今回の小説では、墨田区の下町に住む73歳の元銀行員とつまみ簪(かんざし)職人、幼なじみ2人が主人公ですね。

略歴:1976年生まれ。『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞受賞。『舟を編む』で本屋大賞受賞。『神去なあなあ日常』『風が強く吹いている』など。
(写真:平松 梨沙)

 たまたま乗ったタクシーの運転手さんから聞いた話で決めたんです、主人公2人の年齢。男の60代って仕事と人生が一段落して結構ぽっくり逝っちゃう方が多いらしくて、その危ない時期を乗り越えて70代になると、もう一度まっさらな思春期が戻ってくるらしい、と。戦争も知っている世代だから、戦火に包まれた記憶があって、今と未来を見つめる目も持っている。

 じゃあ、舞台は古い時代の匂いが残る、職人さんが住んでいて水路があるような、墨田区の架空の下町にしよう。文楽好きなので、主人公の片方、源は文楽人形や和装の女性を飾るあでやかな布細工のつまみ簪の職人に。源は妻を亡くしていて、若い弟子がいて、髪の毛をピンクに染めたぶっ飛んだ爺さん。もう1人の主人公、政は元銀行員の堅物で妻子はいるけれど、妻は嫁いだ娘の家に出ていってしまった。そこまで設定を決めると、後は書いていくうちに政と源が小説の中で動き出してくれました。