日本女子アイスホッケーチーム「スマイルジャパン」では、いくつもの企業が選手個人を支援(写真:Getty Images)

 先月、女子アイスホッケー5カ国対抗戦を横浜市のスケートセンターで観戦した。来年2月のソチ五輪への出場をいち早く決めた「スマイルジャパン」の代表戦である。スケートセンターに行くのも初めてなら、アイスホッケーの試合観戦も初めて。氷を削る音の迫力や、一瞬で攻守が入れ替わるスピード感にすっかり魅了された。

 きっかけは、トップアスリート就職支援「アスナビ」で、中村亜実選手のバンダイ入社が決まったことだ。

 アスナビと聞いて、ピンとくる人は、まだ少ないだろう。実際、スポーツをこよなく愛し、ロンドンまで五輪観戦に行った私もまるで知らなかった。五輪を目指すトップ選手たちが、より安定した環境で競技活動が行えるようにと、日本オリンピック委員会(JOC)が3年前から始めた活動である。

 これには経済同友会も関わっていて、2010年10月に主催した第1回説明会には同友会メンバー43社が参加。企業が1社1人でも採用して盛り上げようとスタートし、現在までに20社で26人の就職が決まっている。次回の説明会は12月5日に開催される。

「アスナビ」で広がる選手採用

 アスナビ2人目の採用者としてキッコーマンに入社した上田春佳選手は、ロンドン五輪で水泳メドレーリレーのアンカーとして銅メダルに輝いた。

 上田選手は、キッコーマンの新卒社員として採用されたため、同期意識も醸成されている。1人の新卒同期が壮行会で発した言葉が背中を押し、「メダルに届いた」という。当初は当たり障りのない挨拶をした上田選手に、同期入社の女性が「私たちはロンドンまで応援に行けない。だから、メダルを取って私たちに見せてください」とエールを送った。すると、上田選手は「もう一度壇上に上がってもいいですか」と再び壇上に立つと、メダル獲得への意欲を宣言したという。

 伝統企業キッコーマンにとって、それは伝統の殻を破る起爆剤の1つになる。世界と闘うために挑戦し続けるアスリートが身近に同じ社員でいることで、刺激し喜び合う関係が生まれ、会社に化学変化が起きる。

 トップアスリートと企業をマッチングするアスナビのいいところは、「チーム」ではなく「1人の選手」から応援できる点だ。これまで企業スポーツと言えば、実業団チームとして億単位の費用がかかった。そうなると、大企業で、資金余力がなければ、スポーツ支援を続けることは難しい。事実、グローバル競争で業績が悪化すると、企業スポーツの休廃部が相次いだ。

 ところが、企業単位の実業団ではなく、地域を同じくするクラブチームに、違う企業に勤務するアスリートが集う形になれば、企業は選手個人を一社員として迎えることができる。

 目標達成への強い意欲、最後まであきらめない姿勢、世界の舞台での実戦体験を持つアスリートは、企業として願ってもない人材だろう。

 アスリートには、所属企業の一員としての自覚と責任が生まれ、同僚の熱い応援が“ファイトする”原動力になる。一方、企業は世界の壁に全力で挑むアスリートの姿勢にパワーをもらう。このアスリートと企業の新たな関係は、きっと「ソチ~リオデジャネイロ~ピョンチャン~東京」へと続く希望の道になると、凍てつくリンクサイドで高揚感を覚えたのだった。

松永 真理(まつなが・まり)氏
明治大学文学部仏文科卒業後、リクルート入社。「就職ジャーナル」編集長などを歴任後、NTTドコモ入社。iモードの企画開発に携わる。2012年から現職。

日経ビジネス2013年12月2日号 128ページより目次