技術採用し、自ら世界中に声をかけて大きなうねりを作り出せる起業家が増えることが日本の希望に繋がります。

南場智子/ディー・エヌ・エー創業者

日経ビジネス2014年1月6日号 68~81ページより

この記事はシリーズ「特集 THE 100 ― 2014 日本の主役」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。