2020年の東京オリンピック開催が決定して3カ月が過ぎた。東京商工会議所の招致活動に協力してきたこともあり、開催が決定した時は深い達成感を覚えた。だが次の瞬間、手放しで喜ぶ気持ちはぐっと引き締まった。

 この世界最大級のイベントをきっかけに、訪日客は間違いなく増加する。インバウンドに関する最近の調査データによると、日本を訪れる外国人客は最大の楽しみとして「食事」を挙げている。それなのに、東京五輪の開催決定から1カ月後には、ホテルによる食品偽装のニュースが報じられた。

 11月に入っても、百貨店や飲食店における食品の虚偽表示が続々と明らかになった。メニューには「鮮魚」と表示していたにもかかわらず、実際は冷凍保存した魚を使用していたケースや、「大正エビ」や「芝エビ」と表示しながら、実際には違う種類のエビを使っていることが指摘された。

「和食」はユネスコの無形文化遺産に登録された(写真:StockFood - Alexandre Oliveira)

 このニュースに触れて私が感じたことは、「日本人がブランドに対していかに無頓着か」ということだ。食品偽装は、食材の持つブランド価値を毀損する行為だからだ。

 高級とされるエビや牛肉は、日本の生産者と料理人たちが長い歳月をかけて確立してきたもの。つまり、ブランド商品そのものだ。問題となった飲食店は、食材の持つ価値が日本の食文化にとって大きな財産であるという事実に、思いが至っていなかったのだろう。

 食材に限った話ではない。あらゆる領域において、日本人はブランド価値に対して無頓着な面がある。これは今に始まったことではなく、戦後日本に染みついた悪癖と言える。

 我々日本人は、「良い物を作れば売れる」という合言葉の下、売れるモノばかりに興味を示してきた。力強い内需に支えられて多くの日本企業が成長する中で、グローバル社会における重要な価値観を築き損ねてしまったのではないか。

 日本製の時計は高い性能を誇るが、スイス製の時計との価格差はケタ違いだ。これはスイス製の時計が、単純な性能だけではないブランド価値を備えているからにほかならない。

 日本には卓越したモノ作りの技術も、素晴らしい文化もたくさんある。だが、ブランドという大きな要素を忘れてしまっている。

東京五輪までの7年間が勝負

 12月4日には、「和食 日本人の伝統的な食文化」が、ユネスコの無形文化遺産に正式に登録された。日本の外食産業が待ち望んでいた出来事だ。

 和食は長い歴史の中で築き上げられた、他国にない価値を持つ文化だ。無形文化遺産への登録は、和食を世界中の人に知ってもらう大きなきっかけになるし、一層のブランド力アップが期待できる。

 だが、無形文化遺産という追い風に甘んじてはいけない。ブランド価値に上限などないのだから、たゆみない努力を続ける必要がある。今回の食品偽装が、食材の持つブランド価値の毀損であることを再認識し、ブランドへの意識を高める好機になることを願ってやまない。それができれば、国際社会の中で、日本の優れた食文化は、今以上に憧れの存在となるはずだ。

 2020年の東京五輪に向けて、日本を活性化するプロジェクトは始まったばかり。これからの7年間、いかに実績を積み上げていくかが問われる。日本食の価値、ひいては日本そのものの価値をどれだけ高められるか。「招致してよかった」と誰もが思える結果を創りたいものだ。

滝 久雄(たき・ひさお)氏
1996年、経営する広告代理店NKBの一事業部として飲食店検索サイト「ぐるなび」を開設。その後分社、2000年に株式会社ぐるなび発足、会長に就任。

日経ビジネス2013年12月23日号 118ページより目次