「国際霊柩送還」という耳慣れない仕事に従事する女性がいる。元は平凡な2児の母。葬儀で返礼品を配るアルバイトが彼女を変えた。「国境」と「生死」に引き裂かれた死者と遺族のために心血を注ぐ。

(写真:会田 法行)

 真っ青な日本の夏空をバックに、赤い垂直尾翼を携えたトルコ航空TK50便が滑走路に降り立った。イスタンブールを出発して11時間。山本美香は、12日ぶりに故郷に戻ってきた。

 狐野由久は、指定された到着時間の午前10時30分に成田空港第1ターミナル南ウイングで山本の帰りを待っていた。旧知の友が、異国で倒れたと聞いてから4日。いまだに信じられない気持ちだった。2012年8月20日、山本はシリアのアレッポで紛争の取材中に銃弾を受け、死亡した。享年45。イラク戦争など世界の紛争地を精力的に取材し、ボーン・上田記念国際記者賞特別賞を受賞したジャーナリストだ。

 日本テレビ放送網の外報部長である狐野は、仕事の発注を通じて山本と15年以上のつき合いがある。山本についての記者会見や搬送、葬儀についての一切を任されていた。山本の遺体が成田に到着した後、付き添うように空港を出発し、東京都杉並区の山本の自宅へと向かった。棺が開かれ、狐野はそこで初めて山本と無言の再会を果たす。「美香さんの変わり果てた姿はどこにもなかった。昔から薄化粧だった彼女が、その顔のまま美しく眠っていた」。

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