あの会社に勤める人はいくらぐらい企業年金を受け取るのか。なかなか知ることはできないが、大まかに推測する方法はある。退職給付債務は、社員から見れば受け取れる年金、退職金。日経225企業の1人当たり退職給付債務から読み解こう。

注:対象は日経平均株価採用企業。出所は日経NEEDS、各社の有価証券報告書。原則、直近の本決算。HDはホールディングス、またはホールディング。-は開示なしなど。確定拠出年金の採用企業、総合設立型基金などに加入する企業は債務額が小さいかゼロになっているケースもある

 人間たるもの他人の懐具合はやはり気になる。定年後の生活の柱となる年金であればなおさらだ。企業ごとの年金事情はそれぞれだが、大まかになら探る方法はある。企業が公表する有価証券報告書を手がかりにするのだ。

 有価証券報告書には、公的年金に上乗せして支給する企業年金についての情報がある。最も基本的な数字が退職給付債務。従業員一人ひとりの現時点までに発生している年金、退職金を「現在価値」で示したものだ。

 これを社員数で割れば、1人当たりの退職給付債務を計算できる。企業にとっての債務は、社員側から見れば受け取ることができる年金、退職金だ。

 ただ、この数字が受け取れる金額そのものではない。現時点までに発生している債務にすぎず、定年までの就労で年金、退職金はさらに積み上がっていく。どこまで増えるかを外部からうかがうには、社員の平均年齢を判断材料にするのがいいだろう。

 平均年齢が40歳の企業を例に取る。大卒、高卒入社の割合にもよるが、入社時の平均年齢を20歳とすれば、60歳までの勤務年数はおよそ40年になる。40歳はちょうど折り返し地点だ。給与は55歳くらいまでは上がり続けるケースが多く、年金の増加ペースも増していく。つまり、これからの20年で増える年金は、これまでの20年よりも多い可能性が高い。

 「現在価値」という考え方にも注意が必要だ。

 年2%の利息がつく世界を想像してみる。「現在の100円」と「1年後の100円」を比較すれば、金利分だけ「現在の100円」の方が値打ちがある。現在の100円に釣り合うのは1年後の102円。複利で考えるので、2年後なら104.04円になる。

 このように考えると、現時点の退職給付債務は実際に給付を受ける額面金額に比べ小さくなっている。この金利に相当するものを「割引率」と呼ぶが、表にある通りおおむね1.5~2%前後の数字を採用している企業が多い。

 複利方式で20年間、年2%のペースで増えていくと1.5倍弱になる。就業期間の伸びに対し、積み上がる退職金も増加していくが、日本企業の多くは勤続が長くなればなるほど加算が多くなるという「後加重」の比率が高い。

 企業によって千差万別だが、平均年齢40歳の企業の場合、年金、退職金の受取額は現時点の1人当たり退職給付債務の2.5~3倍ほどになっていても不思議ではない。

 企業が年金、退職金の支払いに備えて積み立てているのが年金資産だ。積み立て方は企業によるが、退職給付債務に比べあまりにも年金資産の額が少ない場合には注意が必要かもしれない。債務を減らすためには企業年金の給付水準を切り下げるしかなく、これは取りも直さず退職者の受取額が減ることを意味するからだ。

 繰り返しになるが、この探り方はかなり大雑把だ。社員数の定義が会社により異なる場合もあり得る。ただ、仮に2000万円の退職給付があるならば、少なくとも退職後20年にわたり年100万円ほどの「サポート」が受けられそうだとは言える。制度変更がある可能性は残るが、生活設計を考えるうえでの足がかりにはなるはずだ。

日経ビジネス2013年12月9日号 48~51ページより

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