トヨタ自動車や日産自動車など世界最高水準の技術力を持つ企業が、なぜ何十年も、同じ問題を解決できないのか――。そう思っている人も多いかもしれない。増え続ける「ペダル踏み間違い事故」への対応についてである。

 日本での交通事故は着実に減少し、2000年に約82万件だった発生件数は2009年には約65万件と2割近く下落した。だがこの間、踏み間違い事故は6436件から6577件へ増加傾向にある(交通事故総合分析センター調べ)。

 社会全体の高齢化が一段と進む2014年も続発必至の踏み間違い事故。そんな状況を食い止める可能性があるのが「ナルセペダル」(82)だ。

 「アクセルもブレーキも操作は共に『踏む』という同じ動作。間違えても不思議ではない」。20年以上も前からナルセペダルの開発と普及に取り組む機械メーカー、ナルセ機材(熊本県玉名市)の鳴瀬益幸社長はこう話す。

 ナルセペダルを搭載したクルマはペダルが1つになる。クルマを減速させる時には踏み込み、加速させる時には右側へずらす。慣れるまでは違和感があるが、原理的に踏み間違いは起こり得ない。一般車に後づけでの装着が可能だ。

 衝突対策として大手自動車各社は自動ブレーキ機能の開発に注力しているが、2013年11月、マツダの試乗会で事故が発生。いまだ消費者の万全の信頼を獲得するには至っていない。そんな状況もあって、ナルセ機材には「ここへきて、問い合わせが急増している」(鳴瀬社長)という。

社会問題はヒットの源

 様々な角度から2014年のヒット商品を予測してきた本特集。最後に着目するのは2014年に顕在化する社会問題だ。社会問題が新しい流行や商品の生みの親となるのも自明の理。例えば、2005年に三洋電機が発売した、繰り返し使える充電式電池「eneloop(エネループ)」は、環境という社会問題が生んだヒットの典型例。2000年代以降、パナソニックや東芝など家電各社が発売しシェアを急拡大した静音型のドラム式洗濯乾燥機も突き詰めて言えば、騒音公害という社会問題から生まれた製品と言える。

 では2014年、日本で深刻化する社会問題は何か。言うまでもなく、1つは高齢化だ。国立社会保障・人口問題研究所によれば、日本の高齢化率は2013年で25.1%。4人に1人が高齢者という状況になっている。

 「既に様々なシニア向け市場が活性化しているが、2014年からこの流れは一段と本格化する」。三菱総合研究所の武田洋子・主席研究員チーフエコノミストはこう断言する。恩恵が及ぶのはブレーキと踏み間違えないアクセルだけではない。日用品の販売を手がける中央物産MD本部の林晃司部長は、「今の高齢者は昔のお年寄りに比べ元気。2014年はそんなアクティブシニアの消費が活発化する」と話す。

 例えば、老眼でもスマホを使いこなしたい高齢者に売れそうなのが、端末に装着し画面を拡大するスマホルーペ(83)。視力と聴力を同時に回復できる補聴器付き眼鏡(84)なども話題を集めそうだ。また、足腰が弱っても小型モビリティー(85)に乗り、高齢者に人気のスーパー(86)や健康志向のコンビニ(87)に出かける高齢者も増え、新趣向の介護ビジネス(88)、お年寄りにも使いやすい新型の防災器具(89)、歯に優しい食材(90)などへのニーズも高まる可能性が高い。

脚光浴びる孤立防止サービス

 2014年、より顕在化する2つ目の社会問題は孤立化だ。「2013年の反動が生む流行」編では「人間関係疲れが1人消費ブームを起こす」と予測したが、一方で、SNEP(孤立無業者)や孤独死の問題も深刻化している。

 都市再生機構によれば、運営管理する賃貸住宅約76万戸において、単身居住者が誰にも看取られることなく住宅内で死亡した例(自殺や他殺を除く)は、1999年度から2008度までに約3倍に増加。その3割は65歳未満で、孤立化が決して高齢者だけの問題ではないことがうかがえる。

 そんな状況だけに2014年は、孤立化防止ビジネスの需要も高まるのは間違いない。その1つが「家族の家庭内孤立を防ぐサービス」だ。

 孤独死こそ招かないものの、子供の不良化や引きこもりに発展しかねない家庭内孤立。それを家の間取りを工夫し回避しようというのが長崎市に本社を置く工務店、小川の家が取り扱う子育て優先住宅(91)だ。間仕切りが少なく、家族の気配を感じられる設計が特徴。小川勇人社長は「親子のコミュニケーションの大切さが見直されてきており、長崎に限らず、全国から引き合いが堅調」と話す。

 同じ住宅関連では、「トラブらないシェアハウス」(92)も、孤立化防止のキーワードで注目を集めそう。手がけているのは東京都杉並区の建築デザイン会社、夏水組だ。

 複数の人が共同生活するシェアハウスに暮らすことは孤立化を防ぐうえで1つの選択だが、赤の他人が集まることで揉め事も起きやすい。その点、同社のシェアハウスはとにかく個性的。「特徴あるデザインにして同じ感性を持つ人を集めればトラブルも少なくなる」と坂田夏水社長は説明する。

 こうした住宅関係以外にも、従業員が高齢客の話し相手になるファミレス(93)など孤立化防止には様々な商機がある。今後は、SNSなどを通じた表面的な人間関係に嫌気が差した人の中から、孤独を選ぶのではなく真の友を探そうとする動きも出てくるかもしれない。そんな層には友コン(94)が味方になるし、それでも孤独が癒やされない人への次世代サービスや商品(95、96)も生まれるはずだ。

 そして、高齢化、孤立化に続き、2014年の日本にとって大きな社会問題となるのが、治安悪化だ。

 内閣府が2012年に公表した治安に関する世論調査では、過去10年間で日本の治安が「悪くなった」と思う人は81.1%。2013年も凶悪事件がメディアを賑わせた。

 「不安を解消したいというのは今の日本人の一大ニーズ。2014年も様々な関連製品やサービスが注目を集める」と野村総合研究所の神尾文彦・部長主席研究員は指摘する。「外出先からでも家電の消し忘れや戸締まりが確認できるシステム」(97)はその一例。完成すれば、防犯に直結するうえ、「家を出た後エアコンを消し忘れたのではないか」といった不安もなくなる。

 カギを握るのが、ロームが開発した電力線搬送通信「HD-PLC」 inside規格のチップ。これを搭載した電子機器は、コンセントにつなぐだけで外部と情報のやり取りが可能になる。2014年の3月にはサンプル出荷が始まり、6月からは量産が開始される予定だ。

犬が育むビジネスチャンス

 もっとも、今の日本で治安を脅かしているのは、見ず知らずの他人だけではない。例えば、ペットブームが広がる中で目立ち始めた犬の噛みつき事件。飼い犬が近所の人にケガを負わせれば、刑事民事両面で責任を問われかねない。2013年10月には飼い犬の噛みつき事件で、マンション管理会社へ1725万円の賠償を支払う判決が東京高裁で下された。

 そこで2014年以降、市場を広げそうなのが犬の噛みつき防止グッズ(98)。「海外では一般的だが、日本では『かわいそう』という声が多かった。だが今後は変わってくる」。犬用の飼育グッズ開発販売会社、テラモトの担当者はこう話す。


 噛みつき事件が増加する中では、犬のメンタルヘルス対策サービス(99)も2014年以降、需要が高まる確率が高い。「犬が人を噛む原因の1つは、ストレス」(ペット用保険を手がけるアニコム損害保険)だからだ。

 また、近所トラブルと言えば、ペット以外にも騒音問題が深刻化しつつある。その意味で、2014年は近所迷惑にならない新種のイベント(100)なども注目を集めそうだ。

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 以上が、本誌が考える「2014年に売れる商品100」だ。いずれも歴史的検証に基づく理論的予測であり、2014年には、必ずや「法制度変更」「世相」「環境変化」「新技術」「前年の流行」「社会問題」による6つの流行が生まれ、紹介した商品の注目度が高まると確信している。

 もちろん、今回の特集で予測したことは、2014年に起きる出来事の一部でしかない。未来には、推測可能な未来と、予測不可能な未来がある。最近は、経済のグローバル化や複雑化に伴い、リーマンショックのように、確率論や経験則では推測できない「ブラックスワン」的現象も増えてきた。

 では、そうした突発的事象の前では我々は無力のままなのだろうか。

 1つ手があるとすれば、異色企業家の知恵を借りることだ。

 1000に3つの成功率と言われる起業を成し遂げ、巨大資本と渡り合い、大胆奇抜な発想で死地を潜り抜けてきた彼らには、やはり常人にない「先を見通す力」があると本誌は考える。

 万全の対策を持って新年を迎えるためにも、次ページからの第2特集で、7人の異色企業家による2014年予測を展開する。

日経ビジネス2013年12月30日号 43~45ページより

この記事はシリーズ「特集 2014年 これが売れる」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。