経営者が嘆くコスト高の原因の大半は社内の組織にある。組織はできる限り簡素にし、現場に権限を委譲。結果責任を問う形に。本社も規模を抑制し、現場支援専業に。変革はオフィスにも及んだ。

(写真:竹井 俊晴)
松本 晃(まつもと・あきら)氏
1947年京都市生まれ。72年4月、伊藤忠商事入社。86年10月に医療機器販売の子会社へ。93年、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人へ。ジョンソン・エンド・ジョンソン社長、最高顧問を経て2009年6月からカルビー会長兼CEO。

 私と話すと意外そうな顔をする方がいます。2009年6月にカルビーの会長兼CEO(最高経営責任者)に就任した後の約3年間で、それまで停滞していた業績を売上高で約3割増、営業利益で3.6倍にしたから、さぞ特別なことを話すだろうと期待していたら、当たり前のことしか言わないからです。

 例えば私はこう言います。「かつて生産者の力が強かった時代は、『コスト+利益=売値』だった。だが、今やそれは逆になった。消費者が値段を決める時代だ。だから『売値-利益=コスト』で考えなければいけない」と*1。もちろん、これは社内にも繰り返し言い続けています。でも、今さらこんなことは当たり前ですね。別に目新しい理論ではありません。

 カルビーのコストが高すぎると思い、本社で原料や資材の集中購買を始め、設備投資を絞った話をすることもあります*2。営業利益が大幅に増えたのは、前回も説明したように販売と生産の改革で売上高を伸ばしたことに加え、集中購買などでコストを削減した結果です。でも、集中購買も設備投資の絞り込みも、普通の方法ですね。これも別に目新しくはありません。

ライバルの3倍作ってもコスト高

 では、なぜカルビーは当たり前の理屈に気づかず、当たり前のコスト削減ができなかったのでしょうか。私は、社内の組織が当たり前のことに気づかないほど機能不全に陥っていたからだと思っています。

 これはカルビーが抱えていた重い課題ですが、皆さんの企業にも多かれ少なかれ存在する問題だとも思います。そこで今回は組織こそがムダを生む根源であるという話をしましょう。

 まず下の図を見てください。「以前」として載せたのが、私が会長に就任した頃の組織図です。2001年7月から続いてきたもので、各地域ごとに地域を統括するカンパニーを置き、営業と生産を管理していました。そして、これとは別に横串を刺すように商品を全国で見る商品別カンパニーも設けていました。一部のコンビニエンスストア向けについては、個別に商品開発をしていましたが、全体として言えば、縦割りと横串を組み合わせたいわゆるマトリクス組織です*3

権限のはっきりしないマトリクス組織から簡素な事業本部制へ――カルビーの組織改革図
(出所:カルビー資料を基に本誌作成)

 これは、1980年代末から90年代にかけて欧米で注目を集めた形態でした。例えば、営業や生産については、地域会社に地元の状況に応じた分権的な管理をしてもらう。その一方で、商品開発・マーケティングなどは全体最適の思想で管理する。それによって、全社として見た場合に商品の種類や開発コストが増大しすぎないようにするといったものでした。

 確かに理論的で科学的なのです。しかし、私は会長就任の翌年春には今の組織に変えました*4。最も大事なことに対応できていなかったからです。最大の問題は利益責任が地域と商品カンパニーの両方にあったことでした。そのため、利益が予定通り上がらなくても、誰も重く考えないし、責任も取らない。当然、いろんな課題があっても積極的に手を出そうとしませんでした。

 当時のカルビーの課題は原価が高すぎることと、販売を伸ばせなくなっていることでした。原価率は2009年3月期で約65%に達し、2番手企業より約8ポイントも高かった。当社の売上高はそのライバル企業の3倍、つまり生産量も3倍あるはずなのにこれは一体どういうことでしょう。

 また、工場や研究所などへの設備投資も多すぎて減価償却費は83億円にも達していました*5。こちらは2番手企業の6倍超です。規模から見ても投資過多だし、当然、利益は大きく圧迫されてました。

理想の財務構造を目標に置く

 私は、組織は作った瞬間から硬直化が始まると思っています。

 例えば、以前の組織では、工場によって商品のシーズニングや、包装材、段ボールなどについて規格が異なるものを使っていました。ポテトチップスの同じ味の製品でも、包装材の規格が異なることもあったのです。

 包装材などの規格や供給元企業の選定は各商品カンパニーがやっていたのですが、その中での管理が十分でなかったことなどから、こんなことが起きていたのです。さらにメーカーへの発注も、工場ごとにバラバラでした。これだけでも大変なムダになるうえに、廃棄ロスも膨大でした。すぐに気づくムダのはずですが、誰も本気で手をつけようとはしなかったのです。

 これについては、先ほどお話ししたように、資材や原料などを集中購買に変えました。加えて資材などの規格を統一。一部の原材料では従来、加工費の高いフリーズドライ品で生産していたものを、安い熱風乾燥品に変えるなどきめ細かい削減策を徹底してコストを大幅に下げました。

 少し考えればおかしなことだと分かるのに、なぜ変えられなかったのでしょうか。マトリクス組織で、利益責任が明確でなかったことは大きいでしょう。地域、商品カンパニーのそれぞれが利益を何とか上げようとすれば、もっと改善したはずだからです。

 でも、私はマトリクス組織のせいだけではないと思うのです。資材の規格が異なることや、発注がバラバラなのも現場から見れば、それが自分たちの「最適」だし、権限でもあります。

 人は権限が好きだから、通常、自らそれを捨てようとはしません。そして、やがて目の前の権限を維持・拡大しようとするようになるものなのです。この時も、全社的に見ればおかしいと気づいた社員もいたかもしれません。でも、弊害があることにはっきりと気づかなければ、そのままになってしまうものです。それは、どんな組織でも同じではないでしょうか。

 私がやったことの1つ目は、社員の意識を変えることでした。そのために、まず目標を明確にしようとしました。当時のカルビーの最大の問題は、高い原価。だからまず原価を落として、「カルビーの財務構造を世界の食品メーカー並みにしよう」と言い始めました。下の表がそれです。約60%の原価率を50%に下げ、販売管理費も落として営業利益を倍以上にするというものです。私はこれをファイナンシャルスタンダード(FS)として掲げ、最重要目標としました。

 FSは会社の事業構造のあり方を数字で示したもの。世界では当たり前の売上高営業利益率15%を達成するために、このFSを目標に会社の仕組みを変えていこうと訴えました*6

 FSを実現するためには、前回お話ししたシェア拡大と生産効率向上の好循環が生む原価低減だけでは無理。もう一段の原価率引き下げが必須です。私は原価率の目標を社長と「契約」し、社長は各地域事業本部の責任者など幹部と「契約」しました。一方で、彼らに権限も委譲しました。もちろんできなかった時の義務(責任)もセットです*7。ここで重要なのは、組織と人に会社との契約の概念を持たせ、責任意識を植えつけることです。

社内から部や課を“追放”

工場の稼働率は上がったが、もう一段の原価低減に全社で取り組んでいる(写真は湖南工場)(写真:山田 哲也)

 一方、本社については人数を絶対に増やさず、「現場に対する公僕になれ」と言っています。本社の仕事は支援だけで十分です。

 本社でやっていることの1つは、プロジェクトチーム(PT)を作って、現場の問題を解決すること。PTのメンバーは、テーマに関連する部署の現場と本社の社員です。例えば、工場の稼働率は、ここ3年の売上高増で上がりましたが、さらに向上させるために、昨年春から稼働率向上PTを新たに作りました。

 各工場には、季節によって稼働率が下がる時期があります。その時期に、域内工場の生産品目を柔軟に変える、地域の小売店のプロモーション活動に乗るなど営業と一体で動く体制を作る、といった方策を考えるのです。現在、こうしたPTが数十はあります。

 2つ目にやったのは、組織を揺り動かし続けることです。組織は常に揺さぶっていないと活性化しないからです。

 例えば、かつて営業には「鮮度調査」の部隊がありました。店頭で当社製品が出荷からどのくらい置かれたままになっているかを調べ、新しいうちに売るよう促す仕事です。確かに鮮度は重要ですが、たくさん売れれば店頭の商品は自然に回転するわけですから、本来は必要ありません。組織が固定化し「店舗営業はこんなもの」という誤った常識がまかり通った結果です。常識は揺さぶらないと変わらないのです。

社員の席は毎朝、専用ソフトで決まる。全く異なる部署の社員と毎日、隣り合わせで仕事をすることで、組織が硬直化するのを防いでいる(写真:柚木 裕司)

 私は組織を活性化させるために、より物理的な“組織”も破壊しました。当社は2010年に本社を移転しましたが、その際に部・課ごとに机を並べる一般的なオフィスをやめ、毎日、各社員の座る場所が変わるフリーアドレスのオフィスにしたのです*8

 部や課が固まって存在すると、そこに人が安住します。すると、営業がいつの間にか鮮度調査隊の管理係になってしまったように、本来あるべき姿から離れてしまっていても疑問を抱かなくなってしまうのです。やはり組織は常に壊し続けなければなりません。

(構成:主任編集委員 田村 賢司)


*1 消費者主権という言葉は既に1960年代後半からあった。80年には米国の未来学者、アルビン・トフラー氏が著書『第3の波』で「企業が売りたい製品を売る時代は終わり、消費者の意向が製品を変えていく」と予測した。先進国経済の成熟化とともに90年代から形となって表れ、商品の価格、規格とも消費者の嗜好が製品を動かし始めた。21世紀のインターネット時代にその傾向はさらに強くなった。該当本文に戻る
*2 カルビーの購買はかつて、本社の開発部門や工場が本来の業務に関連する副次的な業務として担当していた。このため、同じ製品なのに包装材などで異なるものを使うようなこともあった。松本会長は新たに購買部・馬鈴薯調達課を設けて、原材料や設備、包装材、資材などの集中購買を始めた。スケールメリットを出し、過剰品質の是正をはじめ、購買改革は多岐にわたった。該当本文に戻る
*3 マトリクス組織で著名なのが、スウェーデンとスイス企業が1988年に合併して誕生した欧州のエンジニアリング会社、ABB。当初から、世界各地にある持ち株会社と傘下企業で縦の管理を行う一方、事業分野ごとに世界一体で見る横の管理を組み合わせる組織構造を取った。いったんは成功したとされたが、指揮系統が不明瞭になるなどの問題が増大し、90年代末に解消している。該当本文に戻る
*4 松本会長が2010年4月に新たに作った組織は、簡素化と本社は地域支援に徹することを基本にした。マトリクス時代の7地域カンパニーをさらにまとめて、全国を4事業本部とし、権限を委譲し、裁量の幅を広げた。こうした組織とは別にテーマ別のプロジェクトチームも設け、本社と現場が一体で問題に即応する体制も作った。該当本文に戻る
*5 カルビー文化の底流には品質と鮮度を上げていけば、商品は売れるという思想があったと言っていい。その結果、全国に17の工場を設け、地産地消的な生産体制で鮮度を上げることも厭わなかった。「昔は設備投資案件が否決されるのを見たことがない」(ある執行役員)とさえ言われるほど。過剰設備投資的な甘さが減価償却費を押し上げ、長い間利益を圧迫していた。該当本文に戻る
*6 松本会長は、「現代は『売値-利益=コスト』だ」と言う。これは消費者の買いたい価格からカルビーが取りたい利益を引いて弾き出されるコストに、企業の仕組みを合わせていく、という考え方を示している。また、世界の食品メーカーと対等に戦えるようになるために15%の営業利益率は必要と考えているようだ。ファイナンシャルスタンダードは、その思いに合わせて企業を作り替えるための指針だ。該当本文に戻る
*7 この連載の第1回に掲載した松本会長の「10の考え方」の1つに「人の評価はFairに」がある。松本会長が常に重視するのは、仕事は会社と個人の契約であるということ。曖昧でなく、達成すべき目標を設定し、契約する。そして、成果を数値化してシンプルに評価することが大事だという。また、契約の成果はプロセスではなく、結果責任であるということも重視している。該当本文に戻る
*8 松本会長のオフィスの変え方は徹底している。社員は全員、毎朝、その日の席が決まり、そこで仕事をする。会長、社長、執行役員も個室などはなし。フロアの中で一緒に仕事をする。2010年に移転する前は自社ビルだったが、それも売却し、複数階だったオフィスを1フロアにした。これも「ヒトは縦の移動を面倒がる」(松本会長)からだという。すべて機敏に動いて、対応できるようにしている。該当本文に戻る
日経ビジネス2013年9月16日号 96~99ページより目次