第2次安倍晋三政権の発足から、1年が過ぎようとしている。

 TPP(環太平洋経済連携協定)やアジア外交、原発、消費増税など難問山積みの中、再登板となった安倍首相の、粘り腰や意外な打たれ強さに驚いた読者も多いのではないか。体調不良で逃げるように首相の職を辞した第1次政権時とは雲泥の差だ。

 変身の陰には、こんな“隠密行動”があった。

 東京・谷中にある全生庵。山岡鉄舟ゆかりのこの禅寺を安倍首相が訪れたのは、福田康夫元首相に首相の座を譲った半年後。山本有二・衆議院予算委員長に連れられてきた首相は、いかにも憔悴しきった様子だったという。

 それから5年弱。月に1度、全生庵の本堂には必ず安倍首相の姿があった。山本氏らと3人でやってきては1時間ほど座って帰っていく。時には、住職の平井正修師の講話に傾聴することもあった。第2次政権誕生後はさすがに足が遠のいたが、4月の北朝鮮によるミサイル発射が懸念された際、そして特定秘密保護法成立から一夜明けた今月7日にも坐禅を組みに訪れた。

 平井師はその都度立会人を務めながら、首相が徐々に健康と自信を取り戻していく様子を見守った。「首相が坐禅を通して何を得たのか、それはご本人でないので分からない」としながらも、後半は坐禅中の姿勢も良くなり、生気に溢れているように見えたという。

 鎌倉や室町時代、武士層の圧倒的支持を得て普及した禅は、時代を超えて権力者やビジネスパーソンの心を捉えてきた。とりわけ昨今は、京セラ名誉会長の稲盛和夫氏や、米アップル創業者のスティーブ・ジョブズら影響力の大きいアイコンの登場で、若手から経営者まで幅広い層に、多様な形で波及している。ビジネスの場に広がる現代の禅を追った。

(写真:大高 和康)
(森田 聡子、鵜飼 秀徳、ニューヨーク支局 細田 孝宏)
(デザイン:藤田 美夏)

CONTENTS

思考と実践を繰り返すことで達する新境地
禅こそビジネスの流儀

“稲盛流”哲学を支える禅的思考
会社は修行の場である

大切なことはすべて道元が教えてくれた
ジョブズの禅的名言

世界が注目!禅の心をカタチにする
禅プロダクツ最前線

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開くべきか、閉ざすべきか

日経ビジネス2013年12月16日号 28~29ページより目次