かつて「宅急便」でイノベーションを起こしたヤマトホールディングス。超高速物流インフラを完成させ、今度は製造業など企業間物流の領域に乗り出す。部品調達から在庫、アフターサービスまで、従来の常識を一変させる取り組みが始まった。

今年8月11日から稼働し始めた厚木ゲートウェイ。延べ床面積約9万7000平方メートルと広大(写真:古立 康三)

 広大なフロアを、ベルトコンベヤーが縦横無尽に走る「厚木ゲートウェイ(GW)」。8月11日から稼働し始めたヤマトホールディングスの大型物流ターミナルだ。

 1階の着車スペースでは、各地から集まったトラックが途切れることなく荷物を降ろす。宅配便は秒速2.7mで走る巨大コンベヤーにのみ込まれ、わずか数十秒後には、宛先別に分かれたシューターへ滑り落ちていく――。毎時約4万3000個の荷物を自動で仕分ける最新鋭のマテリアルハンドリング機器が作業の中核を担う。今後、厚木GWと同じタイプのターミナルが中部、関西でも2016年度に完成する。

 GWが建つのはいずれも都市部入り口の交通の要所だ。厚木GWは首都圏中央連絡自動車道(圏央道)の相模原愛川インターチェンジに隣接し、東名高速道路までクルマで約10分。圏央道が中央自動車道路と接続すれば、その利便性はさらに高まる。

 3つのGWが稼働すると、宅配便の常識は変わる。今は一定の地域でしか実施していない荷物の当日配送が、幅広い地域で受けられるようになるからだ。朝収穫した京野菜を、その日の夕方に東京都内のレストランで出すことも、大阪の主婦が、都内の高級スーパーで注文した食材を夕食に使うこともできる。緊急の会議で必要な資料を、遠方から当日中に取り寄せることも可能だ。消費者の生活は様変わりする。

秒速2.7mで走る最新のクロスベルトソータが高速で荷物を仕分ける(写真:古立 康三)
中2階にあるスキャナーは、荷物の前面、上面、左右側面のバーコードを読み取る(左)。1階のフロアには、荷車を自動で移動させる前詰め搬送機がある(右)(写真:古立 康三)

止まらず、流れ続ける宅配便

 この「超速配送」実現のため、ヤマトは物流システムを抜本的に変えた。

 宅配便は通常、日中集めた荷物を夕方までためて、夜中にまとめて目的地に運ぶ。ヤマトでは全国69カ所の主な支店が1日1便、相互にトラックを走らせる。そのため遠方に荷物を運ぶには、どうしても1日以上かかるのだ。

 だが3つのGWで、その仕組みはがらりと変わる。東名阪のGW間ではトラックが終日往来する。日本各地で集めた荷物は、すぐに最寄りのGWに送られる。GWで瞬時に仕分けられると、直ちに3都市間を往来するトラックに乗り、目的地近くのGWに送られる。荷物が片時も止まることなく流れ、当日中に届けられるようになるわけだ。

 宅急便の誕生以来、ヤマトは初めてその仕組みを変える。急増する荷物の数がヤマトを変革へと走らせた。

 2012年、国内の宅配便の取扱数は年35億個に上った。ヤマトだけでも年15億個近く。最大の理由は米アマゾン・ドット・コムや楽天が牽引するネット通販市場の急拡大だ。購入した商品をいち早く、指定した時間に、確実に届けてほしい。そうした消費者のニーズと要求水準は高まる一方だ。

 「増える荷物に合わせて営業所や人、トラックの数を増やしても、固定費ばかりが増えて利益は年々目減りする」(ヤマトホールディングスの木川眞社長)。膨張し続ける荷量を今の仕組みでさばくことは、限界に達していた。宅配便の仕組みを作り直すことは、ヤマトにとって喫緊の課題だったのだ。

 逆に言えば、大改革の機が熟したとも言える。宅配便の取扱数が年15億個に迫った今なら、東名阪の間で終日、大型トラックを走らせても、一定以上の荷量を確保できる。赤字を出すことなく当日配送のエリアを広げられる。現場がパンクする前に自らの物流モデルを切り替えるという確固たる意思が、そこにはあった。

 その象徴でもあるGWの強みは、単に荷物が流れ続けることだけではない。もう1つの狙いは「流れる間に付加価値をつける」(木川社長)こと。そのためGW建屋の上層階には、荷物の同梱や組み立て、最終検査ができる付加価値機能エリアを新たに備えた。ヤマトはここに、様々な企業を誘致する。

 その一例が三越伊勢丹ホールディングスだ。同社は9月、厚木GW内にEC(電子商取引)専用の物流拠点を構える。約3300平方メートルのフロアで、商品の撮影や採寸、サイト掲載から受注、梱包、発送までを一気通貫で済ませる。

 注文が入れば倉庫から商品を取り出し、梱包して、GW内の自動仕分けに流すだけ。これで今では1~2週間かかる配達期間を劇的に縮める狙いだ。「GWの機能をうまく生かした当日配送が最終目標」(三越伊勢丹ホールディングス)と考えている。

 GWで変わるのはECだけではない。当日配送によって最も大きな恩恵を受けるのは、実はモノ作りの現場だ。

当日配送で蘇る日本のモノ作り

 「ジャスト・イン・タイムで部品が納入されれば、製造工程は一変する」

 半導体製造装置で日本最大手の東京エレクトロン。この熊本工場で生産管理を担う東京エレクトロン九州の山内貴士・生産管理部長は期待に胸を膨らませている。熊本工場は今秋から部品の配送をヤマトに託す。その理由の1つがGWの存在だった。

 半導体業界は年々、短納期化が進む。生産管理を担う山内部長も日々、ストップウオッチ片手に製造工程を見直していた。だが工場は既に秒単位で管理され、これ以上合理化できる余地は少ない。ほかにリードタイムを縮められる手はないか。悩んでいた山内部長に、ヤマトはこう持ちかけた。「部品の配送を変えれば、輸送時間は30~50%短くなりますよ」(ヤマト運輸法人営業部の小菅泰治部長)。

 熊本工場では国内約300カ所から部品を調達している。だが取引先の配送方法や配送時間はバラバラで、納入までのリードタイムもまちまち。そのため同社では、倉庫に大量の予備部品を確保して不測の事態に備えていた。

 ヤマトの物流ネットワークを活用すれば、それらの多くが不要になる。ヤマトのセールスドライバーが取引先に出向き、部品を集荷して宅急便のネットワークに乗せる。熊本県内にあるヤマトの物流センターで、日本各地から集まった部品をまとめ、一括して熊本工場に送る。これだけで配送期間は、かつてよりも1日以上短縮されるのだ。

 さらにGWがフル稼働を始めれば、リードタイムは一層、短くなる。ジャスト・イン・タイムで工場に部品が届けば、製造工程が滞ることはない。物流過程で短縮した1日を、品質検査などに使うこともできるだろう。何より過剰な在庫を抱える必要がない。

 「同じ課題を抱える中小企業は多いはず。我々が製造前後の物流を担い、モノの流れ方を根底から変える」(木川社長)。そのためには宅配便のイノベーションが欠かせなかった。「宅急便の誕生以来のイノベーションを起こす」。こう宣言し、ヤマトは新たな物流ネットワーク構想をぶち上げた。総投資額は実に2000億円。その仕掛けの1つがGWだ。そして一方では、アジアや世界と日本をつなぐグローバルな、「超速」革命が始まっている。

沖縄がアジアのモノ作りの拠点に

 日本最南端の航空貨物ハブ、那覇空港。全日本空輸(ANA)が貨物ハブを運営するこの地に、ヤマトは「沖縄国際物流ハブ」を開いた。ANAと組み、日本とアジアを結ぶ宅配便サービスに乗り出したのだ。その第1弾が、宅配便の「アジア翌日配送」だった。

 日本各地で集めた荷物を夜、主要空港から沖縄に運ぶ。深夜に通関を済ませてアジア向けの便に移し替えれば、翌朝には香港、台北などの都市に荷物が届けられる。ここでもヤマトは、荷物を流す工程で付加価値をつける。

 その一例が、那覇空港の隣に建つ「パーツセンター」だ。8月、センターの開所に合わせてこのビルには東芝自動機器システムサービスが入居した。

 同社は、海外の銀行などに向け自動紙幣処理機の保守部品を販売している。緊急性や機密性の高い製品だけに故障は許されない。そのため今までは海外各地の販売会社が、自前でメンテナンス部品を大量に保有していた。処理機1台に必要な部品は約100種類。電気ケーブルから直径数cmのバネまで、種々雑多な部品が必要になる。それらすべての在庫を抱えることは、販売会社にとって大きな負担となっていた。

 だが8月以降、保守部品の一部はパーツセンターに集約される。各国から注文が入れば、沖縄で部品をピックアップし、梱包して海外の販売会社に送る。今までは到着までに3~4日かかっていた部品を最短2日で届けられるのだ。販売会社が持つべき在庫は大幅に圧縮できる。

 さらに今後は、このパーツセンターを沖縄のモノ作りの拠点にしようと目論む。パーツセンターは新特区「国際物流拠点産業集積地域」内に位置し、保税エリアもある。ここに技術者を集め、アジア各国から戻る製品や部品を修理し、返送すれば、関税は不要だ。「アジアの専用修理工場が不要になれば、技術やノウハウの流出も防げる」とヤマト運輸法人営業部の久保俊成マネージャーは利点を挙げる。

 「この沖縄ハブと3つのGWを組み合わせれば、沖縄をアジアの製造拠点とすることもできる」(木川社長)。GWのネットワークを使って日本国内から集めた部品をパーツセンター内で組み立て、輸出する。アジア各国で調達した原料を、パーツセンターで「日本製」にしてアジアの富裕層に売る。カントリーリスクにおびえながらアジアに出る必要は、もはやない。

国内、アジア、世界を速く、密につないでいく

ヤマトホールディングスの最新物流拠点

「集大成」がついに動き出す

 モノの流れを根底から変える。ヤマトの試みの集大成が、9月20日に完成する。羽田空港に隣接する「羽田クロノゲート(CG)」だ。

 日本最大級のこの多機能物流ターミナルには、厚木GWと同じ最新のマテハン機器が入り、沖縄国際物流ハブのような付加価値エリアも備える。

 海外から届いた製品の修理・検査を済ませてすぐに返送したり、海外から届いた商品に日本語ラベルを貼って小売店へ運んだりすることもできる。

 高速で荷物を往来させる3つのGWと組み合わせれば、日本各地から集めた部品を宛先別に集約・同梱して、いち早く世界に送ることも可能だ。

 「モノを流しながら価値を高める物流を目指す」と木川社長は語る。

 ヤマトは日本と世界の物流結節点となる羽田CGで、未来型物流ターミナルを1つの形にしようとしている。

 2020年の東京五輪に向けて、日本とアジア、日本と世界を往来する荷物の量は飛躍的に増えるだろう。急増する物流量にヤマトはどんな価値を添えるのか。東京五輪は、高度かつ緻密に進化した最先端の日本の物流サービスを、世界に披露する機会にもなる。

日経ビジネス2013年9月16日号 32~36ページより

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