遺産相続の本当の恐ろしさは、カネの問題の後にやってくる親の負の遺産問題だ。分けづらい土地、家財道具、相続対策用の賃貸アパート、事業承継の様々な権利…。そんな「親の負の遺産」の相続に直面した時、円満に乗り切れる保証はどこにもない。
日本文学界の大御所、山崎豊子氏が先月29日、呼吸不全で亡くなった。
その山崎氏の出世作に1963年発表の『女系(にょけい)家族』がある。後に映画化され、たびたび、ドラマにもなっているこの大衆小説は、氏の出身地である大阪の呉服商主人の遺言書を巡って、骨肉の争いが繰り広げられる物語だ。
主人の死後、愛人の存在が発覚する。胎児のうちに認知された非嫡出子までもが加わって、泥沼の相続争いに発展。さらに事業の承継、山林の相続など、遺産相続は複雑怪奇の様相を呈していく。相続人たちのモノやカネに対する強欲ぶりに、読者は圧倒される。
しかし、作品がこれほどまでに大衆の共感を呼び、高視聴率ドラマとして支持されるその根っこには、我々が心の奥底に潜む「執着心」を自覚しているからかもしれない。
2013年2月4日発行の日経ビジネスでは「庶民(アナタ)が相続税を払う日」を展開した。そこでは、2015年から始まるであろう相続増税が、我々庶民に直撃する切実な問題であると指摘。カネにまつわる様々なトラブルを紹介し、それを回避するスキームを提案しつつ、「相続の心構え」を説いた。同時に、親の人生の充実、資産の再分配を促すため、資産はなるべく生前に使い切り、子供は親の資産をアテにしない人生設計をすべきだとも述べた。
が、しかし。特集を終えたその後、取材班は「相続の本当の恐ろしさ」に気づくことになる。遺産相続の本当の落とし穴は、「数字」で分配できるカネの問題ではなく、カネの相続を終えたその後に展開される、「親の負の遺産」であることを。
「親の負の遺産」とは、均等に分けることが難しい土地、家財道具、相続対策のために被相続人が残した賃貸アパート、事業を承継するための様々な権利――などである。
折しも9月、最高裁判所大法廷は、非嫡出子の相続分を「嫡出子の2分の1」とする民法の規定を違憲とする判断を示した。この判断により、例えば、被相続人の死後、愛人の子供が目の前に現れた場合、「嫡出子と同等の相続分」が非嫡出子の手に渡る。
それは、山崎氏の小説『女系家族』で展開された骨肉の争いに輪をかけて、火種が拡大することを意味する。果たして庶民がこのような「親の負の遺産」の相続に直面した時、円満に乗り切れる保証はどこにもない。「相続を乗り切った」と思ったその瞬間に、悲劇の幕は切って落とされる。
CONTENTS
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(1)賃貸用アパート
大学移転で節税対策が裏目に -
(2)境界線が曖昧な土地
30年以上売買がない物件は要注意 -
(3)空き家になった田舎の実家
放置期間が長いほど打つ手がなくなる -
(4)共有名義の不動産
プロも警告、「不動産相続の禁じ手」 -
(5)未相続の山林や土地
「100人の相続者」が出現の場合も -
(6)分散した自社株
売り上げ10億円前後の家族経営は注意 -
(7)墓
墓地管理料の滞納が招く無縁仏の悲劇 -
(8)借金
親の借金や連帯保証も相続されている -
(9)愛人と隠し子
年の離れた愛人に“書かされていた”遺言書 -
(10)兄弟がニート
遺産を食い潰し、さらなる要求を
本誌流 相続対策「親の負の遺産」編
相続が重荷になってはいないか