「楽しく生きる」方法論

『社会の抜け道』
古市憲寿、國分功一郎著
小学館
1785円

 IKEAには買い物という本来の目的を離れ、子連れでご飯を食べながらおしゃべりを楽しむ母親集団がいる。脱原発など最近のデモに闘争性はなく「楽しくやろう」という意識が主流になっている。社会には多くの問題が存在するが、人々は日常の中に自分たちなりの「抜け道」を見つけて生きている。社会学者と哲学者が様々な現場を訪ね、具体的な方法と実情を探る。

複数の企業で働く未来

『知られざる職種 アグリゲーター 5年後に主役になる働き方』
柴沼俊一、瀬川明秀著
日経BP社
1680円

 「アグリゲーター」とは組織の枠にとらわれず、ビジョンを持って企業内外で活躍する人々を指す。アグリゲーターの存在を軸に、個人と企業の新しい関係を論じた1冊。

 IT(情報技術)の発達で、個人は自由に情報を入手・発信し、人とつながることができるようになった。知識社会に対応すべく進化している個人に対し、企業は変化についていけず、出遅れ続けている。本書はそのギャップがあらゆる経営問題を引き起こしていると指摘。「個人と企業の連立方程式」を解くべきと説く。

 カギとなるのが企業の価値創造をリードするアグリゲーターだ。経営者はアグリゲーターを育て、生かす組織をつくる必要がある。まず大胆に仕事を任せ、彼らの学習を奨励する。組織に彼らの持つビジョンを浸透させるのだ。一方で「イノベーション・ポートフォリオ」の考え方を導入し、期待するイノベーションの特性に応じて経営資源を配分し組織を設計する。従来の枠組みを外し自由なワークスタイルとすることで、アグリゲーターが活躍する組織が動き出す。

 個人と企業を再生するために取り組むべき経営課題を明確に示した。経営視点だけではなく、個人のキャリア育成の参考書として読んでも興味深い。

“毒リンゴ”の過酷な支配

『アップル帝国の正体』
後藤直義、森川潤著
文芸春秋
1365円

 この10年、「iPod」「iPhone」など革新的な製品で人々の生活に浸透してきた米アップル。圧倒的な強さの背景には、時に獰猛なまでにビジョンを実現させる組織の遂行力がある。スティーブ・ジョブズというカリスマの陰に隠れていたアップルの実像に迫る。

 モノ作りの現場では、日本企業がアップルに生殺与奪の権を握られる例が後を絶たない。シャープの亀山第1工場は、「iPnone5」用の液晶パネルを月に720万台も作れる「アップル専用工場」としてフル稼働していた。しかし昨年12月、突然、発注が半分以下に減ってしまう。残ったのは設備、人件費などのコストばかり。生産ラインが凍りついた現状を前に、ある社員は「かじってはいけない“毒リンゴ”に手を出してしまった」と本音を吐く。

 流通に対する締めつけも厳しい。アップルはブランドイメージが下がると考え、首都圏から離れた地方店舗に商品を卸すことを極端に嫌う。一般的な家電の流通マージンは販売価格の30%ほどが相場だが、アップルは10~5%未満のケースもある。売り場の作り方やマスコミに発信するコメントまで介入してくるという。「アップル帝国」が作り出した巨大な経済圏の中での過酷なまでの支配・被支配の構図が浮き彫りになる。

(文:小林 佳代=ライター)

日経ビジネス2013年11月4日号 64ページより目次