一見すると、何の変哲もない65型の大型液晶テレビ。だが、よく見ると液晶がゆるやかに湾曲している――。

 これは不良品でも何でもない。ソニーが2013年、米国や中国で発売した世界初の曲面液晶テレビ「S990A」(46)だ。視聴者を包み込む形になっており、「従来のテレビに比べ、圧倒的な没入感がある」(ソニー)という。

 その形状ゆえにこの新型テレビには大きな“弱点”がある。せっかくの没入感を思う存分、体感できるのは、真正面に座る人に限られるのだ。ただし、1人でゲームや映画にどっぷりのめり込みたいユーザーにとっては、まさしく最高の1台と言える。

 「テレビ=一家団欒で見るもの」という常識を覆した「S990A」。この新製品に感心する専門家は少なくない。「『何でも仲間と一緒』という時代が転換期を迎えつつある。1人の時間を大切にする人が増え、そのニーズを捉えた商品が伸びる」。スポーツ玩具の輸入・販売会社、ラングスジャパンの小林美紀社長はこう予言する。

ブームの反動を待ち受ける

 翌年のヒット商品や流行を推測するうえでは、前年のトレンドを分析することも重要だ。

 「ブームやトレンドが大きければ大きいほど揺り戻しはある。ブームの反動を待ち受けるのは非常に有効なヒット商品開発法」。こう指摘するのは、マーケティング調査などを手がける商い創造研究所の松本大地社長。

 実際、歴史を顧みても、前年の反動が翌年のヒット現象に結びついた事例は枚挙に暇がない。

 例えば2006年に起きた“お手軽健康ブーム”。「豆乳」「黒酢」「寒天」など特定の食品を食べるだけでやせる簡単ダイエットが流行した。それが、翌2007年は風向きが一変。DVD「ビリーズブートキャンプ」(オークローンマーケティング)を代表とする“苦行ダイエット”が一世を風靡した。「上がったものは下がるし、下がったものは上がる。自然の原則」とIISIAの原田CEOは話す。

 では、2014年には、2013年のどんな反動が起きるのか。多くの専門家が声を揃えるのが「絆疲れ」現象だ。

 東日本大震災以降、日本列島を包み込んだ「絆ブーム」。人とつながることの大切さが強調され、SNSなど人間関係を確認するツールが大流行した。だが、商い創造研究所の松本社長は「それにしても今の世の中は“つながりすぎ”。反動が起きつつある」と予見する。

 その結果、離陸しそうなのが「お一人様市場」だ。1人で楽しむのに最適な曲面テレビはほんの一例。同じソニーのゴーグル型テレビ「HMZ-T3」(47)を筆頭に、「家庭内での個食化が広がる」(食品卸の日本アクセス)ことを背景に1人鍋(48)が浸透するほか、1人ゴージャス旅行(49)や1人用玩具(50、51、52)、絆をあえて断ち切るIT(情報技術)断食(53)なども人気を集めそうだ。「1人で“家飲み”する独身者が増えている」(ドン・キホーテ)ことから、手の込んだプレミアムな缶詰(54)需要の増加も期待できる。

 2014年に起きそうな2013年の反動はまだまだある。例えば、流行語大賞にも選ばれた「今でしょ!」も、その発信源となる確率が高い。

 2013年は、アベノミクスによって見え始めた景気浮揚の兆しを何とか形にしようと、多くの日本人が「今でしょ!」と仕事やスキルアップに一段と邁進した。「その潮目が変わりつつある」。博報堂生活総合研究所の中村隆紀グループマネージャーはこう話す。いわば「今じゃなくてもいいでしょ(のんびりいきましょう)」と考える人が増える可能性がある、というわけだ。

 実際、既にこんな変わったサービスが注目されている。

 神奈川県三浦市。ここに築90年の日本家屋を改装した会員制クラブ「ミサキシエスタサヴォリクラブ(昼寝城)」(55)がある。訪れる会員の目的は昼寝をすることだ。

「昼寝」が目的の会員制クラブ

 家の中にはハンモック(56)が吊るされ、利用者は思い思いに利用が可能。「サボって何もしない非日常こそ最高の贅沢」と同クラブを運営する3knotの寒川ハジメ氏は語る。

 “生き急ぎ”を見直す人が増えれば、ここ数年、大流行した朝活や終活、自己啓発ブームの反発(57、58、59)が起きても不思議ではない。

 「『とにかく成長したい、人脈を作りたい』と毎日朝活に参加し出社前から気を詰めていては、行き詰まる人だって出てくる。働き方の多様化もあって、これからは早朝から趣味を満喫した後、定刻出社するような人が増える」。出勤前時間の新たな活用法を提言しているエクストリーム出社協会の天谷窓大氏はこう話す。

 「2.「世相」が生む流行」では「五輪効果で英語熱が高まる」と指摘したが、それはあくまで第2母国語を比較的容易に習得できる幼児の話。スマートフォンを使ったリアルタイム翻訳サービスが発達していることもあり、大人の間では「英語を諦める人」(60)も増えそうだ。

 このほか、ゆるキャラ以上にゆるいキャラクター商品(61)や、メラトニンやテアニンなどを含有しリラックスしたい時に飲むドリンク(62)なども「今じゃなくてもいいでしょ」発ヒットの候補と言っていい。


 そして、「絆疲れ」「今じゃなくてもいいでしょ」に続く、2014年の“前年反動型ヒット”のキーワードが「おもてなしへの疑問」だ。

 「今でしょ!」とともに2013年の流行語大賞となったのが「お・も・て・な・し」。だが、2013年秋から全国的に発生した飲食・ホテル業界のメニュー誤表示問題により、多くの日本人は、世界に自慢できるはずの日本のおもてなしが、一皮むけば非常に脆弱だと気づいてしまった。「2014年は、形ばかりの過剰な接客やもてなしはいらないという人も出てくる」と商い創造研究所の松本氏は予想する。

おもてなさないのがおもてなし

 そうした風潮を感じ取り、既に接客に生かしているのが横浜市青葉区の東急百貨店たまプラーザ店だ。

 百貨店と言えば、来店客に向き合い、“おもてなし”をするのが常識。だが、この店では「Just looking」と書かれたタグを着ければ、声かけを控えてくれる。その名も、「ストレスフリーショッピングサービス」(63)。「買い物はしたいが、百貨店特有の接客が苦手」という人には、最上の“おもてなし”と言える。

 「お客様との距離感を大事にするのが当社の方針。『1人でじっくり商品を見たい』という投書を頂き、試験的にサービスを開始した」と東急百貨店たまプラーザ店営業統括部の首藤朗弘マネジャーは導入の経緯を説明する。一部専門店などでも、同様のサービスを導入する動きはあり、2014年は“おもてなさないおもてなし”が市民権を得るかもしれない。

 同様に、接客を徹底的に簡素化したホテル(64)や、余計な機能を抑えた超単機能家電(65)、安価な原材料を正直に提示した飲食店メニュー(66)なども浮上のチャンスがある。

 振り返ってみれば、2013年は、アベノミクスやご当地キャラ、あまちゃん、半沢直樹も含め、例年以上に様々なトレンドが出現した年でもあった。それだけに2014年は、これまで紹介した以外の様々な反動ブーム(67、68、69)も起こる可能性がある。その意味で、2014年は、「ブームの反動を待ち受けるヒット商品開発」がよりやりやすい年と言えそうだ。

(写真:竹井 俊晴[63])

日経ビジネス2013年12月30日号 38~40ページより

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