天ぷらと寿司、おにぎりはもともと(イスラム教が禁忌とする食材を含まない)ハラールなのよ」。今号の特集で日本を観光で訪れたマレーシア人女性がこう言って、天ぷら店に入る場面があります。また、NHK連続テレビ小説「おしん」がイスラム圏で人気がある理由をイスラム教徒に尋ねたところ、「主人公・おしんが貧しい実家に送金して助けることがイスラムのザカート(所有財産の一部を貧しい人に分配する仕組み)に似ているから」という答えが返ってきました。

 イスラム教と聞くと、日本人の文化や生活様式と縁遠いように思えますが、こうした話を知ると、意外に共鳴できる部分も多そうです。無宗教と言われる日本は、「自国の宗教も決められない」と他国から揶揄されることもありますが、むしろ宗派の衝突が各地で勃発している現状の中では、優位性と捉えてよいのではないでしょうか。多様な宗教や文化に比較的寛容で、決定的な敵対関係を作らない。そのことが実は、五輪を招致できた遠因だったのかもしれません。

 好むと好まざるとにかかわらず、21世紀はこれからさらに中国、そしてイスラム社会のパワーが増大していきます。とりわけイスラム教徒の人口の伸びはすさまじく、1990年の10億人強から、2010年には約16億人に増えました。政治や外交上はもちろんのこと、ビジネスを優位に展開するうえでも、我々は世界に広がるイスラムの価値観を深く理解する必要があります。五輪ムードに沸く日本ですが、背後で進むメガトレンドにも目を配っておきたいものです。

(山川 龍雄)

日経ビジネス2013年9月23日号 1ページより目次

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