消費税率が3%から現行の5%へと引き上げられた1997年。4月の実施を前に、自動車や住宅、家電製品などでいわゆる「駆け込み需要」が見られた。今回の増税を前に、既に住宅業界などで駆け込み需要が生じている。

 それでは、税率が5%から8%へと引き上げられる来年4月1日より前に、こうした商品を購入しておいた方が本当に「お得」なのか。住宅購入時の給付金など、政府は駆け込み需要とその反動減をなだらかにするための手立てをいくつか打っている。単純に「増税前に買った方が得」とは言い切れないケースもある。

自動車業界、「空白の2カ月半」

 10月1日、安倍晋三首相による消費増税の正式発表の会見を、自動車業界の多くの関係者がやきもきしながら待ち構えていた。消費増税と同時に、長年の懸案だった「自動車取得税」の引き下げ、さらには将来的な廃止が明言されるとの期待があったからだ。

 だが、結果的には自動車関係諸税の結論は、12月に先延ばしとなった。これが正式に決まらなければ、どのクルマをいつ買うのが消費者にとって最も負担が少ないのかが明確にならない。自動車業界は今、「空白の2カ月半」のさなかにある。

 「お客さんから、『いつ買うのが得なのか』と聞かれても、取得税がどうなるか分からないから、消費増税の話しかできない」。トヨタ自動車系ディーラー、東京トヨペットの営業担当者はこうこぼす。

 もっとも、自動車取得税の引き下げの有無とは関係なく、駆け込み需要がこれから本格化しそうなクルマもある。1つはハイブリッド車。既に「エコカー減税」により、乗用車の半分近くは取得税が減税・免税の対象となっている。ハイブリッド車は取得税が免税となるため、仮に4月から取得税の税率が引き下げられてもその恩恵を受けることはない。消費増税分がそのまま購入者の負担として加算されることになる。

 それだけに、なるべく4月より前に取得しようという消費者の動きが予想される。ただ、各社ともハイブリッド車に人気が集中していることもあり、現状の消費税率5%が適用される3月末までのナンバー登録が困難な車種も出てきそうだ。

 今年6月に富士重工業が発売した「スバルXVハイブリッド」は、既に納車まで5カ月待ち。たとえ年内に注文しても、納車は増税以降となる。同社は9月に生産台数を引き上げたばかりで、これ以上の増産は難しい。ただ、富士重工業をはじめ自動車各社は、購入後、引き渡しが4月1日以降になってしまう場合には、顧客に対して何らかの対応をすることを検討している。

 そしてもう1つが軽自動車だ。取得税は地方税であることから、引き下げや廃止となる場合、それに代わる新たな財源を求める声も根強い。有力なのが同じ地方税である「軽自動車税」の引き上げだ。実施されれば消費増税とのダブルパンチとなるだけに、消費者が「どうせ買うなら安いうちに」と考えるのは自然な流れだ。

 10月初めに「タント」を投入したダイハツ工業は2013年度の軽自動車の需要を200万~210万台と予想していたが、「消費増税前の駆け込みで、さらに上乗せされるだろう」(三井正則社長)と期待を寄せる。

 ダイハツは軽自動車の競争が激しさを増しているため、昨年の秋にタントの開発前倒しを決断。発売日を当初予定より約2カ月早めた。結果的に駆け込み需要のピークに向けて投入する絶好のタイミングとなった。

 自動車各社とも、当面の駆け込み需要と反動減、そして関係諸税の動向を見据えながら、来年度以降の生産・販売計画を組み立てることになる。

(イラスト:トクマル ユウコ)

住宅購入、年収で変わる損得

 消費税5%で住宅を取得するためには、注文住宅の場合を除き、2014年3月までに引き渡しを受ける必要がある。それもあって、住宅の駆け込み需要は既にピークを迎えている。

 だが、必ずしも増税前に購入した方が得とは言えない。消費増税に伴って様々な住宅購入の負担緩和策が打ち出されているからだ。

 まずは住宅ローン減税の拡充。10年間、毎年のローン残高の1%相当分を所得税から控除する措置が、現行の年間最大20万円から40万円へと引き上げられる。

 さらに、収入が一定水準を下回った場合は、「すまい給付金」と呼ばれる補助金が給付される。これは、2014年4月から2017年12月までの間、消費税率8%の時には年間の収入額の目安が510万円以下、10%の時は775万円以下の住宅購入世帯に、現金を給付する内容だ。気になる給付額は、それぞれ年間最大30万円、50万円となっている。

 これらの減税や補助金は、住宅購入者の年収によって額が変わる。増税前か増税後、どちらが得かは人によって異なることになる。

 みずほ総合研究所ではこれらの要素を考慮した試算を出している。年収の6倍に相当する金額の物件を消費税8%になった後に買った場合、年収500万円、600万円世帯はそれぞれ28万円、11万円の負担増であったのに対し、年収400万円、800万円、1000万円世帯はそれぞれ9万円、52万円、80万円の負担減だった。年収によって損得が分かれた格好だ。

 一定の前提下での試算であるものの、今回の減税措置は高所得層の方が恩恵を受けやすい仕組みと言えそうだ。逆に、年収500万~600万円の中所得者層は増税前に買うことも検討しなければならないだろう。

日経ビジネス2013年10月28日号 40~41ページより

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