効率を追い求める「超速配送」の拡大は、物流拠点の立地や機能を大きく変貌させる。かつて日本を支えた工場の跡地に巨大な倉庫が建ち、投資と労働力が流れ込む。新たな付加価値を取り込み、物流が製造業に代わる新たな主役になりつつある。

 かつて130社を超す企業の工場が入居した「内陸工業団地」(神奈川県厚木市と愛川町)。旧陸軍の飛行場を工業団地に転用したこの地が、今度は物流拠点の集積地に変わろうとしている。

 自動車部品大手のカルソニックカンセイが2009年に閉鎖を決め、318人の従業員が去った厚木工場。その跡地には、天を仰ぐ5台のクレーンと巨大な建築物の骨格がそびえ立っていた。

 シンガポール系の物流不動産大手、グローバル・ロジスティック・プロパティーズ(GLP、東京都港区)が12月にも完成させる地上6階建ての物流施設「GLP厚木」だ。その一角には、部品物流大手のバンテック(川崎市)が入居を決めた。「近隣3カ所に分かれていた拠点を集約して輸送効率を高める」(同社総務部)のが狙いだ。

 団地内では三井不動産が凸版印刷の工場跡地を物流施設用地として取得。ヤマトホールディングスの新拠点「厚木ゲートウェイ」も三菱ふそうトラック・バスの工場縮小で生まれた空き地に建つ。「まるで内陸“物流”団地だな」と1960年代から同団地に拠点を持つ工作機械メーカー、牧野フライス製作所の幹部はつぶやく。

内陸シフトで環状物流ベルト誕生

 今、こうした光景が全国各地で見られるようになっている。

 下の地図は、関東近郊で2012年以降に稼働、または開発中の主な物流施設だ。本誌が聞き取りや現地訪問で調査した。関東平野に円を描くようにして広がる物流拠点の新たな集積。名づけて「環状物流ベルト」の誕生だ。

工場が物流施設に生まれ変わっていく
関東近郊で最近開発された主な物流施設
注:日経ビジネス調べ。JCTはジャンクション、地図上の地名はインターチェンジ(IC)、グレーの部分は工事・計画中 1
セブン&アイ・ホールディングス ネット通販向け拠点[2014年4月]
2
ソニー子会社(設備機械)三井不動産 MFLP久喜[未定]
3
味の素 物流センター [2014年4月]
4
昭和鋼機(アルミサッシ工場)アスクル ロジパーク首都圏[2013年7月]
5
マーレフィルターシステムズ[埼玉工場]の一部(自動車部品)オリックス不動産(日本ロジテムが賃貸) 川越IIロジスティクスセンター[2013年5月]
6
東芝(携帯電話)三井不動産 MFLP日野[未定]
7
トヨタ自動車東日本 旧・セントラル自動車(自動車)三菱地所など ロジポート橋本[2014年秋]
8
キャタピラージャパン【相模事業所】の一部(建設機械)三菱地所など ロジポート相模原[2013年8月]
9
カルソニックカンセイ(自動車部品)花王 花王厚木ロジスティクスセンター[2013年10月]

カルソニックカンセイ(自動車部品)GLP GLP厚木[2013年12月]

凸版印刷(パッケージ装置などの試験)三井不動産 MFLP厚木[未定]

三菱ふそうトラック・バス[中津工場]の一部(自動車)ヤマトホールディングス 厚木ゲートウェイ[2013年8月]
10
日産自動車(部品センター)大和ハウス工業 DPL相模原[2013年11月]
11
日産自動車[座間工場]の一部(自動車)プロロジス プロロジスパーク2[2012年8月]

日産自動車[座間工場]の一部(自動車)GLP GLP座間[2015年7月]
12
ジョンソンコントロールズ(自動車部品)GLP GLP綾瀬[2014年11月]
13
ジーエス・ユアサコーポレーション(自動車用鉛蓄電池など)アマゾンジャパン・ロジスティクス アマゾン小田原フルフィルメントセンター[2013年9月]
14
JVCケンウッド 旧・日本ビクター創業地(オーディオ機器)SGリアルティ SGHロジスティクス横浜[2012年5月]
15
コスモ石油(製油)大和ハウス工業 DPL横浜大黒[2014年3月]
16
ベイシア 物流センター[2012年10月]
17
コメリ 物流センター[2013年1月]
18
住友軽金属工業(建材などアルミ押し出し製品)SGリアルティ SGHロジスティクス柏[2012年6月]
19
アサヒ飲料(「三ツ矢サイダー」などの飲料)ラサールインベストメント マネージメント ロジポート北柏[2012年10月]
20
YKK AP(サッシ工場)ケネディクス(ナカノ商会が賃貸) 工場を物流施設に転用[2013年4月]
21
東鋼業(鉄鋼製品加工)三井不動産 MFLP八潮[2014年2月]
22
サカタインクス(印刷用インキ)三井不動産 MFLP船橋西浦[2015年]
23
クボタ(鋼管の加工)GLPと三井不動産(楽天が賃貸) GLP・MFLP市川塩浜[2013年12月]

 動きが激しいのが、延伸工事が続く首都圏中央連絡自動車道(圏央道)の近隣。2015年度に全線が開通すれば、東名高速道路や中央自動車道など首都圏と地方を結ぶ高速道路とつながり、各地へのアクセスが飛躍的に高まる。

 「輸出量減少でコスト高になった港湾近くの物流施設が、内需向けとして内陸にシフトしている」(野村総合研究所公共経営コンサルティング部の若菜高博主任)。そのメッカが圏央道の沿線で、受け皿が日本で踏ん張り切れずに消えていった工場の跡地だ。

 日本政策投資銀行が調べた2013年度の業種別の設備投資計画では、運輸業が前年度比16.8%増、不動産業が同31.2%増。1ケタ増にとどまる自動車や電気機械を上回った。

 日本全体の物流量が減少し続ける中、なぜ次々に新たな物流拠点が生まれるのか。ネット通販事業者の台頭だけではない。製造業から流通業、さらに企業の配送・在庫管理を一括で請け負う3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)まで、高効率の施設を求めているからだ。その需要を見込み、物流に特化したREIT(不動産投資信託)に投資マネーがなだれ込む。

 GLPの帖佐義之社長は「物流のスピードを競ううえで、どんな施設を利用するかは雲泥の差をもたらす」と強調する。トラックを横づけできる台数で、物流の効率やスピードは大きく変わる。だから新しい大型施設への入居希望が絶えない。一五不動産情報サービス(東京都墨田区)によれば、賃貸用物流施設の空室率は首都圏で2.4%、関西で1.2%と極めて低い。膨らむ需要に供給が追いつかず、現在の建設ラッシュは今後3~5年は続きそうだ。

 これまで物流施設は工場と比べて雇用や税収への貢献が乏しいと考えられてきた。その既成概念も崩れ始めた。

 「今や倉庫は、自治体として進出を歓迎する存在だ」。千葉県商工労働部の浜本憲一次長は言う。かつて、倉庫は数人の倉庫番とフォークリフト、荷物だけがある薄暗い場所だった。それが、雇用を生み出す場所へと変貌している。しかも、内需型の物流施設は工場と違って海外移転することはない。

 千葉県習志野市に新しい物流施設を稼働させたスタートトゥデイの大蔵峰樹取締役は「フル稼働時には延べ1000人を超える人が働く」と話す。物流施設では仕分けなどの作業を機械化する動きも盛んだが、商品の撮影や検品など、扱う商品が増えれば増えるほど人手も今まで以上に必要になる。

 多くが非正規の従業員であれ、製造業が縮む中で、雇用の創出効果は無視できない。人材会社、インテリジェンスの藤倉正臣・統括部長は「『仕分け・梱包・商品管理』の求人は継続的に拡大している」と話す。以前は小売店で行った値札つけなどの作業も、物流施設のスタッフが担う。人材確保のため、汗を流せるシャワー室やおしゃれなカフェを併設する施設も増えている。

進化を続ける物流施設が地域の雇用を生み出す(埼玉県三郷市にある「GLP三郷III」のカフェテラス)(写真:柴崎 康太郎)

スマイルカーブの右端に

 「倉庫の工場化」も起こり始めた。中小・中堅の通販会社を中心に、約160社から発送業務を請け負うイー・ロジット(東京都千代田区)。東京都江戸川区に構える物流拠点には、金属や樹脂の部品が並ぶ一角がある。

 ここでは、それらの部品を従業員が組み立てている。パソコンやスマートフォンの周辺機器に仕上げ、説明書と一緒に梱包し、購入者に発送する。その光景は、物流拠点と言うよりも、むしろ、工場に近い。

 この組み立て作業はもともと、入居企業の1社が中国の企業に委託していた。リードタイムを短縮するため、部品の段階でイー・ロジットの拠点に運ぶように切り替えた。部品の状態で置いておけば、注文に応じて組み立てればいい。作業の時間帯や数量も柔軟に変えられる。売れるか分からない製品在庫を抱えるよりも効率的だ。

 アジアから製品や部品を輸入し、必要な時にだけ素早く日本中に運ぶ事例は今後も増える。製造業の空洞化を埋める形でできた物流施設が、ふたを開ければ工場化する。そうなれば、高いスキルを持つ人材も物流の現場に必要になってくる。

 物流の機能は「売った後」にも及ぶ。佐川急便は、家電や衣料品のリコール(回収・無償修理)時に、製品の回収のみならず、コールセンター開設や返金など関連業務を一括受託するサービスを始めた。実績は既に50件を上回る。「物を運ぶ、という枠組みを超えて付加価値を提供する」と黒川泰之・営業戦略担当部長は言う。

 これまで製造業や小売業の裏方として捉えられてきた物流の高付加価値化。「スマイルカーブ現象」でモノ作りだけで稼げなくなっている中、そのカーブの右端に位置する物流がヒト・カネも吸い寄せ始めた。ネット通販はもちろん、小売業や製造業にとっても、物流を軸にバリューチェーンを再構築すべき時代に差しかかっている。

日経ビジネス2013年9月16日号 48~50ページより

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