日経ビジネスは2013年の「日本イノベーター大賞」の受賞者を決定した。大賞はLINEの森川社長、優秀賞は東工大の細野教授ら2人を選んだ。受賞者を含めて編集部が注目するイノベーター30人もリストアップする。

 The introduction of something new(何か新しいものの導入)――。『メリアム・ウェブスター英英辞典』(電子版)は、イノベーションをこう定義する。驚くほどそっけないが、技術に限らず、ビジネスや社会における様々な「革新」や「刷新」が含まれる。

 「イノベーション=技術革新」という多くの日本人が持つイメージは正しくない。1956年の「経済白書」が、イノベーションを技術革新と翻訳して、そのイメージが広がったとされるが、実際は非常に幅広い概念だ。

 イノベーションの概念を最初に定義したのはオーストリア出身の経済学者、ヨーゼフ・シュンペーター。1912年に著した『経済発展の理論』におけるイノベーションの5分類には今も色あせない興味深い指摘が目立つ。

2013年 日経ビジネスが選ぶ日本のイノベーター30人



森川 亮[LINE社長]
無料通話・メールアプリ「LINE」の開発をリード。世界の利用者が3億人に迫る。
立花陽三[東北楽天ゴールデンイーグルス社長]
楽天の球団社長として組織活性化に奔走。9月に球団創設史上初のリーグ優勝を果たす。
田中 仁[ジェイアイエヌ社長]
花粉カットメガネやパソコン用メガネで、視力のいい人向けのメガネという新市場を開拓。
寺尾 玄[バルミューダ社長]
独自方式の扇風機や空気清浄機がヒット。今年11月に外出先から操作できるヒーターを発売。
森下一喜[ガンホー・オンライン・エンターテイメント社長]
累計2000万ダウンロードを達成したスマホ向けゲーム「パズル&ドラゴンズ」の開発をリード。
山田詩織[パナソニック リーダー]
「ナイトスチーマー」や「目もとエステ」などの商品化に携わり、美容家電という新分野の開拓に貢献。
大山健太郎[アイリスオーヤマ社長]
リストラを進める大手電機出身の技術者を積極採用し、家電分野への本格参入を果たす。
坂本 孝[外食チェーン、俺の株式会社]
社長「俺のフレンチ」など一流シェフと高級食材を使い、高回転率で低価格の新業態を確立。
井手直行[ヤッホーブルーイング社長]
個性豊かな地ビールを相次いで商品化。ネットからコンビニなどに販路を拡大して急成長。
榊原健太郎[サムライインキュベート社長]
3年で500社の起業を支援すると宣言。大手VCが支援しないような中小ベンチャーを支援。
川田十夢[AR(拡張現実)開発者]
スマホをかざすと、3次元映像が出てくる「AR(拡張現実)」アプリの開発者として活躍。

細野秀雄[東京工業大学教授]
薄型ディスプレーの省電力化や高精細化を実現する要素技術や、鉄系超電導物質を発見。
森田泰弘[宇宙航空研究開発機構(JAXA)プロジェクトマネージャ]
9月に打ち上げに成功した新型ロケット「イプシロン」を開発。人工知能の活用などでコスト削減。
柴田英司[富士重工業 先進安全PGM プロジェクト・シニア・マネージャー]
運転支援技術「アイサイト」を開発。安価な仕組みで衝突回避機能が普及するきっかけに。
佐々木大輔[freee社長]
全自動のクラウド会計ソフトを開発。安価で、個人事業主やベンチャーなどで普及が進む。
富田 優[鉄道総合技術研究所 超電導応用研究室長]
鉄道の送電ロスを劇的に減らす超電導技術を開発して、今年7月から初の実証実験を開始。
野口 仁[富士フイルム 記録メディア研究所長]
記録媒体としてHDDやフラッシュメモリーに押されていた磁気テープを大容量化で復権させる。
間野博行[東京大学教授]
独自の遺伝子解析手法で肺ガンの原因遺伝子を発見。治療薬の開発に大きく貢献する。
中内啓光[東京大学教授]
iPS細胞由来の心筋や血液の細胞を扱うベンチャーに関わるなど、iPS細胞の産業化に貢献。
越智光夫[広島大学教授]
一度損傷すると治りにくい軟骨組織を再生する技術を開発。製品化され、今年から保険適用。
関山和秀[スパイバー社長]
遺伝子工学を活用して人工のクモの糸を開発し、自動車や航空機などへの応用も目指す。
山本一成[HEROZエンジニア]
3月にコンピューター将棋プログラムとしてプロ棋士に初めて勝利した「ponanza」を開発。

小田兼利[日本ポリグル会長]
納豆のネバネバ成分を使う安価な水質浄化剤を開発。バングラデシュやアフリカで利用進む。
岩佐大輝[農業生産法人GRA代表]
被災地で地元の基幹産業だったイチゴ農園をITを活用して再興。そのノウハウをインドにも展開。
渡辺由美子[NPO法人キッズドア理事長]
経済的に恵まれない家庭の子供を対象にした無料塾「ガクボラ」などを展開する。

塚本勝巳[日本大学教授]
世界初のニホンウナギの卵採取に成功。ニホンウナギを完全養殖する技術の確立にも貢献。
福田知史[丸紅国内電力プロジェクト部・部長]
海上の巨大風車で発電する福島復興の目玉プロジェクト、「浮かぶ風力発電所」の実現に尽力。
訓覇 圭[NHK制作局 チーフ・プロデューサー]
NHKの連続テレビ小説「あまちゃん」で幅広い世代を魅了し、地域に大きな経済効果も生む。
三浦雄一郎[登山家]
今年5月に史上最高齢の80歳で3度目のエベレスト登頂に成功し、シニア世代に勇気を与える。
池井戸 潤[作家]
「半沢直樹シリーズ」など企業と社会正義、ビジネスパーソンの生き方を考えさせる作品で脚光。

色あせないシュンペーターの言葉

 「新しい財貨、すなわち消費者の間でまだ知られていない財貨、あるいは新しい品質の財貨の生産」

 「新しい生産方法、これは決して科学的な新しい発見に基づく必要はなく、商品の商業的取り扱いに関する新しい方法をも含んでいる」

 ほかには「原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得」「新しい販路の開拓」「新しい組織の出現」などがある。

 つまり画期的な新技術に限らず、既存技術を応用した新商品、新市場の創造、組織の変革などを、ユニークなアプローチで生み出すことがイノベーションである。イノベーションは難しいものと身構える必要は決してない。

 もちろん単純な目新しさだけでは、優れたイノベーションとは言えない。思わず膝を打つような驚き、家族や友人にも伝えたいと思うような感動を利用者に感じさせられるかどうかがその価値を決める。

 日経ビジネスではこのような観点に立ち、多様な分野でイノベーションを起こしている人物にスポットを当てる「日本イノベーター大賞」を2002年に創設。2013年で12回目を迎える同賞の発表に合わせて特集記事を掲載するに当たり、最終選考会で選ばれた受賞者4人に編集部が注目するイノベーターを加え、30人をリストアップした。

 今年のイノベーターを読み解くキーワードの1つ目は「Energizer(エナジャイザー)」。活力を与える人を意味し、周囲を鼓舞してやる気を引き出すことで革新を実現するリーダーだ。

 大賞に選ばれたLINE社長の森川亮はまさにこのタイプと言えよう。スマートフォンなどで使える無料の通話・メールアプリを、日本が中心になって海外のチームと協力して開発。その過程では、経営トップとして大胆な方針転換を打ち出して、リードしてきた。

 こうして生まれたLINEのサービスは、「スタンプ」と呼ばれる喜びや悲しみを表現するユニークなキャラクターが世界で支持され、利用者は3億人に迫るまで急成長している。

マネジメント力が球団変える

 東北楽天ゴールデンイーグルス社長の立花陽三も、外資系証券などで磨いたマネジメント力を生かし、弱小球団の選手、コーチ、球団職員を巻き込んで、意識を変えることで、組織を活性化させた。

 2つ目のキーワードは「Integrator(インテグレーター)」。統合者という意味で、既存の技術やノウハウを組み合わせて、革新を生み出している人物を指す。

 ジェイアイエヌ社長の田中仁は、花粉カットメガネや、パソコンを使う際に目が疲れにくいメガネを商品化して大ヒットさせた。既存の技術をメガネに取り入れることで、「視力のいい人が使うメガネ」という新市場を創造し、世界市場にも果敢に挑戦する。

 IT(情報技術)と農業を組み合わせることでイチゴ栽培の生産性を高めているのが、農業生産法人GRA代表の岩佐大輝だ。ベテラン農家の栽培ノウハウをITに落とし込み、若手農家をレベルアップ。地域で取れるイチゴの付加価値を高め、そのノウハウをインドにも輸出する。

 米アップルの「iPhone(アイフォーン)」は機能的には携帯電話とインターネット端末などを組み合わせただけのものだが、画期的なイノベーションとして世界が熱狂した。「“業界たこつぼ”に陥らず、異なる分野のアイデアを組み合わせるインサイト(洞察力)が革新のカギになる」。コンサルティング会社、ドリームインキュベータ社長の山川隆義はこう指摘する。

「常識を覆す」という目標設定

 3つ目は「Visionary(ビジョナリー)」で、目標を設定する力だ。優秀賞に選ばれた東京工業大学教授の細野秀雄は、電気を通さないと見られていた酸化物というテーマに果敢に挑戦し、導電性に優れた新しい材料を次々に開発している。次世代ディスプレーの低消費電力化など、多様な製品で応用が可能なイノベーションは、細野の常識を覆す目標設定から生まれた。

 9月に初の打ち上げが成功した新型固体燃料ロケットの「イプシロン」。プロジェクトマネージャである宇宙航空研究開発機構の森田泰弘は打ち上げコストを半分に引き下げるという目標を設定した。そのゴールを目指して、人工知能を使い少人数で管制する仕組みや、既存ロケットの部品を使うアイデアを導入。海外のロケットに対抗できるようなコスト競争力を実現する道を開いた。

 4番目は「Social Changer(ソーシャル・チェンジャー)」で、社会の変革者を指す。優秀賞に選ばれた日本ポリグル会長の小田兼利は、阪神・淡路大震災をきっかけに納豆のネバネバ成分を使った安価な水質浄化剤を開発。水問題に悩む新興国に持ち込んだところ、現地の人が喜ぶ姿に心を打たれて、今もバングラデシュやアフリカに頻繁に足を運び、水質浄化剤の利用環境の整備に力を尽くす。

 日本で進む所得格差。この問題に取り組むのがNPO(特定非営利活動法人)のキッズドア理事長の渡辺由美子だ。高額化する学習塾の費用を払うのが困難な家庭の子供たちに、無料で勉強を教える。大学生のボランティアなどを組織化し、東京都内から東北まで、様々な地域で無料塾を展開する。

失敗を糧に挑戦し続ける

 最後が「Non-giver-upper(ノン・ギバー・アッパー)」。失敗しても、あきらめずに挑戦し続ける人だ。これはもちろん多くのイノベーターに共通する特徴と言えるだろう。

 今回、特別賞に選ばれた日本大学教授の塚本勝巳は、ニホンウナギの卵の発見に20年以上情熱を燃やしてきた。謎とされてきたウナギの生態を解き明かすカギだと信じていたからだ。ずっと結果を出せず、周囲に無理だと言われても折れることなく、探索を続けたことが、ウナギの生態解明につながっている。

 5月に世界最高齢の80歳で3度目のエベレスト登頂に成功した登山家の三浦雄一郎。2度目の心臓手術を終えてわずか4カ月後のことだった。生きている限り、挑戦を続けそうだ。

 「イノベーションを起こすのは人であり、それを利用するのもまた人だ」。金融業界に変革を起こしてきたマネックス証券社長の松本大は革新を「人」の視点から考えるべきだと主張する。

 2013年のイノベーターたちの生き様からはイノベーションを起こすための様々なヒントが見つかるはずだ。


主催:日経BP社
協賛:第一三共

選考委員(敬称略、順不同)
選考委員長
 小宮山 宏(三菱総合研究所 理事長)

 槍田松瑩(三井物産 取締役会長)
 坂村 健(東京大学 教授)
 松永真理(テルモ 取締役)
 宮内義彦(オリックス 会長)
 米倉誠一郎(一橋大学 教授)

表彰式に読者の皆様をご招待!
 日本イノベーター大賞の表彰式に、日経ビジネス読者の皆様をご招待します。表彰式では受賞者と選考委員や編集長による対談を予定しています。定員200人に達した時点で募集を締め切らせていただきます。ウェブサイトからお申し込みください。参加は無料です。電話やファクスによる申し込みは受け付けておりません。ご了承ください。

表彰式
日時:2013年11月27日(水)、午後5時から
場所:ホテルオークラ東京 別館「アスコットホール」
日経ビジネス2013年11月11日号 50~52ページより

この記事はシリーズ「2013年 日本の革新者たち」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。