6月から7月にかけFIFAワールドカップ(W杯)ブラジル大会が開催される2014年。実はW杯の年にはほぼ100%の確率で売れる商品がある。眠気覚ましドリンクだ。

 2002年の日韓共同開催を除けば、ドイツ(2006年)、南アフリカ共和国(2010年)などと、日本と7時間以上の時差がある国ばかりで実施されてきたこの20年のW杯。重要なカードが深夜早朝に組まれることも多く、期間中、多くの人が寝不足に陥ってきた。

 とりわけ2014年開催のブラジルはまさに“地球の裏側”で、時差は12時間。これまで以上に、ロッテの「ブラックブラックガム」や、ハウス食品の「メガシャキ」などに特需が起きるのは間違いない。

 中でも、本誌が注目するのは眠気覚ましドリンク「眠眠打破」で知られる常盤薬品工業の「強強打破」(18)だ。眠眠打破が1本50ミリリットルにカフェイン120mgを含むのに対し、強強打破は150mg。数ある眠気覚ましドリンクの中でもその含有量は最高レベルで、「ブラジルW杯は絶好の商機」と同社広報担当者も期待を寄せる。

なでしこ優勝の時は1兆円効果

 ヒット商品を論理的に予測するうえでは、その年の世相やムードを占うことも欠かせない。

 スポーツイベントは、想像以上に世の中の空気を左右するファクター。特に日本勢が勝てば人々のテンションが上がり、消費マインドが急上昇することは歴史的にも証明されており、なでしこジャパンが優勝した2011年FIFA女子W杯などは、関連グッズや書籍を含めた経済効果が1兆円に到達したとも言われている。ブラジルW杯も同様に、現地の応援グッズ(19)など各種のヒット商品を生むのは確実と言っていい。

 本誌が注目するのは“どこでも枕”こと、「オーストリッチ・ピロー」(20)。頭巾のような形状で頭からかぶって使う。前面には呼吸用の穴が開いており、顔はクッションで保護。机に突っ伏してうたた寝する際に最適なアイテムという。普及すれば、W杯期間、会社のデスクや休憩室で睡眠時間を補塡する会社員が増えそうだ。

 2014年には、W杯に加え、6年後に実施される東京五輪も、早くもいろいろな流行現象を形作りそうだ。気勢が上がっているのは竹中工務店など大手ゼネコンだけではない。

 「五輪決定の影響は非常に大きく、人々の生活を明るくし、消費や投資の呼び水となる。6年後に向け様々な準備を始める人も増える」と、電通総研の袖川芳之・研究主幹は予測する。

 既に、我が子を五輪の日本代表選手にしようと都内の体操教室に問い合わせが殺到していることなどが報じられているが、本誌が着目しているのは外国人ベビーシッター(21)の増加だ。

 関東を基盤にベビーシッターなどを派遣する「ハニークローバー」は、外国人による「外国語シッティング」が強み。0歳から12歳まで幅広い年齢層向けにシッターサービスを提供している。本格的な英会話を学べるカリキュラムも用意済みだ。

 標準的な利用料金は1時間当たり1500~2000円程度、入会金は2万円程度と日本人のみのシッターサービスに比べれば割高だが、「せっかく預けるなら、将来のために英語を学ばせたいというニーズは高まっている」(ハニークローバー)という。

 6年後に向けては、英語力のレベルを含め、果たして日本人に世界中の人々を「おもてなし」するだけの異文化対応力があるのかという議論も活発化するはず。恐らく日本人の国際力の低さが話題になる中で、現実に異文化共生を果たしている国内の“外国人団地”(22)などへの関心も今以上に高まると見られる。

 また、三井住友アセットマネジメントの宅森昭吉チーフエコノミストは「高齢者の間で『少なくともあと6年は心身ともに健康でいたい』という機運が高まり、健康関連産業などが盛り上がる」とも予測する。同じ文脈で、「6年後」をテーマにしたグッズ(23)なども市場を広げておかしくない。

 もっとも、2014年に発生するイベントは必ずしも世相を明るくするものだけではない。逆に消費マインドを下げかねないのが4月の消費増税だ。

 ただ、財源確保のための課税強化でビジネスチャンスが生まれる業界があるように、消費増税で生まれるヒットもある。

 キヤノンマーケティングジャパンとカシオ計算機が販売している「税ボタン2つ付き電卓」(24)はその1つ。文字通り、税込み計算用のキーを2つ搭載した電卓で、5%と8%という消費増税前後の2つの税率で計算できる。

確実に儲かる最強の鉄板投資!?

 金投資(25)も注目を集めそうだ。

 金は購入時には消費税を支払うが、売却時には個人であっても消費税分を受け取ることが可能。このため、仮に金の価格が変わらなければ、3月に消費税込みで105万円で購入した金を4月に売れば、108万円が手に入ることになる(諸経費などを考慮せずに試算)。将来、消費税率が10%に上がれば、利益はさらに増える計算。これは金だけではなく、プラチナや銀などの貴金属にも当てはまる。

 もちろん、多くの人がそう考えて同じ行動をすれば、金の価格が増税前には高騰し、増税後には下落するのが避けられないため、現実にはここまでうまくいくとは限らない。それでも、過去の消費増税の時期でも金投資がブームになってきたのはほかならぬ事実。

 「1989年4月の消費税導入直前に通常月間25~30トンだった金の輸入量が2月に39トン、3月に41トンと大幅に増加した。消費税が3%から5%になった97年も直前に2倍程度伸びた」と税金ジャーナリストの宮口氏は説明する。こうした金バブルの到来を予見してか、都内では金貨や銀貨の自動販売機まで登場している。

 さらに、W杯や東京五輪、消費増税とともに2014年の日本の世相に大きく影響を与えそうなのが、日本がバブル前夜にあるという事実だ。

 崩壊するか軟着陸するかはともかく、2013年以降の異次元緩和で日本がバブルに向かっているという見解の専門家は多い。原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)の原田武夫CEO(最高経営責任者)もその1人。「欧米や新興国市場が期待できない中、唯一期待できる市場と見なされ、世界のカネが日本に集まる可能性が高い」と指摘する。

 だとすれば、バブル前夜のムードは流行にどんな影響を与えるのか。「カネがだぶついて、人々の気持ちに余裕が出てくると、実用性のないシュールな商品がよく売れる」。こう話すのはeワラント証券の土居雅紹COO(最高執行責任者)。そんな土居COOが「不況期にはまず出てこない商品」として挙げるのが、バンダイから2014年6月に発売予定の超合金ハローキティ(26)だ。

カネ余りで売れる“妙なモノ”

 既に火がつき始めている古墳ブーム(27)なども“シュール系ヒット”の1つとなるかもしれない。古墳が一般的に話題となり始めたのが2013年夏頃から。きっかけは奈良県明日香村のキトラ古墳の公開だ。全国にいる古墳ファンの応募が殺到し、中でも「歴女」と呼ばれる歴史愛好家の女性たちが古墳に強い関心を示していることが明らかになった。

 2014年4~5月には東京・上野の東京国立博物館でキトラ古墳から取り出された壁画が公開されることが決定済み。「古墳が2014年の話題をさらう」。古墳ファンの集いである「古墳にコーフン協会」の会長で、ブルース歌手の藤田麻里子氏はこう断言する。

 また2013年、「プロデューサー巻き」が流行したように、トレンドが20~30年単位で循環しているのはもはや定説。その意味で、単純に前回のバブルで生じた現象(28)がリバイバルヒットすることも想定される。

 天災や紛争などの非常事態さえ起きなければ、全体としては明るい世相になりそうな2014年。企業にとっては、「消費者の財布のひもが固いから業績が伸びない」という言い訳が使えない年になりそうだ。

 

(写真:スタジオキャスパー[18、19、20]、アフロ[25]、©1976,2013 SANRIO CO.,LTD.[26]、時事通信フォト/朝日航洋[27])

2014年注目の国 “超大穴”はコスタリカ

 2014年に注目すべき国の筆頭は、ずばりコスタリカ(29)。専門家でも知っている人は少ない知られざる環境先進国だ。国内電力需要の約9割を水力や地熱、風力などで賄っており、2014年に電源構成に占める再生可能エネルギーの比率を95%まで高める計画。日本で「脱原発」の議論が盛り上がれば、その注目度はより高まるはずだ。

 世界の物流の流れを大きく変える可能性があるのが、北極海航路(30)。輸入ルートが地政学的に限られている日本にとっても重要なトピックスとなる。既存の物流の要衝も負けておらず、パナマ運河ではより大型の船舶が通れるよう拡張工事が始まっている(31)。

 ロシア(32)はソチ五輪で良くも悪くも注目されそうだ。同性愛者の活動を制限する法律に反対する意図で、世界の首脳がソチ五輪開会式の欠席を続々と表明している。政情不安地域にも近く、五輪中の不測の事態も想定される。ブラジルW杯の日本代表が初戦で戦うコートジボワール(33)にも脚光が当たりそう。アフリカの西海岸に位置する国で、カカオの一大産地だ。

日経ビジネス2013年12月30日号 33~35ページより

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