映画監督が語る勝敗論

『仕事に必要なことはすべて映画で学べる ――会社に使い倒されないための9の心得』
押井 守著
日経BP社
1680円

 映画を通してビジネスパーソンが参考にすべき考え方や振る舞いを紹介する。リスクを負ってでも決断し勝負すべき時があると教える「飛べ!フェニックス」、迷った時こそ、直感や経験ではなく優先順位に従ってものを考えるべきと示唆する「マネーボール」など9作品を取り上げる。映画監督として世界で勝負してきた著者自身の裏話や処世術も示されており、興味深い。

「良い仕事」を生む知識

『みんなの経営学 使える実戦教養講座』
佐々木圭吾著
日本経済新聞出版社
1680円

 ビジネスパーソンが身につけておくべき教養としての経営学を紹介する。歴史をひもとき、著名な経営学者らの理論や研究を解説すると同時に、今の経営の問題点や課題なども示す。

 最初に経営学そのものに関する基礎的知識を取り上げる。マネジメントを考える際の最重要ポイントは、他人をいかに動かすか。「権限委譲」という言葉があるが、権限は引き受けられてこそ成り立つ「権限受容」という特徴を持つ。部下が何の迷いや疑いも持たずに引き受けられる命令は「無関心圏の命令」であり、この無関心圏を大きくすることが組織の安定につながる。日頃からコミュニケーションを密に取り、行動や思想に高潔さを抱くことが重要と説く。

 経営学の代表的な概念であるモチベーション、リーダーシップ、経営組織、経営戦略などの考え方も示す。C.I.バーナード氏は組織を「1人ではできないことを複数の人間が協力し合って実現しようとする時に生じる関係性」と定義したと説明。生成と存続には協働意思、共通目的、コミュニケーションという3つの要素が必要であり、これらが機能する実効性のある組織設計を考えることが重要と指摘する。

 より快適に、パフォーマンスの高い仕事をするための知識が得られる。

社会への思い込みを解く

『社会心理学講義〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉』
小坂井敏晶著
筑摩選書
1995円

 著者が勤めるパリ第8大学での講義を基に、社会心理学という学問の考え方を示す。

 「人間には自由があり、意思に応じた行動を取る」。社会心理学はこうした素朴な人間像を真っ向から否定する。有名な「アイヒマン実験」では、学習の実験だと偽り、命令を下す実験者に従う役割を任せると、ほとんどの人が出会ったばかりの人に電気ショックを与える“拷問”を実行することが明らかになる。人間の行動は外的状況に左右され、性格はほとんど影響しない。自由意思とは、因果論的な枠組みで責任を把握するために論理的に要請される社会的虚構だと著者は断じる。

 生物や社会を支える根本原理である「同一性」と「変化」も考察する。同一性を維持しながら変化するという相矛盾するシステムはどのように可能なのか。本書は人が矛盾する認知を同時に抱えた際、不快感を解消するために態度や行動を変更するというレオン・フェスティンガー氏の「認知不協和理論」、少数派の影響が深層で作用するというセルジュ・モスコヴィッシ氏の「少数派影響理論」を通して解説する。

 主体、意思、人格、自由などの概念に抱いていた常識が覆される。社会と人を深く理解し、新しい視点が得られる価値ある1冊だ。

(文・小林 佳代=ライター)

日経ビジネス2013年11月18日号 60ページより目次