今、日本がベンチマークの対象とすべき国はどこか。その答えを1つ挙げるなら、間違いなくドイツだ。「メルケル」と「ゴルフ」。その理由は両者の存在に凝縮される。

 12月14日、ドイツで大連立政権が誕生することが正式に決まった。9月の総選挙では、アンゲラ・メルケル首相率いる与党が勝利していたが、この日、最大野党が党員投票を経て連立参加に最終合意したのである。メルケル氏は2005年の首相就任以来、3期12年もの長期にわたって、欧州最大の経済大国を運営することになった。

出所:経済成長率は国際通貨基金(IMF)、貿易収支はドイツ連邦統計局(写真4点:AP/アフロ)

経常黒字は中国抜き世界トップに

 ドイツは今、「欧州のエンジン」と称される。ユーロ危機の後遺症から抜け出せない欧州経済の推進力として、ドイツへの期待は高まるばかりだ。

 今年9月、ドイツはリーマンショック前のピーク時を上回る過去最大の貿易黒字を記録した。2012年の経常黒字額は中国を抜きトップだ。メルケル首相の下、ドイツは世界最強の黒字大国となったと言ってもよいだろう。

 だが、この強さは過去10年の間に身についたもの。それまでは「欧州の病人」と言われるほど経済は低迷していた。今でこそドイツの経済成長率は欧州連合(EU)の平均値を上回るが、2005年までは10年以上にわたって欧州経済の足を引っ張った。

 1990年代のドイツは、バブル崩壊後の不況に苦しみ続けていた日本と重なる。ただし、大きな違いがある。それは、長引く経済の低迷からドイツが日本より先に脱したということだ。

 日本が長期のデフレから抜け出せずにいる間に、ドイツは欧州統一通貨「ユーロ」の導入や東欧へのEU拡大でグローバル化に対応した。一方、国内では労働市場改革で、賃金上昇を抑えた。苦境をバネに、長期ビジョンに基づいた改革をブレずにやり遂げてきた成果が今、メルケル政権下で実っている。

 もちろん、マクロ経済の底上げだけが復活の要因ではない。自動車産業を中心に、イノベーションを生み出す産業力を復活させたのである。その象徴が、フォルクスワーゲンの「ゴルフ」だ。

 11月23日、東京モーターショーの会場で今年の「日本カー・オブ・ザ・イヤー」が発表された。受賞したのはゴルフ。トヨタ自動車やホンダなど日本勢を押しのけて輸入車が受賞するのは、同賞34年の歴史で初めてのこと。

 しかも、受賞理由には「モジュールによる新たな開発手法を採用」とある。技術や乗り心地のみならず、それを生み出す開発プロセスが評価される異例の受賞となった。

ドイツに学び、一度は抜いた日本

 日本は明治維新以降、ドイツをはじめとする欧米先進国から技術を学び、勤勉で豊富な労働力を基盤に高品質の製品を生み出してきた。20世紀後半になると、日本は「ジャスト・イン・タイム」に象徴されるトヨタの生産革新や、「軽薄短小」と称されたソニーの「ウォークマン」などの画期的な製品で、「メード・イン・ジャパン」の評価を世界中で高めた。

 一方のドイツは、日本の台頭に苦しむことになる。自動車産業はコスト競争力で及ばず、家電業界は技術革新が停滞して経営難に陥った。

 それでも、ドイツは逆境に復活の糸口を学んだ。周囲がドイツを「欧州の病人」と揶揄する中、トヨタ生産方式など日本の競争力を分析し、自己流にアレンジして導入を進めてきた。そして、市場のグローバル化を予見し、その戦いに勝つために、ゲームのルールを変えるイノベーションを時間をかけて準備してきた。その努力が花開いているのがゴルフである。そしてそれは、数多くある成功事例の氷山の一角にすぎない。

 「メルケル」と「ゴルフ」。それは一度は病人として床に伏せたドイツが、再び強くなった象徴だ。

 日本とドイツは共に敗戦国として一度は自信を喪失した。しかしそこから、製造業を中心とする強い産業基盤をテコに、奇跡的な復興を遂げた。労働者の勤勉さや団結力、製品の信頼性の高さなどにおいても、通じ合う点が多い。

 時に学び、時に教え、競い合ってきた日本の「最強のライバル」。そのドイツが、いかにしてイノベーションを引き起こし、産業競争力を引き上げてきたのか。

 まずは、昨年の研究開発投資額で世界トップに立ち、トヨタに挑戦状を突きつけているフォルクスワーゲンから見てみよう。

日経ビジネス2013年12月23日号 28~29ページより

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