(写真:的野 弘路)
INNOVATOR 04
パナソニック リーダー
山田詩織(左)
1973年生まれ。96年に旧松下電工入社。8年近く、美容家電のマーケティングを担う。盟友の北岡慶子(右)とは飲み仲間でもある。

 「この商品は男の人も絶対欲しがるで。シルバーの色を追加しようや」。パナソニックで美容家電の商品企画を担当する北岡慶子は、マーケティング担当だった山田詩織の“鶴の一声”が今でも忘れられない。

 今年10月末までに30万台を売る大ヒットとなったパナソニックの「目もとエステ」。スチームと振動で、目元をリフレッシュできるメガネ形のエステ機器だ。もともと女性向けだったが、山田の意見を聞き入れ、男性も狙う方針に転換。この戦略はぴたりと的中し、販売は爆発的に伸びた。

 パナソニックで昨年末まで美容家電を8年近く担当してきた山田は、上司や同僚から「売れ筋を見極める天性のカンを持つ」(上司だった岡山晃久)と称えられる。パナソニックが美容家電でナンバーワンに躍進するプロセスを、マーケティング担当の“アイデアウーマン”として支えてきた。

 一度狙いを定めたら、山田は大胆に動く。昨年夏、JR東海道新幹線の車内で、乗客延べ1600人に対してまだ発売前の目もとエステの大規模な商品体験会を実施した。出張が多い男性に訴えかけるためだ。昨年9月の発売から好調が続き、期待通り、男性購入者も多い。シリーズ化も決まり、今年9月には後継機種が発売された。

「面倒くさがりが毎日使いたい」

 目もとエステは、山田自身が試作機を体感した時点で「絶対に売れる」と確信。その理由を「身に着ける商品は基本売れない。でも目もとエステは、面倒くさがり屋の私でも毎日使いたい。女性だけでなく、男性にもきっと売れると思った」と笑顔で話す。

 だが、山田にはもう1つどうしても売りたい理由があった。実は、目もとエステは企画から発売まで3年を要した非常に珍しい商品。何度もコンビを組んだ北岡など開発陣の苦労に、何とか応えたいと思ったのだ。

 もともと、企画が立ち上がったのは2009年夏。女性同士の雑談で「目元の需要は絶対あるよね」という話題が出たのがきっかけだ。「コードがあるのはダメ」という技術陣を困らせる山田のアイデアや、医師の助言、技術部門の意見を聞いて、北岡が何とか商品にまとめてくれた。安全確保のための繊細な温度コントロール、移動中でも身に着けやすい設計などに苦労したがついに日の目を見た。

 パナソニックにとって美容家電は数少ない成長分野の1つ。その強さを支えるのが女性だ。マーケティングや企画のほとんどを女性が担い、女性の感性が反映されている。家電量販店で化粧品売り場のようなお試しコーナーを作る。ホテルで商品を試す宿泊パックを作るといった発想は、男性目線ではまず生まれない。

 山田はその代表選手なのだ。面倒くさがりの山田は、寝ている間にエステができる大ヒット商品「ナイトスチーマー」のアイデアでも知られる。球体デザインが特徴で、男性の技術者が生産しにくいと難色を示した時も、「とにかく“女子”は丸いのが好きやねん」と押し切った“武勇伝”さえある。

 だが、今は美容家電のマーケティング部門に山田の姿はない。1月に調理部門に異動したからだ。調理家電でもヒットを生むべく、カンを武器にマーケティング戦略を練り上げている。

日経ビジネス2013年11月11日号 36~37ページより

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