米国がリードするシェール革命は、世界のエネルギー供給を変えるか。日本は安いエネルギーを十分に確保できるようになるのか。テクノバ研究員の大場紀章氏に今後の見通しを寄稿してもらった。

 世界で「シェール革命」の現実的な意味が理解されつつある中で、日本では依然として石油枯渇問題から人類が解放されるバラ色の未来が待っていると伝えられることが多い。

 確かに現在のエネルギー情勢を語るうえでシェール革命は欠かすことのできないキーワードである。化石資源のポテンシャルの拡大や国際政治への影響など、その重要性は強調しすぎることはない。しかし、昨今の議論を聞いているとまるでシェール革命という技術革新がエネルギー問題をすべて解決してしまうかのようなイメージがあり、筆者は非常に危惧している。

原油高に支えられた革命

 実は、この10年で最も大きく変わったものは原油価格なのである。

 シェール革命が生まれ、そして現在も続いているのも、日本が輸入する液化天然ガス(LNG)が高いのも、すべては原油価格の劇的な上昇に起因していると言ってよい。現在、原油価格はシリア情勢と絡めてしか話題に上らないが、既に2011年以降の原油価格は1バレル当たり110ドル(ブレント原油)前後という以前では考えられなかった高い水準を推移している。2002年の実に4倍である。

(写真:Getty Images/Wittelsbach bernd)

 上のグラフは、各国の天然ガス価格と原油価格指標の1つの「WTI」の推移を単位熱量当たりの価格として示したもの。2008年、原油価格高騰に引きずられ、すべての天然ガス価格が上昇した。ところがその後、米国だけは価格が下落した。シェールガス開発が急拡大し、過剰供給になったからだ。

 採算割れの価格水準でもガス生産が継続できているのは、WTIが再び高騰したために、シェールガスと一緒に産出されるプロパンなどの液体成分が高値で取引されているからである。そして、現在は赤字続きのシェールガスから、同じ技術で掘れて高値で売れるシェールオイル(タイトオイル)の生産にシフトしている。この一連の現象をシェール革命と呼んでいるのだ。

 一方、日本やドイツなどの天然ガス価格は基本的には原油価格と連動しているために、WTIに伴って再上昇している。このように、シェール革命もLNG価格の高騰も、その根本には原油価格の高騰がある。

 それでは、原油価格の高騰の原因は何か。それは、国際エネルギー機関(IEA)が認めているように、在来型の原油生産が2006年でピークとなり、「安い石油の時代が終わった」からである。以降は高コストな非在来型資源の開発により生産量が維持されている。シェール革命によって、ピークオイルの懸念は消え去ったという主張があるが、逆に在来型石油のピーク到達によってシェール革命がもたらされていると言ってもよいのである。

エネルギーに特効薬はない

 シェール革命が広がることに期待を寄せているのは日本だけではない。欧州連合(EU)では2005~12年に家庭用のガス料金が平均で45%、電気料金が22%も上昇しているため、シェール革命に対する関心はとても高い。

 昨年、EUの政策執行機関であるECがシェールガスの経済的影響に関する調査レポートを発表した。その中で、世界各地におけるシェールガスの生産コストを比較している(下のグラフ)。

(写真:Getty Images/MyLoupe/UIG)

 米国の採掘コストの安さで突出しており、他の地域はおよそ2~3倍の水準である。こうしたコスト差は米国のシェールガスが地質的に採りやすいことに加えて、水の調達コストの安さも要因になっている。世界最大のシェールガス資源量を持つと言われている中国は、米国の倍程度のコストと考えられるが、地層が複雑で開発が難しいうえに、需要地から遠く、本格的な生産の見通しは立っていない。

 コストに加えて、地下資源の所有権が地主に帰属するという北米特有の社会制度がある。地主に莫大なロイヤルティーが直接支払われるため、開発が一気に進む。また、直接利益が入るため、住民の環境問題が顕在化しにくい。シェール革命は当面米国だけでしか起こらないのである。

 こうした現状を受けてECでは、「エネルギー問題に特効薬はない」と、冷静に議論するようになっている。

 それでは、米国の今後はどうなるのであろうか。昨年、IEAが「米国は今後サウジアラビアを抜き、北米は石油輸出国になる」と発表したのをきっかけに、「米国は今後世界最大のエネルギー輸出国になる」といった議論が散見されるようになった。

 下のIEAグラフを見ると、今後米国における在来型石油の生産量は継続して減少していく一方で、シェール革命によってシェールガス生産に随伴するプロパンなどの液体成分や、シェールオイルの産出量が急拡大する見通しとなっており、2017年頃にサウジアラビアの石油生産量を超えることになっている。

(写真:Getty Images/Peter Miller)

 しかしこれは、サウジアラビアの石油生産量が今後しばらく漸減するという前提の上に成り立っている。しかも2020年以降シェールオイルの生産は減少過程に入り、サウジアラビアを超えるのは想定上であっても瞬間の出来事にすぎない。シェールオイルの寿命はもってあと10年と見られている。

 さらに、米国石油需要の曲線に注目すると、石油需要が約25%も減少している。これは、米国の厳しい燃費規制が厳格に守られることを前提としている。それでも米国はまだ生産量が需要に足りていないので、石油輸入国である。実は、IEAは石油輸出国になるのは「米国」ではなく「北米」と言っており、カナダのオイルサンド増産も合わせて初めてこの想定が成り立つ。

環境政策との間で揺れる米国

 現在、米国のエネルギー政策最大の課題は、「キーストーンXL」という南北を縦断するパイプラインの認可である。カナダのオイルサンドの生産を今以上に拡大するためには、この設置が不可欠と考えられているが、環境問題に力を入れたいバラク・オバマ大統領はその判断ができないでいる。もし今年中に認可がされないとすると、カナダのオイルサンド事業は厳しい制約を受けて大きな打撃を受けると言われている。一方で、認可をすれば、オバマ大統領は環境派の支持を失うだろう。

 米国から日本に向けたLNG輸出が認可され話題となっている。しかし、米国では最初の認可までの判断に実に2年近くを費やしており、米エネルギー省のスティーブン・チュー前長官は結局この判断を下せないまま退官し、次期長官に委ねている。このこと自体が、輸出認可がいかに難しい問題であるかを示している。今後、いくつかの案件が認可されていく見通しであるが、ある程度のところで抑えられるだろう。これらの問題を見る限り、今後米国がエネルギー輸出大国になるようには思えない。

 現在、米国では採算割れしているシェールガス事業の撤退が相次いでおり、今後価格は上昇トレンドになると市場は判断している。既に、天然ガス価格は昨年と比べて2倍になっており、日本が輸入する頃には、LNG輸入費用の削減効果はかなり限定的なものになっているだろう。

 シェールオイルは米国で生産拡大は続いていくが、採算が取れるためには1バレル当たり80ドル以上の原油価格が必要と言われている。これは世界的に見ればかなり高コストであり、仮に生産過剰で原油価格が下落すると、シェールオイルの生産は持続不可能になってしまうだろう。

 このように、在来型原油のピークオイル後の高い原油価格を前提にシェール革命が成り立っているため、本来的にエネルギー価格の下落にはならない。むしろ、今後エネルギー価格がさらに上昇するまでの一時しのぎでしかないのである。イメージ先行の議論に惑わされず、地に足のついた冷静な分析に耳を傾けるべきだろう。

日経ビジネス2013年9月23日号 76~78ページより

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