
この地図をご覧いただきたい。見たことのない世界に見えるかもしれない。これは、北アフリカ、中東から中央アジア、東南アジアに至る、多数のムスリム(イスラム教徒)を抱える国々だけを浮かび上がらせて描いた地図だ。イスラムという価値観を共有する人たちの「世界」と言っていい。
米国も、欧州の大半も、東アジアも隠されたこの地図を見てどうお思いだろう。私たちはこの世界を、欧米よりも地理的に「近い」にもかかわらず、視野の外に置こうとしてこなかっただろうか。テロリズムと内戦の嵐が吹き荒れる、近代化の進まない未開の地として無視してはこなかっただろうか。
私たちは、なぜかこの「世界」──本特集ではイスラム諸国会議機構(OIC)に加盟する57カ国を「イスラム圏」と呼ぶ──を「異質なもの」として遠ざけてしまう。
だが、今こそ、欧米的な視座に立ったその世界観を覆し、この“失われていた世界”の地図を正視すべき時だ。
イスラム圏には、原油や天然ガスなどのエネルギー資源を豊富に埋蔵する国が多い。ゆえに世界経済にとってイスラム圏は「安定した資源供給地」であればよかった。だが、世界人口の約4分の1はムスリムだ。過去10年、貧困国まで含めたイスラム圏のGDP(国内総生産)の年平均伸び率は13.9%に及んだ。消費地としても、生産拠点としても、もはや経営戦略の埒外に置き続けてよい場所ではない。
この「世界」が閉ざされているように感じられるのは、イスラム教の特性が理由の1つにある。イスラム教は、彼ら彼女らの死生観や世界観を支えるものであると同時に、生活様式であり、文化であり、法でもある。つまり、イスラム教を離れて、生産も消費も含め、あらゆる経済活動はあり得ない。
この16億人市場の扉を開くために、私たちは今、イスラムについてもっと多く、深く知る必要がある。