東京電力が進める社内分社では国民負担が際限なく膨らむ恐れがある。法的整理は金融機関の打撃が大きい分、国民の負担が減少する。資産を可能な限り売却し、できるだけ多くの費用を捻出すべきだ。

(イラスト:浅賀 行雄)

 上のイラストの多彩な顔ぶれをご覧いただきたい。政治家、財務省、経済産業省、国民など。いずれもが、中心にいる東京電力の廣瀬直己社長に厳しい要求を突きつけている。それも、あっちを立てたらこっちが立たないという二律背反のものばかり。「廣瀬社長は多くの利害関係者におもねって、経営の舵取りがうまくいっていない」(東電幹部)。

 『破綻、はなから棚上げ』まで述べてきたように、汚染水問題では東電の統治能力の限界を露呈した。事故処理の費用負担にも応じきれず、事業継承と事故処理のジレンマに陥っている。このためあるべき組織体制について様々な案が取り沙汰されている。改めて各案を検証したい。

独占事業体でも経常赤字だった

 多様な案があるが、新しい組織形態案は3つに大別できる。①社内分社案②分割、売却案③法的整理案だ。年末までに東電が発表する総合特別事業計画には①の社内分社が盛り込まれそうだ。結論から言うと、日経ビジネスは社内分社では不十分だと考える。なぜなら、国民負担を少しでも下げる仕組みではなく、際限なく税金をつぎ込む事態になりかねないからだ。

 東電と安倍晋三政権による社内分社案では、福島第1原子力発電所の廃炉事業は分社の1つという位置づけだ。将来的には持ち株会社への移行を検討しているが、これも同じ会社の中での組織の話であって、現行のカンパニー制の延長と捉えられる。賠償や除染の費用は、事業の利益を充てる方針だ。

 ではどれくらいの利益を稼ぎ出す力があるのか。原資となり得る経常利益の過去最高は2007年3月期の4413億円だが、原発事故前も経常赤字を計上していた。原発の稼働のいかんを問わず、電力自由化で競争が激化すれば、以前より利益を出すハードルは高くなると考えるのが自然だ。

 原発事故による除染は環境省が担う。その費用としてこれまで約1兆3000億円を予算計上した。東電はそのうち約404億円を請求され、一部しか払っていない。

 「請求の内容を精査している」(東電の文挾誠一・企画部長)というが、ギリギリの綱渡りの財務状況の中で、支払い余力がないのが現状だろう。10兆円とも言われる賠償や除染の費用を利益で賄おうとすれば、「継続的に大幅な電気料金の引き上げは避けられない」(一橋大学の橘川武郎教授)。

 東電で賄えない分は、国費、つまり税金を際限なくつぎ込まざるを得ない。下の図にあるように、社内分社案は、大幅な電力値上げか多額の税金投入が必要になり、国民負担は大きくなりそうだ。一方で、東電の組織体制は大きな変化はないため、社債権者や株主、金融機関の負担は少ない。

組織のあり方で費用負担が大きく変わる
東京電力の組織形態と原発の事故処理案

法的整理ノーに3つの疑問

 それではほかの案はどうか。社内分社案の対極にあるのが、③の法的整理案だ。元経済産業省大臣官房付の古賀茂明氏は、「税金投入の前に東電を破綻処理して、金融機関の責任を取らせるべきだ」と強調する。中央大学法科大学院の野村修也教授や慶応義塾大学の金子勝教授などは手法の違いこそあれ、法的整理を主張してきた。

 例えば火力発電所や送配電網などの資産を売却し、その売却益を原発事故の処理原資に活用する。正確な資産査定はなされていないが、東電の時価総額は11月20日時点で約8800億円。2000年以降のピーク時には5兆円ほどあった。

 原発事故当初から何度も浮上してきたが、「現実的ではない」と一蹴されてきた。安倍晋三首相は10月17日の衆院本会議の各党代表質問で「引き続き民間企業として損害賠償や廃炉、汚染水対策、電力安定供給を確実に実施していくべきだ」と述べている。

 実現できない理由としてよく挙げられるのが次の3つ。1つは金融機関などが保有する4兆円ほどの社債の償還が優先され、損害賠償費用などが払えなくなる。払えたとしても手続きが変わり、賠償が遅れる可能性がある。2つ目は電力の安定供給が継続できない。3つ目は社内のモラルが下がり、事業の担い手がいなくなる懸念だ。

 だが、これに真っ向から反論する意見もある。民主党の馬淵澄夫議員は「一般担保付社債は絶対優先ではなく、相対優先。更生手続きによる債権カットも可能で法律を作って賠償を劣後させないで済む」と言う。東電の資産売却でも損害賠償を賄いきれない場合は、新しい法律により国が負担することができるとの見立てだ。

 東電債がデフォルト(債務不履行)するとほかの電力債にまで信用不安が波及し、金融市場が混乱するとの指摘がある。これに対して金融関係者は「これまでデフォルトした社債はあったが、他社の社債が発行できなくなるということはなかった」と話す。

 2つ目の安定供給のリスクについて。信用不安によって海外からの燃料調達や権益確保に支障が出るほか、首都圏で東電に代わる電力供給体制を整えるのは困難と言われる。だが、日本航空(JAL)が会社更生法の適用を受けている間もJALは多くの顧客を乗せ、空を飛び続けた。

 一橋大学の橘川教授は「海外では電力会社のM&A(合併・買収)は当たり前。現場は変わらないから、供給不安は起きない」と語る。買い手の候補はほかの電力大手やガス会社などが挙げられる。人口が増えて需要が旺盛な首都圏で発電所を持つことに、魅力を感じる新規参入者もいるだろう。

 3つ目については1章で述べたように、社員のモラルは既に低下している。退職者の増加には歯止めがかからない状況だ。民主党の馬淵議員は指摘する。「廃炉機構を国が関与する特殊法人として、作業員の身分保障などをした方が、現場の士気は高くなるのではないか」。

 法的整理は上の図に示したように、社債権者や金融機関が大きな負担を負うことで、短期的には国民の負担が相対的に小さくなる。踏み切れば溜飲を下げる人は多いだろう。だが、混乱も予想される。

 例えば、原発事故の直後に当時の経済産業省の松永和夫・事務次官が東電のメーンバンクである三井住友銀行の奥正之頭取(当時)と話し合い、同行を中心とした金融機関が東電に約2兆円の緊急融資をしたと言われている。これなどは、政府が東電を潰さないと約束した、と受け止められても仕方がない。それだけに、法的整理を実行するならば事前に綿密なスキームを作り上げる必要がある。

福島原発周辺では、津波による爪痕が今でも手をつけられないまま残されている

世界一の送配電技術を生かす

 ②の分割・売却案はどうだろうか。法的整理をしなくても国民負担を減らせる可能性がある。参考になるのは水俣病におけるチッソ方式だ。液晶事業で安定した収益を稼ぎながら、水俣病患者に巨額の賠償金を払い続けている。経産省も一枚岩ではない。内部ではこれに近い案を推す声がある。

 まず、東電を福島第1原発の事故処理の会社と電力供給を担う会社に分割する。後者のうち、発電所を売却したうえで、その売却益を前者の処理費用の原資にする。

 電力供給を担う会社をベースにした分割後の「新東京電力」は、送配電事業と燃料事業、小売事業に活路を見いだす。電気事業法の改正で、2018年から始まる予定の発送電分離を先取りした形になる。一橋大学の橘川教授は「世界有数の人口密集地域である首都圏で停電を起こさず安定供給する送配電システムは、世界一の技術ではないか」と評価する。

 その競争力に加え、ガス事業などを強化することも可能だ。国では電力の小売り自由化に続いて、ガスの小売り自由化も議論されている。

 日本の都市ガスのインフラは都市部に偏っており、首都圏でも空白地帯は多い。日本有数のガス輸入量を誇る新東電が、ガス販売を拡大する手もある。こうして新東電が稼いだ利益を、福島第1原発の事故処理などに供給し続けていくという仕組みだ。

 金融機関が保有する債権は担保などが考慮されたうえで守られるため、上の図でほかの案と比較すれば、それぞれの費用負担は中程度となる。

 日経ビジネスは東電は解体すべきだと考える。国民負担や電気料金の引き上げなどをおさえるためだ。現在、東電や政府などで検討されている社内分社や持ち株会社化は選択すべきではない。③の法的整理で利害調整が難航し、事故処理に支障を来すと考えるのなら、②の分割・売却案を推したい。

 一方、廃炉を担う組織のあり方はシンプルに考えたい。

廃炉は国の看板を背負って

 組織形態がどうであれ、福島第1の廃炉作業を担うのは、現地で実際に作業している東電社員や協力会社の社員しかいない。ただ、汚染水問題で明らかになったように、今の組織体制では適切な対応ができないうえに、現場の士気が高まらない。

 そのため、廃炉機構を設立し、国が5割以上を出資して国策会社とすべきではないか。最大の理由は現場のモチベーション向上だ。東電の看板を背負った社員には世間からの風当たりがきつい。廃炉作業は国民の安全を守る国家的な仕事である。国の管理下に置き、放射線量の高い危険な現場作業の対価として十分な賃金を支払うべきだ。ここに税金を投入することは、国民の納得を得やすい。

 第2段階として、福島第1原発にとどまらない廃炉機構に発展させる案もある。ほかの電力会社も廃炉費用を負担し、日本の廃炉を担う組織を作る。

 民主党は東京電力の廃炉本部や日本原子力発電、国際廃炉研究開発機構などからなる廃炉機構を設立し、人材と技術を移転する案を打ち出している。ほかの電力大手や重電メーカーにも人材や技術の協力を要請する。既に英国は「原子力廃止措置機関(NDA)」を設立し、原子力関連施設の解体に伴う政策や監視体制を一元化した。

 廃炉は今後ビジネスチャンスが広がる分野だ。日本には約50基、世界には400基強の原発があり、いつかは廃炉になる。安全に燃料棒を取り出す技術や原子炉を解体する作業は難度が極めて高い。日本が国家予算を投じていち早くノウハウを積み、世界的にその技術を生かすことを目指すべきだ。

 東電の組織形態の見直しは、国のエネルギー政策全体に深く関わる。次ページからは電力システム改革と原発政策のあるべき姿を検証したい。

日経ビジネス2013年12月2日号 40~45ページより

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