写真:鈴木 愛子

 私は入社後ずっと営業畑を歩んできました。いろんな経験をしましたが、失敗もたくさんありました。

 2000年代初め以前の情報システムの構築案件では、一度受注したプロジェクトを何が何でもやり抜くんだと、最後まで突っ走って、巨額の赤字を出したことも少なくありませんでした。

 私が営業部長時代に担当したある化学会社の案件では、15億円で受注したものが、内容を精査したところ60億円以上もかかることが判明したのです。半年以上お客様と交渉しましたが、どうしても折り合いがつけられません。やむなくプロジェクトは中止しました。お客様へのお詫びや経営陣への説明は、それは大変でした。

 これらの失敗経験から「お客様との正常な関係を作り上げていく」ことの大切さを痛感しました。受注時はもちろん、プロジェクトのフェーズごとに進捗や費用をチェックし、お客様に納得感を持っていただきながら進めることが大切です。同時に、営業の行動を変え、お客様視点に立ち、お客様が儲かる仕組みを提案できるようにならなくてはいけません。それは営業個人だけではできない。会社全体で知恵を集める仕組みが必要です。

 この考えが、2004年以降の営業とSE(システムエンジニア)の一体化や、プロジェクトを進捗状況ごとに精査する体制作りにつながりました。3億円以上の大型案件については、経営メンバーで1件1件すべて精査し、採算が合わないものはストップをかけました。

 とはいえ、すべてが黒字でなければ通さないわけではありません。戦略案件で、今後の大型受注につながるものや、社員の育成につながるものは赤字でも積極的に取り組みました。

 蓮舫さんの「2位じゃダメなんでしょうか」発言で話題になったスーパーコンピューター「京」はまさにそうです。実は、京だけを見ると、数百億円の赤字だったんですよ。

 事業仕分けの対象になったことで、逆に燃えましたね。やるからには「何が何でも世界一になれ」と言い続けました。「半年遅れでもいい」という話が出たこともあったのですが、米IBMがより高性能なスパコンを開発しているのを知ったので、予定通りに進めました。このプロジェクトで若い人が育ちました。それが一番の財産です。スパコンは競争力のある商品・製品を出すための基盤になる存在です。だから、世界一にこだわったのです。

 社外取締役からも猛烈な反対が出ました。けれど、京への取り組みがもたらす効果と重要性を丁寧に説明したところ、納得していただけました。

 最近、海外で日本の存在感が少なくなっています。以前は、科学技術、家電、自動車などの品質に対するリスペクトがあった。ですが、ドバイの世界一高いビルを施工したのは韓国企業です。家電、デジタル機器でも韓国、中国などの品質が上がっています。リスペクトもこれらの国々に移っているのではないでしょうか。これは由々しき問題です。今後も、科学技術は日本の中核です。科学技術を高める努力を惜しんではいけません。(談)

日経ビジネス2013年12月9日号 134ページより目次

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