田中 洋一
三越伊勢丹 食品第三商品部惣菜・ベーカリー バイヤー

 一昔前までは各家庭で作られていたおせち料理も、少子高齢化や核家族化の流れとともに、小売店などで買い求める人が増えてきている。お正月くらいは贅沢をしたいという消費者心理を映してか、おせちビジネスは不況にも強いというのが百貨店業界の通説になっている。

 アベノミクスで財布の紐が緩む傾向にあり、それはおせちにも顕著に表れた。目立つのは、百貨店のおせちの良さを知り、リピーターになった客層がより単価の高いおせちを買い求める購買行動だ。平均購入単価は毎年200~300円ずつ増えているが、今シーズンは850円と、例年にない伸びを示したのが大きな特徴だ。

 百貨店でのおせちの売り上げ増に大きく貢献してきたのが「1万円おせち」。これは1998年に初めて販売されたおせちの箱詰めだ。かまぼこや黒豆、伊達巻などおせちの定番アイテムを1つの箱にまとめて1万円で売り出した。初めて百貨店のおせちを購入する人も買い求めやすい価格設定にして、おせち購入層の裾野を広げることを狙った商品である。1万円おせちは、首都圏の三越で今でも1シーズンに約6000個売れる定番商品になっている。

 今シーズンは1万円の次に売れ行きの多い3万8000円前後の価格帯にシフトする動きが目立っただけでなく、5万円とより単価の高いものを買い求める人も増えた。

 そもそも、百貨店でのおせちの取り扱いは67年、三越本店の特別食堂で売り出されたのが初めてと言われている。広く普及し始めたのは2000年頃からだ。1990年代後半に始まった中食市場の拡大によって、お店でおせちを買う習慣が定着してきた。

 中でも、2000年になると同時にコンピューターの誤作動が多発すると恐れられた「Y2K問題」は、百貨店のおせちが広く認知されるきっかけとなった。というのも、多くの企業が問題発生に備え、年末年始に担当者を出社させたからだ。

 年始に出社した社員の労をねぎらい、お正月気分を味わってもらいたいと用意されたのが百貨店のおせちだった。その結果、1999年度のおせちの売り上げは、前年比で1.5倍と例年にない伸びを記録した。

 その後も売り上げは減ることなく、ここ10年間は毎年1~2%増と堅調に推移している。2008年のリーマンショック後は、平均購入単価こそわずかに下がったものの、全体の売り上げは減らなかった。

和洋折衷など種類も豊富に

 おせちの種類がバラエティーに富んできたことも、売り上げ増に貢献している。以前は売り上げの9割を占めていた和食のおせちが今や7割となり、代わって洋食のおせちが1割強、和洋折衷のおせちも増えてきた。中身も普段は食べない高級食材を使ったオードブルなどが出てきている。

 有名シェフやレストランとのコラボレーションおせちの取り扱いも増え、「今年はここのおせちを食べてみよう」と、購入者の楽しみを喚起する役割を果たしている。

 種類が豊富になったことで、複数商品を同時に買う人も増えている。今年は景気好転の影響もあり、「年越し賑わい膳」と呼ばれる、大晦日に食べるご馳走の詰め合わせを、おせちとともに購入する人が多かった。百貨店としても、1億2000万人の胃袋を増やすことはできなくとも、年末年始に2回ご馳走を食べる習慣を提案できれば、市場の拡大は見込めるという戦略である。

 おせちは時代の流れとともに、もはや伝統食の粋を超え、家族が揃った時に頂く年末年始のご馳走と位置づけられるのかもしれない。

(構成=武田 安恵)

日経ビジネス2014年1月6日号 20ページより目次

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