(写真:野口 勝宏)
INNOVATOR 13
農業生産法人GRA代表
岩佐大輝
1977年宮城県亘理郡山元町生まれ。高校までを山元町で過ごす。2002年にITコンサルティングを主業とするズノウを設立。震災後、農業生産法人GRAを立ち上げる。

 宮城県亘理郡山元町。橋元忠嗣は、毎日欠かすことなく仮設住宅からここに通う。夜も明けぬ午前3時頃から1万1000平方メートルにわたるイチゴの温室を歩き、葉や土の状態をくまなく見て回る。東日本大震災をきっかけに一度はあきらめかけたイチゴ栽培。橋元は再び「現場」に戻ってきた。

 東日本大震災から2カ月ほどたったある日。橋元の遠縁に当たる橋元洋平が、仮設住宅に現れた。

 「おんちゃん、僕、イチゴやろうと思ってんだ。手伝ってくんないか」。洋平の言葉に橋元はすぐさま反対した。「イチゴのこと、甘く見んな」。35年もイチゴとつき合ってきた橋元には、洋平の挑戦はあまりに無謀に見えたからだ。

 しかし、洋平には確信があった。「ヒロキちゃんとなら絶対やれる」。地元の社会福祉協議会に勤めていた洋平を、「イチゴの世界」に導いたのが、岩佐大輝だ。

 岩佐は震災直後の2011年4月、生まれ育った山元町を訪れた。社会福祉協議会を通じてボランティアをアサインしてもらった先がイチゴ農園だった。山元町では、震災前129軒あったイチゴ農園のうち125軒が被災。沿岸から4kmほどの山元町を襲った津波は、町の40%をのみ込んだ。震災前の山元町のイチゴ出荷額は14億円。地域に根強く残っている産業を復活させることが、復興に不可欠な要素だと思った。

 東京でIT(情報技術)企業を起業して10年。「ここでやれないなら、自分が経営をやってきた意味がない」。岩佐はすぐに動いた。町長や農家の人と日夜ディスカッションを続け、2012年1月には農業生産法人GRAを立ち上げる。橋元洋平が何度も頭を下げに行った橋元忠嗣が「師匠」、洋平は「共同設立者」として参画した。

 岩佐は、2つの方向で経営方針を定める。忠嗣が35年かけて取得してきたノウハウや勘をできるだけ自動化して規模を拡大すること。もう1つは、ブランディングだ。

 2012年2月にはITで制御された大型温室を設置することを決意。当時から岩佐をサポートし続けるグロービス経営大学院の田久保善彦は、「彼自身が銀行から1億円以上借金をしてまで始めたのを見て、並々ならぬ覚悟を感じた」と当時を振り返る。新設した温室では、温度管理や水やりはもちろん、日射量の調整や窓の開閉さえも、人の手を必要としない。

 岩佐は小さな頃からコンピューターが好きだった。小学校5年生の時には、パソコン欲しさに新聞配達を始めた。月に5000円を貯金し続け、中学2年生の時にようやくパソコンを手に入れた。独学で作ったものは、人間が挨拶をしたら、パソコンが挨拶をするような「人間の代わりになる」プログラム。その時の「夢」を今も岩佐は追い続けているのだ。大型温室での作業は、かつて人手が必要だった作業の半分をITが制御している。

イチゴ栽培のノウハウをインドへ

 ITの力で浮いた人件費を、岩佐はマーケティングに注いだ。山元町のイチゴは元来「仙台イチゴ」というブランドで売られていたうえに、北海道への出荷が多かった。岩佐は、首都圏に向けて「食べる宝石」というコンセプトで「ミガキイチゴ」というブランドを考案。震災前は1kg当たり980円だった山元町のイチゴを1500円と1.5倍以上に押し上げた。2013年1月には、首都圏を中心とする伊勢丹6店舗に真っ赤なミガキイチゴが並んだ。

 岩佐の挑戦はこれだけで終わらない。2012年の秋にインドへの進出を決め、1億円の投資を行った。インドでの挑戦は、被災地での経験がアドバンテージとなった。

 山元町のイチゴ栽培では、もともと地下水を使っていたが、震災後、津波の影響で塩分を大量に含んでいた。塩分濃度が薄い地下水を少しずつやり、最小限の水でイチゴを育てた。土も塩分濃度が高く、直接土には植えられないため、「高設ベンチ」と呼ばれるプランターを使って最小限の土で栽培する。

 インドでは、水が貴重で大量の水を使えない。そのうえ、土も赤土で枯れている。そんな被災地との共通点を生かした栽培手法で、2013年3月、「日本で作るのと全く同じレベルのイチゴ」がインドでも収穫できた。

 岩佐は言う。「10年、100社、1万人」。東北に、10年で100社、1万人の雇用を生み出す、と。それができれば、インドの雇用拡大にもつながるはずだ。岩佐の挑戦は始まったばかりだ。

日経ビジネス2013年11月11日号 48~49ページより

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