現状を積み上げて作る中期経営計画は機能しない。まず「夢」を描き、夢の達成のために今すべきことを考える。逆算の経営計画を支えるには、人を育てることも必要だ。

松本 晃(まつもと・あきら)氏
1947年京都市生まれ。72年4月、伊藤忠商事入社。86年10月に医療機器販売の子会社へ。93年、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人へ。ジョンソン・エンド・ジョンソン社長、最高顧問を経て2009年6月からカルビー会長兼CEO。
(写真:柚木 裕司)

 みなさんの会社はどうやって将来の成長を実現しようとしていますか?

 「現在の業績が絶好調だから、今のまま継続していけばいい」「毎年の業績向上に全力を注いでいけば、中長期でも結果的に良くなる」という会社もあるかもしれません。でもまあ、こんな極端な考え方をする企業はさすがに少ないでしょう。大抵の会社は「足元の業績と競争力、市場環境、景気予測などを基に中期経営計画を立てる」ことで、成長を実現しようとしているのではないでしょうか*1

 中期経営計画を立てる経営は、「今の路線を続けるだけ」「毎年全力でやるだけ」の経営よりも精緻に思えます。でも、よく考えてみると、出発点はどれも「足元」なのです。精緻に見える中期経営計画も、「現在」を起点に将来を展望している点では「今のまま継続」「毎年全力」と同じです。違うのは様々な数字を積み上げて作っているという点だけです。

 「毎年全力でやるだけ」という経営では、市場や経済の環境が変わると、それに合わせて将来像も大きく変わってしまいます。その点、中期経営計画は目指す将来像に着実に向かっていくことができそうです。でも実際は、経済環境が揺らぐと2年目あたりから実績が計画からズレてきます。3年目になると、さらにそのズレが大きくなり、最後は「足元の状況が変わった」などと言って、将来の目標値そのものを下げてしまうこともあります。そしていつしか、その中期経営計画自体、誰も覚えていないという結果になります。みなさんも覚えのある話ではないでしょうか。

 企業にとって最も大事な、将来の成長を規定する計画がこれでいいわけがありません。だから、私は考え方を全く変えました。「現在」を起点にするのではなく、「未来」から計画を組み立てたのです。まず、将来カルビーがどこまで成長していたいかを想定します。そして、それを達成するためには今、何をすべきか、何を改革する必要があるかという現実的な計画に落とし込むのです*2

 当社が2011年度に策定した「計画」は、下のグラフのように2018年度を目指したものです。7年後に目標を置いたのは、多くの企業の中計が現実的目標としている5年後より少し先にすることで「夢」の要素を入れたかったからです。10年も先にすると、夢の要素が強くなりすぎて現実味がなくなります。だから7年なのです。

 2018年度を想定した「目標」は、当社にはそのくらいの力があると見込んで、5000億円としました。通常の積み上げ方式で計画を作ると、恐らく2000億円程度で終わるでしょう。この落差が「なりたいカルビー」と「普通に推移した場合のカルビー」なのです。そして、落差の部分を「White Space(空白)」として「どうやって埋めていくかを考えよう」と言ってきました。

 より具体的にお話ししましょう。グラフの中の表を見てください。まず5000億円を目指すための中長期の成長戦略を描きます。その成長戦略の中で、White Spaceを埋めるための経営の方向性、課題とその課題を解決するための方策を検討していきます。

 連載の1回目にお話しした「仕事の棚卸し」も、ここにつながってきます。棚卸しは、社内の仕事を(1)会社にとって良いことで現在実行しているもの、(2)良いことなのに実行できていないもの、(3)すぐにやめた方がよいもの――の3つに分類し、(1)はそのまま継続する、(2)はすぐに始める、(3)はやめる、というものです。White Spaceを埋めて、なりたい姿になるためには、今どのような仕事をすべきなのか。中長期のビジョンを作るうえでも、仕事の棚卸しは欠かせないのです。

「空白」を埋める6つの成長戦略

 今、我々はWhite Spaceを埋めるために次の6つの戦略を掲げています。「海外戦略」「革新的な新商品開発」「国内市場のシェア拡大」「米ペプシコとの提携強化」「L&A(食品関連のライセンス契約と事業買収)」「新規ビジネス展開」です。既存のカルビーの事業に近く、まだできていないことを中心に組み立てました*3

 戦略を掲げた後は、それぞれの戦略を達成するために今何をすべきか、どう改革すべきかを柱とした短期のビジネスプランを立てます。ただし、このプランでは既存事業をどう伸ばすかという計画も作ります。

 当然ですが、現在やるべきことは具体的なものにして、短期計画中に必ず達成しなければなりません。前述の「ペプシコとの提携」は私が2009年に会長になる時にまとめたもの。今年4月から動き始めた中国の食品メーカー、康師傅(カンシーフ)との合弁事業を含め、海外事業を拡大していくつもりです。これについては次回、詳しくお話しします。

 「新規ビジネス展開」の1つが、2011年末に始めたカルビープラスという直営店舗です*4 。店内でポテトチップスを作り、できたてを提供してカルビーのファン作りや情報発信の拠点にしようというものです。カルビープラスは「新規事業を大きな柱にしよう」と言い出したことで、社員から提案が出てきました。

将来に向けた新規事業の1つ「カルビープラス」。平日でも来店客は多い(写真は東京駅店)(写真:柚木 裕司)

 そのほかにも、コンビニエンスストアに店内調理用の食品を卸す事業などもあります。流通チェーン向けではPB(プライベートブランド)スナック菓子も受託生産していますが、同様にうまく育てられればと思っています。

 「夢」に向かうための経営計画は、執行役員と若手、女性社員などにも入ってもらって毎年1回、新たに作っています。将来の売上高目標を含め、打ち手は状況を見ながら変えます*5

 大事なことは、将来を意識したうえで現状を変えることです。通常の積み上げ型の中期計画でも毎年、計画を見直すことはあります。しかし、それを繰り返しているうちに将来の目標と懸け離れた姿になり、中期計画そのものの意味がなくなることが珍しくありません。それではダメなのです。

 ここまでは企業が成長するための計画の立て方をお話ししてきましたが、私は企業の成長に最も大切なのは、人の成長だと思っています。高い目標を掲げても、みんながその気にならなければ達成できないし、人が成長しなければ計画案も実行策も出てきません。

 社員と会社の夢を共有するために私が続けていることの1つが、「タウンホールミーティング」です。これは、私と伊藤秀二社長が全国に二十数カ所ある当社の工場や支店などを年2回ずつ回り、会社の方針や状況などについて社員と対話していくというものです。

勉強会で「夢」を実感してもらう

 そしてもう1つが「松塾」と呼んでいる一種の勉強会。こちらは、松尾雅彦相談役と一緒に毎月1回、土曜日に工場・支店などを回っています。2人の「松」から名づけた塾で、新人でも派遣社員でも参加することができます。

2011年の松塾で「夢」と「現実」のホワイトスペースをどう埋めるかについて話す松本会長

 ここで必ず話すのが「学ぼう」ということ。学ぶ心と姿勢を持っていれば成長できると言っています。分かりやすいので一昨年の例を申し上げると、この年は「White Space」「夢」をテーマにしました。「手が届くことより大きな夢を描いてみよう」とか、「そのために今、何をしたらいいか考えてみよう」といったことをまず話します。その後、二十数人の参加者が数人ずつのグループに分かれて対話をするのです*6。結論は出しません。みんなの意見や考え方を出し合うだけです。

 普段、夢について考えることなんてあまりないですよね。でも、こうした経験を通じて考え、人はどう思っているかを聞くと、今何をすべきかといった「気づき」が生まれるものです。そうすると、夢に対する姿勢がぐっと前向きになるのです。

 松塾では、私が若い頃、30歳、45歳、60歳、それ以降という形で人生を15年ごとに区切り、その15年間で何をするか考えていた、という話もします。「30歳までは仕事と勉強を通じて自分の基盤を作る」「45歳までは圧倒的な成果を上げる」「60歳までは、その成果から得るものを基にさらに自分を高める」といったものです。

 誰であっても夢は持てるし、計画を立てることができる。そして、それを実行できるのです。それが分かってもらえれば、カルビーと、自らのWhite Spaceを埋めることへの取り組み方も変わるのではないでしょうか。松塾などの取り組みは、経営計画とは関係ないように見えるかもしれませんが、実は深く関係していることなのです。

 会社の成長を担う幹部を育てる仕組みもあります。各本部長、部長には「すぐに自分の後を任せられる人」「3年後に任せられる人」「将来任せられる人」を選定させ、育てるように言っています*7。また、今春からは部長や課長に立候補し、役員を前にプレゼンテーションできる制度を作りました。

 各候補者の名前は、本部長クラスの会議では公開します。部署は違っても人の実力や評判は知られているものだし、人事からの情報もありますから、実力のない部下を親分・子分の関係で引き上げようとしてもすぐ分かるようになっています*8。結局、高い目標を達成するためには、計画の作り方と、その計画を実行するための土壌や仕組みから変えていかなければならないのです。

(構成:主任編集委員 田村 賢司)


*1 戦略論でしばしば「目的は○○、目標は△△軍」という言葉が語られる。第2次世界大戦のドイツ軍司令官の話とされるもので、機甲師団を手段にして(つまり使って)、△△軍という目標を殲滅すれば、おのずと最終目的の○○という都市は陥落させられるという意味。最終目的と現実の目標、手段を明確にせよということだ。経営計画立案の基本でもある。該当本文に戻る
*2 ここにも、松本会長が経営で大事なこととして常に挙げる「結論から考える」思想が、表れている。企業にとっての結論は、どんな業種でも売り上げと利益を増やすこと。その結論につながる最も簡単でコストの少ない方法を考えればいい。だから、まず将来の大きな目標を先に立て、現実の戦略に落とし込んでいく方法を取っているのだろう。該当本文に戻る
*3 この考え方は、例えば米アップルを連想すれば分かりやすい。同社は本来、パソコンメーカーで、音楽やメディアは事業にしていなかった。しかし、iPodの開発により音楽やメディアは既存事業と隣り合う分野になった。さらに、iTunesストアを開設し、ハードとソフトを一体で売る新たなビジネスモデルを作り出した。該当本文に戻る
*4 カルビープラスは今年5月、東京スカイツリーの下にある商業施設内に開店した「東京ソラマチ店」で6店となった。そのほかに、東京の「原宿竹下通り店」「東京駅店」「ダイバーシティ東京プラザ店」、北海道の「新千歳空港店」、沖縄の「沖縄国際通り店」の各店舗がある。該当本文に戻る
*5 松本会長はこれらの活動を成長戦略策定ワークショップと名づけている。昨年は7月にまず仕事の棚卸しをした後、「将来の夢」を討論し、その夢の実現のための課題を検討した。そして同年末に、ビジネスプラン策定ワークショップと称して2012年度の最終成果をどうに実現するか、2013年度はどうするかを決めた。このように常に夢と現実をつなぎ、着実に夢を実現していこうとしている。該当本文に戻る
*6 松塾でも行われた、参加者が5人程度のグループに分かれ、考えを吐露し合う方法はワールドカフェと呼ばれる。堅苦しい会議より休息時間の方が活発な議論が出やすいことに着目した会議理論だ。20分程度自由に対話した後、テーブルクロス代わりに敷いた模造紙にその内容を書き込む。メンバーのほとんどは別のグループに移ってそれを繰り返す。対話の量も大人数の会議よりはるかに増える。該当本文に戻る
*7 いわゆるサクセッションプラン。幹部は常に今すぐ後継者になれる「Ready Now」、3年後に後継者にできる「Ready Later」、そして将来の後継者候補である「Future Candidate」を選定しておく。これには、幹部に何かあった場合も、組織が円滑に動くようにするリスク管理の狙いもある。該当本文に戻る
*8 カルビーは昨年から12月に「部長サミット」、1月に「課長サミット」と名づけた会議を開いている。そこで、サクセッションプランに挙げられた候補と、部長などに自ら名乗りを上げた候補を合わせて、次に引き上げる人材を選ぶようにしている。選抜の公平性を保つためだ。該当本文に戻る
日経ビジネス2013年9月23日号 108~111ページより目次