国内流通総額1兆4000億円を誇る国内最大のEC(電子商取引)モール「楽天市場」。アマゾンを追う楽天は、物流を抜本的に改革している。

 現在、楽天が保有する大型物流拠点「RFC(楽天フルフィルメントセンター)」は千葉県市川市にある2つ。だが、9月には千葉県柏市、来年1月には関西初の物流拠点となる兵庫県川西市のRFCがオープンする予定だ。

 さらに2012年5月に買収した健康関連商品の通販企業、ケンコーコムが保有していた福岡県飯塚市の拠点を改築し、九州エリアの配送体制を構築。2014年1月には首都圏の配送網を強化するため、市川市にさらに拠点を増やす。今後は2年後をメドに、東北や中京圏など全国計8カ所まで大型物流拠点を増やしていく予定。アマゾンに比べ出遅れたエリア拡大を急ピッチで進める。

 それだけではない。生鮮食品も取り扱うネットスーパー事業「楽天マート」向けに、地場の中堅宅配会社と組み、顧客宅までの最後の配送、いわゆる「ラストワンマイル配送」を強化している。

 2012年7月の開始時には東京23区内の豊島区、北区、板橋区、練馬区の4区だった対象エリアを、今年3月には、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の71市区にまで拡大。今後も人口が密集する大都市圏を中心にエリアを拡大していく予定だ。

 楽天マートは品揃えを増やす戦略の一環でもあるが、その裏側には、これを通じて物流改革を進めようという狙いがあった。

 楽天も含め、あらゆる流通業にとって、ラストワンマイル配送はブラックボックスだ。ヤマト運輸や佐川急便といった配送会社が蓄積した顧客の情報に、楽天は直接アクセスすることができなかったためだ。

 だが、楽天は、そのブラックボックスをこじ開けようとしている。

 顧客が確実に在宅している時間帯はいつか、どうすれば1度で届けられるか。そうした知見こそが、楽天が物流で先を行くアマゾン追撃のために最も欲している情報でもあるからだ。それを獲得するためには、自前で宅配機能を持つ必要があった。

トヨタマンの目にはムダだらけ

 「世界的に見てもこんなにユニークなビジネスモデルはほかにない」

 楽天の三木谷浩史・会長兼社長は、事あるごとに自らが作り出した「楽天市場」をこう自賛する。安土桃山時代の「楽市・楽座」から名づけた通り、数多くの出店者と消費者が一堂に会し、賑わいを見せる。

 自ら商品を仕入れ、販売するアマゾンとは根本のビジネスモデルが異なる。各出店者が並べる商品も家電やアパレル、地域の特産品、スイーツなど、多岐にわたるのが楽天市場の特徴だ。

 だが、こと物流に至ってはこの「多様性」が長らく足を引っ張ってきた。巨大な施設を各地に持ち、物流の効率化を進めるアマゾンに比べて、出店者ごとに配送する構造が物流コストを押し上げてしまうからだ。

 例えば、ある消費者が同じタイミングで楽天市場の3店舗で商品を購入するとどうなるか。同じ宅配業者であってもバラバラに商品が送られ、それぞれに配送料がかかる。どれだけ品揃えが多様で商品の代金が安くても、配送料がかさめば消費者の足は遠のく。

 それだけではない。楽天市場の出店者によっては、配送にかける労力や時間がボトルネックになり、売り上げが伸び悩むケースが目立ち始めていた。

 強いビジネスモデルが、いつのまにか決定的な弱点となっている。この現状を打破するため、2006年にある人物を招聘した。

 トヨタ自動車の出身で、現常務執行役員物流事業担当役員の武田和徳氏だ。武田氏の下、多様性を維持しつつ、物流の効率化を進めるために知恵を絞ってきた。その過程で、ある仮説がはっきりとしてきた。それは、前章で登場したヤマト運輸やアマゾンのような「できるだけ早く届ける」とは大きく異なる、「できるだけ1回で確実に届ける」というものだった。

トヨタ自動車の生産管理部門の経験もある武田和徳常務が楽天の物流改革の指揮を執る(写真:陶山 勉)

 宅配業の歴史は配達スピード短縮の歴史だったと言っても過言ではない。遠く離れた場所に、できるだけ早く届ける。そのために、たくさんの拠点を設け、ムダな工程を省き、スムーズに荷物が流れるよう、ロジスティクス網を磨き上げてきた。

 だが、武田氏からすればそんな「業界の常識」が非常識に見えて仕方がなかった。生産管理のスペシャリストで、トヨタ生産方式が骨の髄まで染み込んでいる武田氏の目には、あまりにも多くの「ムダ」が映ったようだ。

 トヨタ生産方式の「ジャスト・イン・タイム生産システム」を通販に適用すれば、“必要な商品”を、“必要な時に”、“必要な量だけ”届けることが、全体の最適化につながるはず。だがそれも、武田氏から見れば「顧客側の視点から見たジャスト・イン・タイムの視点が欠けている」。その結果、多くのムダが生まれているという。

 例えば、新車が最も売れるのは、消費者のディーラーへの来店が多い週末。その週末に合わせ、どれだけの数が売れるのか需要を正確に予測し、そこに向けて平日、クルマを効率よく生産していく。物流でも同じではないかというのだ。“顧客が求める物”を、“顧客が求める時に”、“顧客が求める量”を届けることこそが物流全体の効率化につながるのではないか。

 「当初はあくまでも仮説だった」と言う武田氏。だが、最近では自らが立てた仮説に自信を深めつつある。

 日本通信販売協会が今年の1月15日~2月8日までの期間で調査した「2013配送満足度調査」によると、「配送サービスについての希望」に対して答えた8159人の回答でダントツで要望が高かったのが「配達時間帯の指定」(68%)と「配達日指定」(62%)。

 一方、「翌日配送」(9%)、「当日配送」(4%)といったスピードを求める声は極端に少なかった。つまり、指定された日時に確実に配送してほしいという要望が最も高かったことになる。

 ここで1つのカベに突き当たる。物流にジャスト・イン・タイム方式を取り入れるためには、まず顧客を知る必要があるという事実である。そこから逆算して物流の最適化を図らなければならない。

 楽天が楽天マートを始めた狙いもそこにある。楽天は今年7月、地域限定で楽天マートと楽天市場のID共通化を始めた。楽天会員であれば別途会員登録をしなくても、楽天マートのサービスが利用できるようになるほか、楽天マートの入会金1050円や月会費210円を無料にする。

 楽天マートの会員であれば、在宅時間の傾向がおおよそ把握できる。なぜなら鮮度が重要な生鮮食品を受け取るため、確実に自宅にいる時間を指定してくるからだ。仮に不在にしていたとしても、なるべく当日中に再配達を受け取ろうとする。そのため、楽天マートは「宅配時の不在率は極めて低く、当日配達完了率は99.9%に上る」(楽天物流の恵谷洋社長)。

 この極めて「正確に在宅を把握できる会員のID」を楽天会員のIDと紐づけることで、楽天市場の物流にも生かせることになる。逆に、楽天マートのラストワンマイル配送に、楽天市場で購入した商品を載せていくことも可能になる。実際、楽天ではこうした混載物流の実験を少しずつ始めている。

 楽天がラストワンマイル物流に乗り出すもう1つの狙いが楽天ブランドの強化だ。楽天は中堅の宅配事業者との提携を広げながら、楽天マートの配達網を広げている。提携事業者にはサービス品質の徹底を義務づけており、「要求レベルは相当高い」(楽天が提携するQ配サービスの高柳均社長)。配達するスタッフは楽天のロゴがついた帽子やユニホームで荷物を届ける。

楽天マートでは地場の配送会社と提携し、楽天のデザインが施された帽子やユニホームを身に着けて配送。サービス品質には特に配慮しているという(写真:陶山 勉)

 これまで楽天市場で購入した商品は、最終的にヤマト運輸や佐川急便といった宅配事業者が届けてきた。宅配という最後の最後で、楽天ブランドは途切れていた。ラストワンマイル物流を手がければ、ウェブサイトでの購入から、実際にモノが届くまで一貫して楽天ブランドの浸透を図れるメリットが大きい。

 そのため、楽天は2013年3月に15%出資した中堅の宅配事業者のエコ配(東京都港区)を通じて、EV(電気自動車)の導入を検討中だ。「環境配慮はサービス全体のブランドに影響を及ぼす」(エコ配の片地格人社長)からだ。

意図的に作り出す「波動」

 武田氏が描く野心的な物流構想はこれだけではない。最終目的は、川上から川下までのすべての物流を効率化することで、「意図的に起こす波動」に耐え得る物流ネットワークの構築だ。

 例えば、ECでは商品の配達指定日が週末に偏り、平日を指定する人が少ない。その場合、楽天は一定の需要コントロールが可能だ。同社が持つポイントプログラム「楽天スーパーポイント」がここで生きてくる。

 つまり、「平日受け取りでポイント付与を10倍」と打ち出すことで、本来、平日でも受け取れるにもかかわらず、受取日を週末に指定していた人が平日に変更することが期待できるからだ。

 実際、楽天マートでは8月26日~9月30日までの期間、月・火・水曜日の受け取りの場合、ポイント付与率を3倍にするキャンペーンを実施。需要のコントロールで配送を平準化できるかどうかの実験を重ねている。

 楽天は2012年3月以降、大型セール「楽天スーパーSALE」を度々開催している。テレビCMでの告知も相まって、今年6月にはセール初日の流通総額が過去最高の約150億円を記録した。

 大型セールという意図的に起こす「波動」。物流が最も苦手で、現場の混乱をもたらす問題だ。実際、アマゾンは楽天のように極端な波動を起こさず、物流量を平準化させる傾向にある。

 一方の楽天は、成長に効果的な波動を作り出したうえで、物流でそれを制御しようとしている。楽天が描く物流ネットワーク構想の目的は、販売から物流拠点、物流拠点間配送、小型配送拠点(デポ)、宅配に至るまでを自社で抱えることで波動をうまく吸収し、全体の最適化を図ることだ。

 構想の実現は道半ばだが、狙い通りの高度な物流を作り上げれば、「この規模のEC事業者にとっては初めて」(武田氏)。品揃えの多様性とマーケティングの主導権を握ったまま、独自の物流システムを作れるかどうか。それこそが、今後の楽天の成長を左右する。

日経ビジネス2013年9月16日号 42~45ページより

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