アマゾン ジャパンは神奈川県小田原市に国内最大の物流拠点を開設した。当日配送のエリアを拡大しても、絶対にコストを増やさず、効率を落とさない。その執念が生む取り組みは、ヤマトという最強のパートナーを得て一気に進化する。

アマゾン ジャパンが神奈川県小田原市に新設した国内最大の物流拠点。同社が最初に設立した市川の物流拠点が写真左側の建物と同じ規模だ(写真:村田 和聡)

 JR小田原駅からクルマで10分。住宅や中小商店が軒を連ねる市街地を抜けると、黒と銀のパネルに覆われた巨大な建物が姿を現す。インターネット通販の世界最大手、米アマゾン・ドット・コムの国内9番目にして最大の物流拠点、「アマゾン小田原フルフィルメントセンター(FC)」だ。

 今年9月3日に本格稼働した1期棟と、来春に完成する2期棟を合わせた延べ床面積は20万平方メートルと東京ドーム4個分だ。小田原FCだけで、これまでの主力拠点「市川FC」(千葉県市川市)の約3倍の広さがある。

 周辺には複数のIC(インターチェンジ)があり、関東一円へのアクセスは万全だ。9月以降は関東一円と関西、北九州地方に加え、静岡県にも当日配送サービスを提供する。

 ここがアマゾンにとって極めて戦略的な物流拠点であることは明白だ。宅配業務で提携するヤマトホールディングスの大規模物流施設「厚木ゲートウェイ(GW)」が稼働を始めたのは8月11日。しかも小田原FCと厚木GWの距離は約40kmほどと近い。

 8月6日に開かれた厚木GWの竣工式に来賓として参加したアマゾン ジャパン・ロジスティクスのジェフ・ハヤシダ社長は東日本大震災を機に両社の関係が深まったことを明かしつつ、「アマゾンが作り上げた情報ネットワークとヤマトが作り上げる物流ネットワーク、そして支えるヒューマンネットワークが1つになった」と賛辞を贈った。

 両社は互いに協力し合って、物流の効率化に着手し始めている。アマゾンの小田原FCでは出荷の際、スタッフが流れてくる荷物を行き先に応じて分けられたヤマト専用の荷車に載せている。従来であれば、これは宅配業者の仕事だ。

 だが、行き先がバラバラの状態で荷物を積み、ヤマトが受け取って再度、エリアごとに仕分けするよりも、大まかに仕分けした状態で積んだ方が効率的だ。ヤマトの厚木GWには、こうして行き先のエリアごとに仕分けられた状態で、次々と小田原FCから荷物が運ばれてくる。こうした効率化への取り組みが、当日配送可能なエリアを拡大させている。

 小田原FCの稼働に伴い、アマゾンは「芳野台FC」(埼玉県川越市)、「狭山FC」(同狭山市)、「常滑FC」(愛知県常滑市)を2014年3月以降に閉鎖することを決めた。だが、これら3つの拠点を閉鎖しても、逆に当日配送エリアは77.3%、翌日配送は95.7%まで拡大する。これこそが、ヤマトの厚木GWとアマゾンの小田原FCが見せる「マジック」と言えるだろう。

 両者のタッグは危機感の裏返しでもある。今後、EC(電子商取引)市場が確実に拡大していく中で、EC事業者と物流企業が互いに手を取り合わなければ、ボトルネックが生じて互いの成長を阻害しかねない。

 前章で見たようにヤマトにとってはネット通販向けの小口・多頻度輸送が増え続ければ、従来型の物流システムではいずれ限界を迎える。

 ECの王者アマゾンと物流の王者ヤマトが手を組む。インパクトは計り知れないが、狙いはそれだけではない。

宅配時不在の難題に取り組む

 今、物流コストを引き上げる大きな要因となっているのが、再配達の増加だ。アマゾンでは徹底した効率化でスピード物流に磨きをかけてきたが、唯一、コントロールしきれず流れが滞る場所がある。それが、購入者の受け取り時だ。

 核家族化が進み、一人暮らしの世帯が増える中、宅配時の不在率は高まる傾向にある。こうしたライフスタイルの変化にかぶさる形で、EC経由での注文は次々と増え、それに伴い当日配送を指定してくる顧客も増えている。 本当にその日に必要でなくても、当日配送を指定する購入客も多い。その結果、受け渡しが、翌日、さらに翌日にずれ込む頻度も高くなる。荷物を渡せず連日、受け手に配達し続けるのはヤマトにとってもコスト以外の何物でもない。ヤマトの物流ネットワークを支えるのは住宅地の近くにある数多くの小さな営業所。だが再配達が滞る中で続々と当日配送の荷物が届けられれば、いずれ営業所はパンクする。

日本での創業時からアマゾン ジャパンを統括してきたジャスパー・チャン社長(写真:村田 和聰)

 アマゾン ジャパンのジャスパー・チャン社長も「(注文者に対し)1回で届けるのは宅配事業者との間で共有する共通の課題だ。解決すべき共通のゴールという認識を持っている」と指摘。こうした課題に対して、全く異なる視点から考えていく必要があると言う。

 つまり、どこに配送すべきなのか、最後の最後に顧客が配達先を柔軟に変えられる仕組み作りが必要ではないかということだ。

 そのため、アマゾンが目下、取り組んでいるのが他国では取り組みがなかった「コンビニ受け取り」の拡大だ。アマゾンはローソンに加え、2012年10月からはファミリーマートの店舗でもコンビニ受け取りのサービスを開始した。「今後、提携先をさらに増やしていく」(チャン社長)という。

 1度で顧客に荷物を届ければ、顧客にとってはサービス向上となり、ヤマトにとってはコストダウンとなる。ファーストデリバリー(1回目の配送による受け取り)の比率を高めることで、物流コストを抑える。いや、抑えなければならないという危機感が両社の絆を強めているというのが正しいだろう。

 これまで最大のボトルネックになってきた購入者宅への配送が1回で済めば、モノの流れは劇的にスムーズになる。それは、EC事業者の物流システムを大きく変化させる可能性を秘める。考えられる1つが、EC事業者の物流拠点の小型化だ。

 アマゾンは「当日配送可能なエリアを100%に近づけていきたい」(チャン社長)という野望を抱く。その一方で、「物流拠点の数や規模にはこだわらなず、今後は小さな規模の拠点も検討する」(チャン社長)と明かす。

 それに呼応するように、「我々の当日配送ネットワークを使えば、EC事業者はこれまでのような巨大な倉庫を持つ必要はなくなる」とヤマトホールディングスの木川眞社長も口を揃える。つまり、メーカーから倉庫への納品が当日配送に置き換わり、注文通りの時間に届けば、EC事業者は減った分の在庫をその日のうちに補充できる。その分、在庫は最小限に抑えられ、物流拠点も小さくて済むというわけだ。

小・中規模物流拠点も検討へ

 それだけではない。アマゾンは現在、同社が「セル・グローバル」と呼ぶ、海外への輸出を可能にする取り組みを進めている。

 例えば、商品保管や注文処理、出荷、配送、返品に関するカスタマーサポートをアマゾンが代行する「フルフィルメント by Amazon(FBA)」を利用している英国企業は、ドイツやフランスでも商品を販売できる。セル・グローバルの体制が日本でも整えば、日本で「Amazon.co.jp」に出品して販売する事業者は海外でも販売できるようになるわけだ。

 「最終的には販売者が1つのアカウントでどこの国のマーケットプレイスで売るかを選べるようにしたい」とチャン社長は意気込みを語る。

 こうした取り組みをヤマトが9月20日に羽田にオープンさせるクロノゲートが支える可能性も大いにある。

 アマゾンはヤマトとともに配送サービスの一角を担ってきた佐川急便の利用を止めた。正式な発表もないままの、ひっそりとした撤退劇に、物流業界では「アマゾンが無理な値下げを要求したのではないか」との憶測も飛び交った。

 だが、実際には契約解除は個人向け宅配から法人市場に軸足を移しつつある佐川側の方針転換を受けてのこと。逆に言えば、徹底した効率化を進めなければ、個人向け配送事業は今後、ますます厳しさを増すことを示していると言えるだろう。

当日配送のその先は生鮮食品か

 では、アマゾンが当日配送の網を全国に張り巡らせたその先に見据えているのは何か。現時点で同社はそれを明かさないが、想像には難くない。

 アマゾンは地球上で最も豊富な品揃えを目指し、低価格で、かつ高い利便性で提供することを目指す会社だ。当然、“品揃え”の今後のプランの中に、「生鮮食品」が入っていると見た方が自然だろう。

 「日本では具体的な計画はまだない」(チャン社長)としているが、既に米国では「Amazon Fresh(アマゾンフレッシュ)」の名称で生鮮食品の宅配サービスを開始している。今後、当日配送ネットワークが整い、ヤマトのクール便の利用が拡大すれば、日本全国の生鮮食品が流通する体制が整う。

 アマゾンの独走は続く。だが、多くのライバル企業も物流の重要性に目覚め、各自の取り組みを始めている。

 次の「楽天が挑む『波動制御』」では独走アマゾンを猛追し始めた国内勢の取り組みを追う。

日経ビジネス2013年9月16日号 38~41ページより

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