「ノキアの買収はまだ完了していない。現時点で言えるのは、彼らは素晴らしい(端末の)ラインアップを持っているということだけだ」

 10月24日、日本マイクロソフトが開いたタブレット「Surface(サーフェス)」の発表イベントを訪れた米マイクロソフトのブライアン・ホールGM(ゼネラルマネジャー)は、買収の成否自体については明言を避けつつも、ノキアを持ち上げてみせた。

 マイクロソフトがノキアから主力の携帯電話事業を54億4000万ユーロ(約7140億円)で買収すると発表したのは9月3日。現在は欧州などで独占禁止法の当局による審査が続いており、買収が完了するのは年明け以降と見られている。

 フィンランドの製紙・ゴム会社として出発したノキアは、第2次世界大戦後に通信事業に進出。人口密度が低いフィンランドが携帯電話に適していたこともあり、急速に携帯電話事業を拡大。1990年代半ばから十数年間は世界の携帯電話市場で圧倒的なナンバーワンの地位に君臨していたが、スマホの波に乗り遅れて事実上の企業解体に追い込まれた。

 一方、マイクロソフトは2年前から自社の携帯電話向けOS(基本ソフト)をノキアのスマホ「ルミア」に提供。だがアップルの「iOS」やグーグルの「Android(アンドロイド)」に押され、世界シェアは数%にとどまっていた。

ノキアの端末「ルミア」は欧州でシェア拡大の兆しを見せている(写真:AP/アフロ)

 日本マイクロソフトのある幹部は、「技術力や資金力がありながら、マイクロソフトがスマホ市場で長期低迷したのは、OSを持つ立場としてほかのメーカーと等距離につき合うのか、自ら端末メーカーとしてアップルやサムスンと伍するのか煮え切らなかったからだ」と解説する。


 確かにマイクロソフトのスマホ戦略の歴史をひもとくと、あまりの迷走ぶりに驚かされる。実は同社はiPhoneが発売される2年も前にスマホの原型と呼べる製品を発売していた。しかも日本市場でだ。

 2005年12月にシャープやPHSのウィルコムと共同開発したインターネット携帯電話「W-ZERO3」がそれだ。マイクロソフトの携帯電話向けOS「ウィンドウズモバイル」を搭載し、通話とネット閲覧、メールの送受信、業務用ソフト「オフィス」などが利用できた。

 その後、同社は携帯向けOSを刷新し「ウィンドウズフォン」と改称。2010年にはシャープと組んでSNS(交流サイト)の利用に特化した携帯電話「KIN」を北米で販売したものの、日本に上陸する前にあえなく撤退。2011年、OSでは敵対関係にあったノキアと提携し、現在に至っている。

 つまりノキアは携帯電話の成功体験から抜け出すことができず、マイクロソフトはOSを提供するライセンスモデルから脱却できないまま迷走を続けたのだ。

 「だが潮目が変わった」と日本マイクロソフト幹部は指摘する。それはトップ交代。スティーブ・バルマーCEOは8月23日、従業員向けに送ったメールで「12カ月以内の引退」を内外に表明した。バルマー氏は後継者について口外しないが、有力候補の1人と見られているのが、2010年にマイクロソフトから転じてノキアCEOに就任したスティーブン・エロップ氏だ。

ノキアの携帯電話事業の買収を表明したマイクロソフトのスティーブ・バルマーCEO(最高経営責任者、左)

エロップ氏のメッセージ

 「Nokia, our platform is burning.(我々、ノキアのプラットフォームは燃えている)」

 ノキア時代、エロップ氏はこんなメッセージを送り社員を鼓舞した。フィンランドの北海油田の石油プラットフォームの上で、炎に囲まれた男がどう決断するのか。現在のノキアの置かれている状況と、それにどう対処するかの決断が迫っていることを示したのだ。

 エロップ氏はこのメッセージの中で、「端末の戦いは今やエコシステムの戦いだ。ライバルは端末でシェアを奪っているのではなく、エコシステム全体でシェアを奪っている」と指摘。ハードウエアとソフトウエアだけでなく、アプリ開発者、EC(電子商取引)、ネット広告、検索サービスなどを包含したエコシステムを形成することの重要性を訴えた。

 エロップ氏はノキアの携帯電話事業買収によって、古巣のマイクロソフトに復帰する。ハードとソフトの両面を知る経験を生かし、マイクロソフトの資産を活用しながら、エコシステムの構築においてアップルやグーグルを追撃する考えのようだ。

 マイクロソフトは今後、「端末メーカー」を名乗ることにも躊躇はないようだ。表面上は台湾のHTCやサムスンなどこれまで取引のあった端末メーカーとの関係を保っていく方針だが、将来的に端末をノキアに一本化する可能性も高まっている。

 調査会社の英カンター・ワールドパネル・コムテックによると、2013年6~8月に英・仏・独・スペイン・イタリアの欧州5カ国におけるマイクロソフトのウィンドウズフォンのシェアは9.2%と、前年同期の5.1%から倍増した。

 ノキアが販売する「ルミア520」「ルミア620」など普及価格帯製品への支持が広がったのがその理由。そして、これは新興国で今後、ノキア製スマホが成長する兆しでもあるという。

 新生マイクロソフトは再びノキアの夢を見るか。

日経ビジネス2013年11月18日号 41~42ページより

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