金融危機から5年を経て今、世界各地で住宅バブルの兆候が見られる。何年にもわたる金融緩和によりもたらされた流動性が各地で住宅価格を押し上げている。金融危機の教訓から各国はバブル抑制の手は打っているが、早晩、崩壊することになるだろう。

ノリエリ・ルービニ氏
ニューヨーク大学スターンビジネススクール教授。経済分析を専門とするRGEモニターの会長も務める。米住宅バブルの崩壊や金融危機の到来を数年前から予測したことで知られる。

 様々な国で住宅市場バブルが相次ぎ崩壊したことが、2008~09年の世界的な金融危機の引き金となり、深刻な景気後退をもたらしたことは、衆目の一致するところだ。

 その最たる例が米国であり、英国、スペイン、アイルランド、アイスランド、ドバイでも、甘い規制と行き届かない銀行監督体制、政策金利の低下が同様の住宅バブルを引き起こした。

世界各地に見られるバブルの芽

 バブル崩壊から5年を経て今、スイス、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、フランス、ドイツ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの各国では、バブルとまでは言わないまでも、住宅市場が再び過熱の様相を見せている。英国のロンドンではバブル再燃の兆しがある。

 新興国・地域でも香港、シンガポール、中国、イスラエルのほか、トルコ、インド、インドネシア、ブラジルの主要都市でバブルが膨らみ始めているように見える。

 これらの国・地域では、住宅価格がバブルの領域に入りつつあることを示す兆候が複数浮上している。住宅価格が急騰していること、所得に占める住宅価格の比率が既に高水準にあるばかりか、なおその上昇に歯止めがかかっていないこと、家計部門の負債に占める住宅ローン債務の比率が高水準に達していることといった具合いだ。

 大半の先進国では、長期と短期の両方の金利が極端に低い水準にまで低下、住宅バブルの膨張を招いている。GDP(国内総生産)の伸びが冴えない中、失業率が高止まりし、インフレが低位安定するという経済状況の下で、伝統的・非伝統的な金融緩和策が次々に打ち出された。これらの金融緩和策に伴って生み出された大量の流動性が資産価格、とりわけ住宅価格を押し上げ始めている。

 新興国の状況は国・地域によって異なる。イスラエル、香港、シンガポールを筆頭に、国民1人当たり所得が高い一部の国・地域は、インフレが低水準で落ち着いていることもあって、対主要通貨での自国通貨の上昇を防ぐため、低金利政策を維持したい考えだ。

 だが、インフレに直面している国もある。トルコ、インド、インドネシア、ブラジルなどでは、インフレ率が中央銀行の目標を超えている。中国とインドでは、貯蓄が住宅の購入に向けられている。両国では政府による金融抑圧政策を背景に、適切なインフレヘッジとなる資産がほとんどないため、資金が住宅市場に流入しているのだ。

ブラジルのリオデジャネイロでは来年のサッカーのワールドカップに備え、古い家が壊され、新たな住宅建設が進んでいるが…(写真:ロイター/アフロ)

バブル抑制に消極的な中央銀行

 多くの新興国では、急速な都市化の進展に伴い住宅の需要が供給を上回っていることも、住宅価格上昇の一因となっている。

 中央銀行は(特に先進国や所得水準の高い新興国の場合)、政策金利の操作でバブルを抑え込むことに消極的で、大半の国はマクロプルーデンス的な政策*1と金融システムの監視を通じて、住宅市場の過熱に対処している。

*1=金融システム全体のリスクの状況を分析・評価し、それに基づいた制度設計、政策対応を通じて金融システム全体の安定を確保し、バブル発生の回避を図ること

 具体的には、融資比率(LTV:住宅価格に占める融資の比率)の引き下げ、住宅ローン基準の厳格化、2番目の持ち家向け融資の制限、住宅ローンを提供する金融機関への自己資本積み増し要請(景気変動を抑制する効果を発揮する)、住宅保有に関わる資本コストの恒久的な引き上げ、住宅購入の頭金への年金基金の使用制限など、様々な対策が導入されている。

 だが、ほとんどの国では政治的な制約が足かせとなり、こうしたマクロプルーデンス的な政策は穏やかな効き目しか上げていない。金融システム安定の責任を担う中央銀行や規制当局が「パンチボウル(パーティーで出される飲み物を入れた器)」という流動性を下げようとすると、各世帯も不動産デベロッパーも、政治家らも一斉に声高に抗議の声を上げるからだ。

 彼らは自由な市場や財産権、侵すことのできない神聖な住宅所有権に当局が「介入」することに強い抵抗を示す。かくして当局が正しい行動を取ろうとしても、住宅金融に関わる政治的な思惑により阻まれてしまう。

マクロプルーデンスの限界

 無論、マクロプルーデンス的な政策が必要なことは明らかだが、住宅バブルを抑制するにはそれだけでは不十分だ。長期、短期の金利がこれほど低い水準に下がっている今、住宅ローンを制限しても、資金を借りて住宅を買いたいというインセンティブに歯止めをかけるには限定的な効果しか期待できない。

 しかも、マクロプルーデンス的な政策を実施すると、その結果として公的金利と様々な住宅ローン金利との差が拡大し、規制アービトラージ(裁定行動)の余地が拡大することになる。

 例えば、LTV比率を引き下げ、住宅購入に必要な頭金の額を引き上げれば、住宅購入者は友人や家族から借金をしたり、個人無担保ローンの形で銀行から融資を受けたりして、頭金を用意しようとするだろう。

 結局のところ、一部の国で住宅価格上昇ペースが若干緩やかになったとしても、マクロプルーデンス的な政策で住宅ローンの抑制を図っている国の住宅価格がおおむね上昇を続けている事実は変わらない。

 従って、公的金利が低い水準に据え置かれる限り、長期住宅ローン金利も低位にとどまり、利上げほどの住宅市場の過熱抑制効果は期待できない。

 とはいえ、世界経済における新たな住宅バブルが弾けるまでには、まだ時間がかかるかもしれない。住宅バブルを膨らませている根本的な原因、中でも金融緩和と、インフレヘッジとなるものが必要だという要因が今も消えていないからだ。

 加えて、多くの銀行システムでは過去と比較して自己資本が厚みを増しているため、住宅価格が下落しても損失を吸収することが可能だ。

 さらに大半の国では、米国でサブプライムローン・バブルが発生していた当時に比べ、家計はより多額の住宅エクイティ(純資産:住宅価額から住宅ローン残額を引いた値)を有している。

 それでも、住宅価格が上昇すればするほど、バブルが弾けた時には厳しい値下がりを余儀なくされる。その結果、担保価値が大幅に毀損し、金融システムは深刻な打撃を被るだろう。

 ノンリコース型ローン*2が普及している国では、住宅ローン残高が住宅の価値を上回った時には借り手は住宅を手放してしまえばよい。そうした国では住宅バブルの崩壊は、深刻な金融機関の破綻と金融システムの危機につながる恐れがある。

*2=返済義務が物件の価値あるいは、そこから生み出されるキャッシュフローにのみ基づく融資で、借り手本人に訴求しないもの

 スウェーデンなど、リコース型住宅ローンが主体の国では、借り手の所得を差し押さえることによって、住宅ローン債務の支払いを強制することができる。これらの国では、債務返済に追われて、家計は裁量支出の余地が狭まり、最終的には金利が上昇して、個人消費が冷え込む恐れがある。いずれにせよ結果は同じだ。景気後退と景気低迷を余儀なくされる。

 現在多くの国で繰り広げられている光景は、先の住宅市場のバブル崩壊のスローモーションのようだ。そして前回と同様、バブルが大きく膨らめば膨らむほど、夢から覚めた時の衝撃は厳しいものになる。

国内独占掲載:Nouriel Roubini © Project Syndicate

日経ビジネス2013年12月9日号 122~123ページより目次

この記事はシリーズ「世界鳥瞰(2013年12月9日号)」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。