3年で端末市場規模が3倍に急伸したスマートフォン。米アップル、韓国サムスン電子の2強が市場を制したように見えるが実はそうではない。新興メーカーの台頭と、急激な価格下落が既存勢力を脅かしている。

 「『50ドルスマホ』を開発しようと、真剣に検討している」

 東京より肌寒い10月末の韓国ソウル。あるサムスン電子関係者は本誌の取材に対し、社内で極秘に進む計画を明らかにした。

韓国サムスン電子の中枢部では格安スマホの計画が極秘で進められている(ソウル市)(写真4点:キム・ドンウォン)

サムスンの極秘プロジェクト

 昨年末頃から浮上したプロジェクトは当初、開発陣営から「100ドル以下で作れるわけがない」と猛反発に遭った。サムスンのスマートフォンの主力機種である「ギャラクシーS4」の韓国国内での当初の販売価格は約90万ウォン(800ドル弱)。この16分の1の価格で利益を出そうと思えば、開発費は大幅に削られる。

 だが今年に入り、サムスンがソウル特別市瑞草区のビルに置く経営中枢に、全世界の営業網から次々と報告が入り始めた。「中国メーカーのシェアが上昇している」。同社の李健熙会長は社内にくすぶる「50ドルスマホ」への反対論を一蹴。「危機意識を持って仕事をしろ」との檄を飛ばし、本格的な検討に着手したとされる。

 なぜサムスンが「格安スマホ」に手をつけるのか。その背景には、世界のスマホ市場で起きている地殻変動がある。

米アップルの「iPhone 5c」は日本国内では在庫のだぶつきが指摘される(写真:丸毛 透)

 米アップルを抜き、スマホ世界最大手に成長したサムスンの2013年7~9月期の連結営業利益は、前年同期に比べ26%増の10兆1600億ウォン(約9300億円)。米調査会社IDCによると、同じ時期の全世界のスマホ出荷台数は2億5840万台に増え、そのうちサムスンが3割強のシェアを握った。ここ3年で世界シェアを20ポイント以上も伸ばし、数字だけ見れば経営体制は盤石だ。

 だが、世界の株式市場はサムスンの成長が鈍化する懸念を抱き始めている。4月末に発売したS4の販売促進費用がかさんでいることが判明すると、サムスンの株価は急落。今年4~6月期のIT(情報技術)部門の営業利益が前の期を4%下回ったことも市場の疑心暗鬼に拍車をかけた。業界関係者からは「成長の勢いはもはやここまでか」との悲観論も漏れた。

 背後にあるのが、新興国における新規参入組の勃興だ。中国の「Xiaomi(小米)」、インドの「Micromax(マイクロマックス)」、アフリカの「TECNO(テクノ)」――。こうした地場ブランドは通話と最低限の機能を備えた「100ドルスマホ」の販売を伸ばし、急速に存在感を高めつつある。

 サムスン営業部隊の報告は正しかった。IDCによると、3年前の2010年7~9月期にはフィンランド・ノキア、アップル、カナダ・RIM(現ブラックベリー)、サムスン、台湾・HTCの上位5社で世界のスマホ市場の80.0%を占め、その他メーカーのシェアは20.0%しかなかった。ところが直近の2013年7~9月期にはノキアとブラックベリー、HTCがトップ5から脱落。上位5社に入らないその他メーカーのシェアは41.3%まで高まったのだ。

 サムスンが「価格破壊」も辞さず開発に着手した50ドルスマホは、これからスマホが普及期を迎えるアフリカや中国などの新興国に攻勢をかける秘策。部品や流通の見直しが具体的に始まり、発売へ向けた検討が進んでいるが、社内も含めて「超」のつく極秘事項になっているのには理由がある。

 「アップルの動きがおかしい。彼らにもっと頑張ってもらわないと、我々にも問題が及んでくる」――。サムスン社内では最近こんな声が上がっているという。

 アップルが10月28日に発表した2013年7~9月期連結決算は、最終利益が前年同期比9%減の75億1200万ドル(約7500億円)だった。利益の絶対額は今もなお他社がうらやむ水準だが、最終減益はこれで3四半期連続。9月に発表したスマホの新機種「iPhone 5s」の販売は堅調と見られるが、ライバルとの価格競争が激しいタブレットの不振が響いた。

 アップルとの間で50件以上の特許訴訟を抱え、不倶戴天の敵と呼ばれているサムスンがなぜアップルにエールを送るのか。

 サムスン関係者はこう解説する。「従来は我々とアップルの2社でプレミアムな製品を供給し、販売価格を高めの水準に維持できたことでお互いが高収益を上げられた」。ただ、アップルの減速でこの図式が崩れ、新規参入組の一段の台頭を許せば、スマホ業界は価格下落の雪崩を起こしかねない。「かといって我々だけがシェアを伸ばすと目立ちすぎ、他国の政府が批判の目を向ける可能性がある」。

 価格維持のために2強体制を維持したい。だが、それが崩れた時のための手も打つ――。

 「コモディティー化」。メーカーごとの品質や機能の差がなくなり、誰でも参入できるようになるにつれ、価格は下がり、利益率が落ち、汎用品と化す。サムスンは薄型テレビの世界競争で既にこれを経験し、並み居る日本メーカーを退けて残存を果たした。

 スマホにも同じような行く末を投影しているに違いない。同社上層部の間では最近こんな市場予測が議論されたという。

 「モバイル事業は来年も成長できる。だが、2015年以降は不透明だ」

「ローカルモデル」の台頭

 「僕の周りではテクノが一番人気だよ」

 アフリカ東部に位置する小国・ルワンダ。首都キガリの住宅街に3人の家族と暮らす公務員、ジャンポールさんはこう話しながら、現在愛用中の携帯電話を見せてくれた。

若者らでにぎわうルワンダの携帯電話販売店(写真:的野 弘路)

 液晶画面の下にハードキーが並ぶ外観は、かつて法人市場を席巻した「ブラックベリー」に似ている。通話やメールはもちろん、簡単なゲームを楽しむこともできる。

 価格は新品で5万ルワンダフラン(約7300円)前後と、大手メーカーに比べ3~5割程度安い。だが、ジャンポールさんがこの端末を選ぶのには、別の理由がある。

 ルワンダでは現在、ベルギー系やインド系など3つの携帯電話会社が契約者の獲得にしのぎを削っており、自社間の通話料を極端に安く設定するなど、顧客の囲い込み競争も熾烈。そのため、携帯電話会社の番号から別の携帯電話会社の番号に電話をかけた場合、通話料が自社間の10倍近くになることもある。

 そこで登場したのが、携帯電話会社が発行する通信用のSIMカードを2枚差し込むことができる「デュアルSIM」と呼ばれる端末だ。発信先の携帯電話会社に応じて2つの電話番号を使い分けることで、通話料を格段に抑えることができる。ジャンポールさんの場合、月々の通信費は5000ルワンダフラン(約730円)程度だという。

現地で人気のテクノのデュアルSIM端末

 香港に本社を置くテクノは、2007年後半に初のデュアルSIM端末をアフリカで試験導入したこの分野のパイオニア。2012年には東アフリカ最大の人口を抱えるエチオピアに自社工場を建設し、現地生産にも乗り出した。テクノは東アフリカ地域でトップブランドの地位を維持している。

 端末は先進国で人気のiPhoneやギャラクシーなどと比べれば格段に低価格で、ユーザーが費やす通信料も比べものにならないほど安い。アフリカなどの新興メーカーがアップルやサムスンを脅かすといってもピンとこないかもしれない。だが、ここでは起きているのはかつてなかった新しいビジネスモデルの台頭だ。

 テクノでマーケティング部門のディレクターを務めるコジモ・ルー氏は「我々はアフリカでのビジネスを定義する時に、グローバルに考え、ローカルに行動するという意味で『グローカル』という言葉を使う」と言う。独自の言語を持つエチオピアでの現地生産は、ローカルに行動したことの1つの例。ルー氏は「我々はローカライゼーションこそがエチオピアの地で最大の市場シェアを獲得できた理由だと信じている」と話す。

 2007年にアップルがiPhoneを発売してから6年。年に1回、世界中でたった1つの新製品を発売する「グローバルモデル」は、アップル自身が牽引したスマホの普及により崩れつつある。シェア争いの主戦場が新興国に移る中、地域ごとの消費者のニーズにきめ細かく対応する「ローカルモデル」が急速に台頭し始めたためだ。

 昨年、米国を抜いて世界最大のスマホ市場になった中国では、さらに「変異種」が誕生している。「東洋のアップル」とも称されるスマホメーカー、北京小米科技がそれだ。これまで多くの国で携帯電話会社が担ってきた端末販売チャネルを自ら手がけることで価格を抑えている全く新しいタイプのスマホメーカーだ。

(注:四捨五入のため、合計は必ずしも100にならない/出所:米IDC)

「中国版ジョブズ」の実像

 2010年に創業した小米の社名は日本ではほとんど知られていないが、中国では現在、最も熱狂的なファンを抱えるスマホメーカーの1つ。同社は「ユーザーと友達であることを企業理念としている」と言い、小米ブランドの支持者は中国語で「ファン」を意味する「粉絲」をもじって「小粉」と呼ばれ、その数は1000万人近くに上る。

 新製品発表会にはジーンズにポロシャツで登場する雷軍CEO(最高経営責任者)は「中国版スティーブ・ジョブズ」と呼ばれる。ライバル企業は「何から何までアップルのモノマネだ」と揶揄するが、その手法はある意味、ジョブズ氏より独創的。彼ら自身は「我々はアップルよりもアマゾン・ドット・コムに似ている」と主張する。

北京小米科技の雷軍CEO(写真:ロイター/アフロ)

 小米のスマホの流通経路はネットを通じた直販が大半を占め、携帯電話会社の販売網を使い、販売奨励金を払わせることで販売価格を抑えているアップルのビジネスモデルとは大きく異なる。米グーグルのスマホ向けOS(基本ソフト)「Android(アンドロイド)」を改造した独自OS「MIUI」を搭載し、ゲームや壁紙などのコンテンツでも稼ぐ手法は確かにアマゾンの「キンドル」を思わせる。

 携帯電話会社の販売奨励金に依存しないにもかかわらず、iPhoneやギャラクシーの半値という高い価格競争力を実現しているのは、徹底したマーケティング費用の抑制だ。

 小米の財務諸表に広告費という支出項目はない。代わりに実店舗やSNS(交流サイト)上のコミュニティーを通じてロイヤルティーの高い顧客を育てることで、中国全土にブランドを浸透させてきた。

 例えば小米の新製品をいち早く購入するには、まず中国版ツイッターの「微博(ウェイボー)」を使って、小米の公式アカウントの購読者にならなければならない。そのうえで、所定の決済口座を開設し、端末の購入を申し込むというのが一般的な流れだ。

 「Aさんは小米のアカウントをフォローしました」「Aさんは小米の最新機種を購入しました」――。一連の手続きはこのように微博上で友人らに発信されるため、消費者自身が小米の広告塔の役割を果たすことになる。

 こうした口コミに加え、新製品の発売前には有名人を使ったレビューなどでネット上に大きな話題を巻き起こし、消費者の購買意欲を刺激する。9月に発表した最新機種「Mi3」は販売開始後、わずか86秒で10万台を売り切ったという。

小米科技が9月に発表した旗艦機種「Mi3」

 小米は製品開発においても、ネット上のユーザーの声を最大限に活用していることで知られる。小米は微博などを通じてユーザーから寄せられる機能改善のアイデアをヒントに、自社のOSを毎週アップデートしている。まさに「ネット生まれ、ネット育ち」のスマホメーカーと言っていい。

レノボ、参入2年で中国2位に

 中国製はデザインで劣る、という既成概念も覆される可能性がある。小米とは全く別の分野からスマホ市場に参入し、急速に業績を伸ばしているのがパソコン世界最大手のレノボ・グループだ。パソコンで培った開発力を生かし、年間約50機種のスマホを市場に投入。本格参入から2年で中国第2位のスマホメーカーにのし上がった。

 レノボがスマホ市場でのブランド力の確立に向け、特に注力しているのがデザイン部門の強化だ。北京市内の本社にある「イノベーション・デザイン・センター」は約200人のデザイナーを擁し、イタリアやドイツなど多国籍の人材が執務する姿はオフィスというよりも大学のキャンパスのよう。

 チーフデザイナーのヤオ・インジャ氏は「様々な国の視点からデザインを考えている。質にこだわることこそが顧客に新しい体験をもたらす」と話し、高級感を演出する素材の使い方に余念がない。

 中国では小米やレノボのほかにも、「Coolpad(酷派)」や「Meizu(魅族)」といった多数の新興ブランドが台頭している。こうした地場メーカーにシェアを奪われる前に、アップルやサムスン、ソニーなどのグローバルメーカーは中国市場にどう向き合うべきなのか。

 自動車や家電、機械メーカーは中国やインド、アフリカなど新興市場に出ることを当然の生き残り策ととらえている。スマホ業界についても、中国移動(チャイナモバイル)などの大手携帯電話会社と提携し、シェア拡大のアクセルを踏み込むのが正解だと思われるかもしれない。ただ、米経営コンサルティング大手、ベイン・アンド・カンパニーの奥野慎太郎パートナーの見方はやや異なる。

 同社の予測によると2010年に234億ドル(約2兆3400億円)だった中国における携帯電話端末と半導体以外の部品の市場規模は、2015年には1.6倍の380億ドル(約3兆8000億円)まで拡大するものの、業界平均で13%だった営業利益率は9%まで低下する。

(出所:ガートナー、各社公開資料、ベイン・アンド・カンパニー調査)

 既にスマホの設計や部品生産、組み立てなどのノウハウは中国国内に蓄積されており、新興メーカーの参入障壁が下がっているためだ。営業利益の絶対額で見れば中国はそれほど大きく成長する市場ではなく、むしろ今後はメーカー同士が利益を削り合う消耗戦が続くと予想されている。

 奥野氏は中国市場の重要性は認めつつも、「中国で勝つかどうかが、世界で勝つかどうかを決するというほどのインパクトを持つ市場ではない」と指摘する。言い換えれば、「iPhoneが中国でシェアを伸ばせないからといってアップルがダメになるということではないし、小米のような新興メーカーが中国でシェアを伸ばしているからといって、彼らが世界のスマホ市場を支配するようになるわけではない」。

 市場そのものは拡大しつつも、地域ごとのブロック化が進み、ブルーオーシャンはもうどこにも存在しない。それが今のスマホ市場の実像だ。グローバル化を前提としたビジネスモデルはいずれ修正を迫られることになる。

 低価格を強みとする新興メーカーに加え、今後、スマホ市場の競争を一段と激化させそうなのが、ハードウエアの利益をほとんど必要としない、ネット広告やEC(電子商取引)分野からの参入企業だ。

激しい合従連衡が続く
スマートフォン業界の勢力図

 「赤字にならないのか」。10月31日、グーグルが最新のOSを搭載したスマホ「ネクサス5」を自社サイト「グーグルプレイ」で発売すると、業界内では驚きの声が上がった。日本での価格は3万9800円から。携帯電話会社を通じた通常の販売価格(5万400円)より2割以上安い。強気の価格設定には他メーカーとは異なるグーグルの戦略が端的に表れている。

 グーグルのアンドロイドはスマホ市場全体の8割超のシェアを握るまでに普及したが、端末にあらかじめインストールするアプリは携帯電話会社やスマホメーカーが自由にアレンジしてしまうため、グーグルの音声検索や位置情報などのサービスは埋もれがちになる。グーグルは最先端サービスの「ショーケース」として自社開発の端末を消費者に届ける必要が高まっていた。

 もちろん、グーグルの事業の究極の目的は「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」。スマホは、検索サービスやネット広告などの主力事業を拡大するツールにすぎない。現在もグーグルの売上高の9割超は検索サービスなどの主力部門が生み出しており、そもそもハードウエアで稼ぐ必要はほとんどないのだ。

 台湾のスマホメーカー、HTCとの間でキンドルブランドのスマホを共同開発中と噂される米アマゾンも、グーグルと同様の理由でスマホ市場への参入を目指していると見られる。アマゾンの本業はあくまでEC。それを最も快適に利用できる端末として「キンドル・ファイア」などのタブレット製品群を他社よりも圧倒的に安い価格で販売している。同じような価格破壊をより規模の大きいスマホ市場で再現すれば、その影響力は計り知れない。

 こうしたネット勢の強みは、既存のスマホメーカーにとっての弱点でもある。アップルはパソコンメーカーから出発して音楽やアプリなどのコンテンツ事業者と共存する「エコシステム(生態系)」を確立した。だがグーグルやアマゾンが目指すようなネットビジネス全体を包含するビジネスモデルはまだ構築できていない。サムスンやソニーに至っては、エコシステムを作る段階で何度もつまずいている。

 スマホは人々をネットにつなげる入り口という役割は担うが、もはやハードウエアだけで完結するビジネスではない。スマホメーカーが生き残るにはコンテンツやサービス、広告などスマホに関わる様々なバリューチェーンを取り込んで自らの収益源に育てていくしかない。

特許の漁り合いに見る停滞

 「東西冷戦時代の『MAD(相互確証破壊)』という言葉を思い出す」

 企業同士の知的財産紛争に詳しい米国弁護士の一色太郎氏は、出口の見えないアップルとサムスンの知財紛争について、こんな印象を抱く。

 MADとは2つの核保有国のどちらか一方が核兵器を使えば、最終的に双方が破滅してしまうという原則のことを言う。この原則は、互いに核兵器の使用をためらわせるという理屈で核保有国間では核抑止の効果になっていると主張する専門家もいる。

 一色氏は、同じような原則がスマホを巡る大手2社の知財紛争の中にも読み取れるという。アップルがサムスンを訴えたのは2011年4月。その後、両社の特許訴訟は世界10カ国に広がった。だが、裁判で特許侵害の事実が立証できたとしても、それが売れ筋商品の販売差し止め命令に直結したケースはこれまでのところ1件もない。

 「裁判で特許侵害の事実が認定されたとしても、それが実際の事業の勝敗を決定づけるものではないことが2年半の訴訟を通じて分かってきた」(一色氏)。両社がこのまま訴訟件数を増やしたとしても、法廷闘争が泥沼化するだけで、どちらも勝利を収めることは難しい。こんな判断が働いたのだろう。2012年半ば以降、アップルとサムスンは、互いに新たな訴訟を提起していないもようだ。

 今年9月にようやくiPhoneの取り扱いを決めたNTTドコモ。アップルとの交渉を合意に導く決定打となったのも特許だ。

 実はアップルは無線通信技術に関する特許をそれほど多く保有しておらず、ドコモが持つ特許の利用にアップルが何らかの形で関われるオプションが提示されたことが交渉を後押ししたと言われる。交渉の過程では、NTTが持つすべての技術を開放するようアップルが求めたこともあったようだ。

 アップルに限らず、そもそもスマホ市場に参入するネットやパソコン業界の企業は、通信分野の技術の蓄積が乏しい。知財紛争から身を守るため、通信関連企業が破綻すれば、ハイエナのようにその特許を買い漁る。

 2009年に経営破綻したカナダの通信機器大手、ノーテル・ネットワークスの特許オークションがよい例だ。2011年7月、アップルや米マイクロソフト、ソニーなどで構成する企業連合がグーグルや米インテルなどに競り勝ち、ノーテルの約6000件の特許(出願中を含む)を45億ドル(約4500億円)で落札した。

スマホの次へ渇望感

 オークションに敗れたグーグルはその直後の翌月に米携帯端末大手モトローラ・モビリティを2万4500件の特許(出願中を含む)ごと125億ドル(約1兆2500億円)で買収すると発表した。

 多くのスマホメーカーが知財紛争に巨費をつぎ込み、何年も前に出願された特許を買い集める姿は、消費者の目にはスマホの進化の行き詰まりを象徴するように見える。腕時計型や眼鏡型の「ウエアラブル端末」が話題を集めるのも、こうした消費者心理を映したものだろう。スマホの次のイノベーションに対する渇望は、かつてないほど強まっている。

 スマホの進化が足踏みし、背後からは独自のビジネスモデルを引っ提げた新興メーカーがシェアをじりじりと伸ばしてくる。アップルやサムスンなど、既存のメーカーはどう動くのか。次ページから個別に点検していこう。

日経ビジネス2013年11月18日号 30~37ページより

この記事はシリーズ「特集 スマホ第二幕」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。