日本企業のM&Aでここ数年の特徴を挙げるとすれば、先進企業と出遅れ企業の間における力量の差の拡大だろう。前者はM&A先を自ら探して絞り込み、契約からその後の統合・経営まで自分で切り回すM&A巧者になっている。一方、後者は当初の狙いを大きく下回る結果しか出せない事実上の失敗企業である。

 両者の違いからM&Aを成功に導くために必要なポイントを整理したのが下の表だ。1番目の「具体的で緻密な統合後の経営戦略なしにM&Aに臨まない」は基本だが、M&Aが狙い通りの効果を上げない理由の大きなものは、ここにある。そして、これが弱い企業は今なお多い。

M&A巧者はここが違う
成功を導く5カ条

  • 具体的で緻密な統合後の経営戦略なしにM&Aに臨まない

  • 社内にM&Aの専門部隊を設け、自ら対象企業を調べ、絞り込む

  • 契約の内容に厳しくこだわる。買収後に事前に知らされない悪い問題が出てくる場合に備えるのは当然

  • 海外企業のM&Aでは、買収先の経営陣を生かすのが手。ただし、転職制限や成果報酬などの契約をきちんと結ぶ

  • 買収後に起きる様々な事態を想定して準備をしておく。リーマンショックのような事態は予想が難しいが、準備が変化対応力をつける

 例えば半導体大手のルネサスエレクトロニクス。同社は2002年にNECがシステムLSI(大規模集積回路)事業を切り出したNECエレクトロニクスと、日立製作所、三菱電機の同事業が翌年、それぞれ母体から分離・統合したルネサステクノロジが、2010年にさらに合併した。

 だが、合従連衡を繰り返しても業績の低迷から脱け出せない。にもかかわらず、肥大化した組織をスリム化する努力すら希薄なようだ。ある幹部は「2010年の合併後も、事業部長から課長に至るまで各階層に複数の役職者がいた」と明かす。

 では、どうすれば、M&Aの準備力を高められるのか。成功を導く2つ目のポイントはそこにある。国内外約40件に及ぶM&Aで世界有数のモーターメーカーに成長した日本電産の永守重信社長は、「買収対象は常に自分で探している。社内にそのための専門部隊を設けている」と明かす。

 そこで使うのはほとんどが公開情報。しかし、世にある情報を丹念に集め、突き合わせていけば、一つひとつの企業の像が立体的に浮かび上がる。それが他社と違う先行情報になる。そして、有望と見た対象をさらに深く調べる。投資銀行などを使うのはそれから。最初から投資銀行に頼っては、良質な案件の発掘は難しい。

 3つ目は、契約に徹底的にこだわること。例えば、買収後に事前に知らされない問題が出てこないことを、売り手側が“宣言”する「表明保証」と呼ばれる事項を契約に盛り込む。日本企業の中には、そうした契約の中身も投資銀行に頼り切りのケースがある。契約についての知識を企業自身が深め、契約文章を詰めるほどの力量を持たないと、巨額のM&Aには耐えられない。

 4つ目は、買収後の経営遂行力をどう担保するか。前述のキリンホールディングスのケースのように、自身ですべての指示をするのに不安を感じる場合は、買い手側の権限を抑える仕組みを作るのも1つの手。だが、カギは現地の社員をどう生かすかだ。

 従来の経営陣を残すケースは少なくないが、そこでも契約が大事。「3年間は他社に移らない」「その間は業績連動の報酬にする」といった内容を忘れずに盛り込んでおく必要がある。

 ただし、業績が悪化した場合、日本側の指示が悪かったのか、現地経営者側の問題なのかを巡って訴訟になることもある。しかし、「その場合は普通に戦えばいい」(NTTコミュニケーションズの澤田純・副社長)というのがM&A巧者企業の考え方だ。M&Aに強くなるには、そのくらいのタフさも欠かせない。

日経ビジネス2013年12月9日号 76ページより

この記事はシリーズ「特集 “越境M&A”の成否[後編]」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。